定着から放浪へ 放浪から定着へ

自転車の旅、そのほかの旅について書いています。

リス、ブラックベア、白頭鷲  2006年8月17日

朝目覚めると、外は曇り模様。
テントを畳むとキャンプ場のオーナーの家の玄関を叩いた。
昨日の夜、食料の入ったバッグを預けたのだ。
私営のキャンプ場でクマが出る恐れがあるところで
ソフトシェルのテントで泊る場合は当たり前のことだ。
 
 
 食料の入ったバッグを受け取るとキッチンスペースでコーヒーを入れるため湯を沸かす。
 
朝食の支度をしているとリスがやってきたので、かわいいな、
とその様子を見ていたらマーガリンの入れ物を齧りはじめた。
 
 「コラ!」と私が手で追い払うとどこかに行ってしまったが、
すぐに戻ってきて今度はトーストを持って行こうとした。全く油断ならない。
 
 
いたずら者のリス。リスぐらいならかわいいものだが。。
こういう動物はどこにでもいる。
 
きっとキャンプ場の客にエサをもらっているのだろう。
 
安易な考えで野生動物にエサをあげてしまう軽率な人間にうんざりする。
ちなみにこの旅の数年後訪れたオーストラリアのタスマニア島では
国定公園の駐車場でワラビーにカツアゲにあいそうになった。
人慣れした野生動物が一番危ない。 
 
 
居心地のよかったキャンプ場を後にし、Portage Glacierへ向かう。
天気は相変わらず、曇りだ。

ただ道も舗装路で走りやすく、自転車で走るには悪くなかった。 
 
Portage Glacierに続くトンネルの手前で前からやってくる車が
窓を開けて私に何か叫んでいた。

なんだろう?と思っていたが次に来た車の人の声がはっきり聞こえた。

"Be careful!Bear!"
 
 
私は思わずブレーキを掛け止まった。 
 
 
クマ! 
 
 
ブラウンか!ブラックか!

いずれにせよマズイ。

どうしたものか…引き返すか。
道を横切っただけでもういないかもしれない。
いや、むしろこちらに向かってるかも。

一瞬パニックになりながらもとりあえず、
サイドバックのポケットからベアスプレーを取り出し、
レインジャケットのポケットに差した。 
 
少し迷った後、結局そのまま進むことにした。


果たしてクマはいた。 
 
 
 
ブラックベアだ。
 
 
 
なるほど、ブラウンベアとは明らかに違う。背中にコブがない。
何より大きさが違う。遠くてよくわからないがあれは子グマのようだ。

それにしてもあの至近距離で写真を撮っているオッサンは大丈夫なのか?
 
 


森から出てきたブラックベアの子供


私がひとりであたふたしている一方で
クマは特に周囲に気にするわけでもなく、悠々としていた。

そのときはさっぱり気が付かなかったが、写真を見るとあのとき周囲に観光客が写真を撮っていたのがわかる。車の観光客はのんきなもんだ。


とはいえ私も写真が撮りたいので、無謀なオッサンのうしろから写真を撮った。
ビビりすぎだとバカにされるかもしれないが、
至近距離で写真を撮っているオッサンがどうかしてるのであり、
これまでクマやオオカミの恐怖の中で旅をしてきた私からすれば、この距離が限界だった。

正直、万が一の際は、オッサンが襲われるのが先だと思っていた。

写真を撮り、カメラをハンドルバッグにしまうとペダルをいっきに踏み、
ブラックベアの前方を通り抜ける。

ちょうどブラックベアのいる茂みの前を横切るとき、茂みの奥にもう一頭見えた。
手前のよりずいぶん大きかった。母クマだろう。

私は興奮状態のままトンネルを抜け、Portage Lakeへ。


 


 

Portage Lakeから見える氷河は立派なものだったが、数ヶ月前にニュージーランドのFox GlacierとFranz Joseph Glacierに相次いで登った後だったので、氷河を見た!という感動はあまりなかったが、海に氷河のかけらが浮かんでいるのを見つけて、おぉっと思った。




