定着から放浪へ 放浪から定着へ

自転車の旅、そのほかの旅について書いています。

2006年7月26日 Byers Lake

テントから這い出すと外は快晴だった。まさに昨日の雨が嘘のような晴れ模様だ。
キャンプ場を流れる川が目に眩しい。

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昨日は天気もいまいちで気分も乗らなかったが、今日は楽しんで走れるだろう。


調子に乗ってキャンプ場の風景をデジカメで写真を撮っていたが
不注意で落としてしまい、液晶が割れてしまった。なんてことだ。

ただ液晶がダメなだけで、写真自体は撮れているようだったので
結局、液晶が壊れたまま最後まで使用した。


カメラのことは忘れることにしてテントをたたみ、自転車に荷物を着ける。
数ヶ月前にニュージーランドを旅していたおかげで、朝の撤収作業もスムーズだ。

作業しているとドラマか何かに出てきそうなちょっとポッチャリした少年が話しかけてきた。
昨夜、私が寝付いてからやってきた隣の家族連れの少年だ。

"Are you  a biker?"

アメリカ英語だと自転車乗りは「biker」になるのか。
ニュージーランドでは「cyclist」と言われたものだが。

「そうだよ。自転車乗りだ。デナリとフェアバンクスまで行くんだ。」

この時は
「そうだ、デッドホースまで、北極海まで行く。」 とは言えなかった。

初日でアラスカのスケールに圧倒されてしまったのかもしれない。
中途半端な答えをしてしまったものだ。

少年の横にいた母親が
「おはよう、きのうデナリに行って来たのよ。
デナリで買い物すると高いから手前のキャントウェルで買い物するといいわ。
あなた、アメリカンフードは好き?あのあたりならハンバーガーも安かったわよ。大きいやつね。」
大げさな身振りをしながら教えてくれた。

この先に会った多くの人々もいろんなアドヴァイスをくれた。
自転車旅をしていると、こうしたことが本当にありがたい。

少年と母親に別れを告げ、走り出す。

道はやがてTalkeetnaとの分岐に行きあたる。
タルキートナは小さな飛行機会社がいくつかあり、
マッキンリー登山の基地として有名だが、そこから先は道がない。

私はそのままParks Hwyを北上した。



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アンカレッジからフェアバンクスに抜けるParks Hwyの上を走り始めて見えたのは
野田知佑の世界でも星野道夫の世界でもなかった。

パークスハイウェイの上には「アラスカ」という大地に作られた「アメリカ」があった。

無駄に大きい車。
森をぶち抜いてまっすぐに作られた道。
カフェには薄いコーヒーとハンバーガー、脂っこいブレックファースト。

私は大きな勘違いをしていたようだ。
アラスカはやはりアメリカという前提をとっている。とくにハイウェイの上では。
後にこの認識は間違いではなく、川を旅した男たちは私と違ったアラスカの世界の話をしてくれた。
特にこのParks Hwyは南部の都市アンカレッジと中部の都市フェアバンクスを結び、
なおかつ北米最高峰のマッキンリーを有するデナリ国立公園を通るのであるから当然と言えば当然であった。

一方、フェアバンクスから先は確かに荒野と辺境があった。
それはしばらく先の話だ。

Parks Hwyはデナリの付近まで森に囲まれた単調な道が続いた。
そんな道を走っていると人生の悩みが頭をもたげてくる。 

これまでの旅とこの今の旅。
旅の後の生活。

様々な不安を打ち消すために逃げ出すように私はこの旅に出たのだろうか。

それともいつの頃からか私の夢となったアラスカの地を
自分のやり方で旅がしたかっただけだろうか。

分からない、答えの出ない同じ問いが何度も何度も頭の中を巡る。


ふいに視界が開け明るい湖が見えた。


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悩むこともこの先たくさんあるだろう。
今はただ、この景色を、旅を楽しもう。

