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定着から放浪へ 放浪から定着へ

自転車の旅、そのほかの旅について書いています。

NewZealandへ -Cycling NewZealand -

 
 
 
 
 
 
 
 
 

勤めていたホテルを辞めて旅に出たのは
ちょうど10年前だった。

私が目指したのはニュージーランド

いつか海外を自転車で旅がしたい。
ずっとそう思っていた。

10年前の旅が自分にとってどんな時間だったのか。

記憶が完全に風化してしまう前に
昔の日記やガイドブックを読み返し、そのときのことを振り返ってみたい。


**********


当時、勤めていたホテルにはワーキングホリデーで
ニュージーランドやオーストラリアに住んでいた先輩が何人かいて、
深夜の勤務時間によくそんな話を聞いた。

そのうちニュージーランドに行ってみたい、
いつか自転車で海外を旅してみたいという長年の想いが抑えきれなくなっていた。


職場の先輩の後押しもあり、2005年の暮れ、上司に仕事を辞めることを伝え、
2006年2月、学生時代から旅をともにしてきたマウンテンバイクとともにニュージーランドへ飛んだ。



空港まではホテルの先輩が送ってくれた。
私が仕事を辞めることを一番残念がってくれた人だが、一番応援してくれた人でもあった。

この先輩はワーキングホリデーでニュージーランドに住んでいたことがあり、
海外経験を積む必要性や、ニュージーランドのすばらしさについて、
仕事の合間によく語ってくれた。
もちろんホテルの仕事も、ほんとうによく教えてくれた人だった。


チェックインを待つ間、二人でコーヒー飲んだ。
先輩は細々したことまで、いろいろ心配してくれた。
少し鬱陶しく感じてしまうほどだったが、今ならあのときの先輩の気持ちが分かる。
私が逆の立場なら同じようにしただろう。


出国手続きのゲートで先輩と別れた。

「シマ、GOOD LUCK!」

私は振り返り、小さく手をふった。



長いフライトの後、やがて眼下にニュージーランドの大地が見えた。

青々とした緑が一面に広がる広大な大地。

その緑の中に細く伸びる一本の道が見えた。

あんなところを走るんだ。じわじわと期待が膨らんできた。


到着したのはニュージーランド北島北部に位置する最大の都市オークランド

空港で入国審査。

ニュージーランドは検疫が厳しいらしく、
植物や土を持ち込ませないため、
持っていたテント、タープは一旦全部、洗浄にかけられてから戻ってきた。

自転車の入った段ボールを受け取り、空港の外に運び出した。
すると、空港に自転車を組み立てるスペースがあった。



すごいな。それだけ自転車を持ってくる人が多いということだろう。



自転車の組み立てをし、インフォメーションで町の中心部への行き方を聞く。
ついでに自転車の入っていた箱の処分を頼んだ。


まずはオークランドの中心部へ。

学生時代のツーリングから数年ぶりの荷物を満載したマウンテンバイクは
これでもかというほど重かった。



初めて自分の目で見る海外の景色。




建物、横を走り抜ける車、道路の標識、時折晴れ間を見せる空。

目に映る全てが刺激的だった。そしてまたそれらは不安でもあった。


右も左も分からない私は、とりあえずと勤めていた会社の先輩がオークランドを訪れた際、
泊まったところと同じバックパッカーを目指した。
(※バックパッカー:相部屋の安宿。一泊2,000~3,000円程度で共同キッチンやリビングが使える。)



バックパッカーは街の中心部、クィーンストリートにあった。


バックパッカーに着くとラウンジに多くの若者が楽しそうに話していた。



みんな何だがとても熱く、エネルギッシュに会話をしていて
不安だらけの私はその勢いについていけず、見ているだけで疲れを覚えた。


相部屋のベッドを確保し、ボーっと地図を眺めていると、
やがて大きなバックパックを背負ってやってきた白人の男性が話しかけてきた。

彼はドイツ人で、名前はマーティン。
これからビーチで泳ぎに行くんだ、と嬉しそうに言った。


みんな、目的決めて来ているんだな。

自然に楽しそうにしているマーティンが眩しく見えた。

私は?走ること以外何をしたらいいのか分からない。

私はとりあえず、自転車で遠くに行くことしか決まっていない。
旅のあとのことはもちろんのこと、オークランドの次にどこへ向かって行くかすらも決まっていない。


私は何をしているのか。
私は何者なのか。


眠る前書いた日記に書いてあった。


こうした不安はどう考えてみても拭えない気がした。



翌日、街で食料の買出しなどをし、宿に戻る。



自分から動かないと、何も変わらない。
話せない英語でも話しかけていこう。
自分の世界のありかたは自分にしか変えられない。


この一日、全く話さなかった私の向かいのベッドにいた青年に勇気を出して話しかけた。
ろくにあいさつもしない彼のことを一方的に感じの悪いやつだなと思っていたが、話してみるといいやつだった。

彼からすれば、私の方がそう見えたかもしれない。

彼の名はヤン。ノルウェーから来たという。

私はヤンを飲みに連れて行こうと思い、つたない英語で誘った。
始めはなかなか理解してもらえなかったが、何度か話しているうちに理解してくれた。


宿から近いバーに入り、ビールを飲みながらヤンと話し始めた。
ヤンは現在22歳。大学で何か理系の勉強をしているそうだが、何をやっているかはよく分からなかった。
ヤンはこれから仕事を探して、それからニュージーランドを回る予定らしい。


とても上手に話せたとは言えないが、お互い笑顔で宿に戻った。


出来るところから少しずつ。ささやかな勇気を出してやっていこう。




翌朝、オークランドから郊外のPapakuraに出る電車に乗った。

ニュージーランドではオークランドと首都ウェリントンでは
郊外に出るためには電車か自動車専用道路しかない。


ともかく街から抜け出して自転車に乗ろう。



電車では、女性の車掌が自転車の乗せ方を教えてくれた。
私が心配そうにしていたのだろう、
通りかかるたびに「あと2駅よ」などと声をかけてくれた。



車窓を流れる景色を見ながら早く自分の足で走りたい、そう思った。



電車はやがてPapakuraに着いた。



自転車とともに電車を降りる。
車掌さんにお礼を言いたかったが、そのまま行ってしまった。

自転車に目をやった。
初めて自転車で旅した日からずっと私を支えてくれたマウンテンバイク。

なにをどうすればいいか、この異国の地では正直まだよくわからない。

でも、このマウンテンバイクに乗ればどうすればいいか、それだけはよく分かっている。
電車を降りるとこの二日間、ときに憂鬱に見えた空もこの日はどこまでも青く見えた。


「そう、青空の下で走りたかったんだ。」


青い空が不安を全て吹き飛ばした、とは言えなかったが、

青い空は素晴らしい旅が始まるのを予感させた。

「自転車に乗りさえすれば、自分の旅だ。」

荷物を満載した自転車を揺らしながら、私は走り出した。

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