湖畔のビジターセンターに行く。
ビジターセンターにはクマの警告とエサを与えるなという注意。
それから周辺の街の気象予報。

まぁお約束の光景だ。


赤白の線がスワードHwy。赤の線がJohnson Pass Trail

カウンターの女性にJohnson Pass Trailの情報を聞く。
このトレイルはちょうどスワードHwyから分岐し、再びスワードHwyに戻る道で
帰国までの限られた時間で寄り道にならないいいルートだった。

ニュージーランドではいいトレイルを走ることができたのでもし行けるならアラスカのトレイルも行きたいと考えたのだ。


そこでそもそも自転車で行けるか確認したかったのだ。
場所によっては自転車禁止の場合もある。

「自転車でいけるかって?あなたマウンテンバイク?なら大丈夫よ。」と
その女性はあっさり言った。


いいじゃないか。

私はビジターセンターを後にした。


風はback wind。しばらくいいペースで進む。


河原のビューポイントで川をみると中州に大きな猛禽類が見えた。


白頭鷲だ。


 


大きい。数百メートル離れているはずだが、
その大きさと無駄のないしっかりとした躯がはっきりとわかる。

アラスカで見ることができるとは全く考えていなかったので
この出会いには単純に感動した。私はこの出会いに感謝した。


しばらくして白頭鷲は翼を広げた。
翼を広げるとさらにその大きさが際立った。

一度大きく羽ばたくとそのまま川の上を低く飛び去って行った。

私は白頭鷲が見えなくなるまで見送った。




Johnson Pass Trailの入口に来る。
道はいわゆる普通のトレイルだ。登山道の入り口といってもいいかもしれない。


荷物満載のマウンテンバイクで数百メートル走っていくと思ったより走りにくい。
荷物がなければいけるような気もするが、この状態では難しそうだ。

いつか純粋にマウンテンバイキングをしにこのトレイルを走りたいな、と思った。
アンカレッジから比較的近くてアラスカ鉄道も走っているから短期間でも行けそうだ。


そう思って引き返そうとすると大きな糞が数個転がっていた。

大きい。ムースかクマか。この際どっちでも結論は変わらない。
「ハイウェイに戻るか」 私はハイウェイに戻った。



その後はハイウェイはしばらく登りが続いた。そして追いうちをかけるように雨が降り始め気が滅入ってくる。

辛いからと言ってペダルを踏むのを止めれば先には進めない。
だましだまし走る。


Summt Lakeというところでレストランがあったので休憩。
コーヒーとチーズケーキを注文する。


 
数ヶ月前、ニュージーランドを一時ともに旅をしたスイス人が
「シマ、あなたいつもチーズケーキばかり食べているわねぇ」と言っていたのを思い出した。

彼女は今どうしているだろうか。
また手紙を書こう。


レストランで支払いをするとき、チップのことをさっぱり忘れていたが
「釣りはいるか」と店の若い男性に言われ「要らない」と答えた。
こういうどうでもいいことははっきり覚えていたりするものだ。


サミットレイクから今日の目的地Moose Passまでは下り基調。
気合を入れてペダルを踏む。





ムースパスに到着。
キャンプ場での支払いをしようとすると小銭がなくて払えず、
向かいのジェネラルストアで買い物してお金を崩す。
ここは感じの悪い店だった。一日走って疲れたあとにはよくない。

ただ、その前に寄ったリカーストアの年配の女性は感じがよかった。
妹が沖縄生まれらしい。


キャンプ場は森の迷路のような作りで、水場が見つけられなった。
疲れていたので水場はあきらめ、今朝、昼食用に作ったサンドイッチの残りと
インスタントラーメンで夕食を済ませ、ビールとウィスキーの時間へなだれ込んだ。


本格的にアラスカで走るのは明日が最後になる。
天候は相変わらずのようだが後悔しないよう走りたいものだ。

 
広告を非表示にする