世界のあり方は自分の世界の見方に託される。
いくら悩みがあってもこの美しい世界を否定できるだろうか。


などと真面目なことを考えていてもずっと自転車で走っていればお腹が減ってくる。

湖を回るように走ると「His & Hers Lakeview Lounge & Restaurant 」というお店があったので
入ってみる。

コーヒーとクラシックバーガーを注文。
窓の向こうに湖が見える。

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 コーヒーは相変わらず苦笑してしまうほど薄かったが、バーガーは抜群に美味しかった。


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充実した食事を済ませると再び走り出した。 



何気なく川に架かる橋を越える。

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後にフェアバンクスでお会いする渡邉さんという日本人を不幸のどん底に落とすのが
おそらくこの川だ。

およそひと月後、アラスカ史上まれにみる大雨が降り、橋が崩落してしまう。

レンタカーでフェアバンクス方面からアンカレッジ方面に向かっていた渡邉さんは
迂回路のほとんどないParks Hwyをここで寸断され、
フェアバンクに戻り、東回りでアンカレッジ方面へ抜けたという。

おかげで渡邉さんは日本半周ぐらいアラスカをドライブする羽目になったそうだ。

私は帰国した渡邉さんからそのメールをもらったとき半信半疑だった。
とてもそんなやわな橋だった印象が全くなかったからだ。

参考ブログ
http://yukon780.blog.fc2.com/blog-category-13.html

↑渡邉さん(婿入りされて河合さんになった)のブログはかなりおもしろいので
ぜひ読んでもらいたい。

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 さらに北に進み途中のTrapper Creekのゼネラルストアで食料とコーラ、ポストカードを買う。
店を出ると外でキャンピングカーに乗っていた男性に話しかけられる。

「さっき、途中で君を追い越したんだ。この明るい布がとても目立って安全でいいね。」と言ってくれた。

私は自転車の後部の荷台の上に大きなバッグを載せていたが、
そこに蛍光のベストを巻きつけてあった。

これまでの旅では車に対する配慮をほとんどしてこなかったが、
ニュージーランドをしばらく共に旅したスイス人が、向こうで別れた後、
交通事故に合い、自転車でしばらく走れなくなったことから私も注意するようになった。

また彼女はいつも私が黒い服を着ていたの思い出し、明るい色の服を着るように言っていた。
彼女は私より20歳近く歳が上で、よくいろんなことを心配してくれた。
彼女は元気だろうか。


道はやがて登り基調になる。
アンカレッジから132マイル。ここから北はデナリ州立公園になる。

ときおりデナリの山々が遠くに見える。
この日はアンカレッジから147マイルのところにあるByers Lakeのキャンプ場に泊まることにした。

キャンプサイトの入り口には水場があり、綺麗で冷たい水があふれていた。
頭から水をかぶる。なんて気持ちがいいんだ。

人気のキャンプ場なのかけっこう先客がいたが、サイトが広いので殆ど気にならなかった。
 それよりも「数日前にトレイルをブラックベアが歩いていたので注意!」
という看板のほうが気になった。

私が使っていたガイドブックにも
CAUTION:Bears frequent campground.Keep a clean camp」とある。

ここは鉄製のフードコンテナがあって、食料はそこに入れるようになっていた。
アラスカの公のキャンプ場はこういうパターンが多い。
一方、個人経営のキャンプ場は夜間、食料を経営者の家で預かってくれる。

 

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夕食を済ませ、ベイヤーズ湖畔を散歩する。
実はもう夜9時くらいなのだが、白夜に近いこの時期は夜中まで明るい。
本当に美しい湖だった。
 
ウィスキーを飲みながらしばらく湖を眺めた。
 
 

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この日の出費

H&H Lakeview Lounge & Restaurant 11.75ドル
Trapper creek Generalstore 3.5ドル
ジュース 2ドル
コーヒー  1ドル
キャンプ場 10ドル

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