定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

カンタベリー平原 -cycling NewZealand -

出発の準備をしていると昨日のスイス人サイクリストが話しかけてきた。彼はこれからクライストチャーチに行き、クライストチャーチからはなんとネパール、カトマンズに飛ぶらしい。

「エアチケットも安いし、今が一番いいときなんだ。」彼はそう言っていたが、3月のネパールは寒いのではないだろうか。

「君はレースもやるのか?」と聞かれたので「ああ、クロスカントリーをたまにね。」と答えると「クレイジーだな。」と言われた。これからカトマンズに飛ぶやつに言われたくない。「君もな」私は言い返した。

NZではいろんな人に「クレイジー」と言われたが挨拶代りだったと思う。それこそ彼のようなクレイジーな男がよく言っていた気がする。だが、言われて悪い気はしなかった。一端のサイクリストとして認められたように思えたからだ。

 

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ネパールに行くと言っていたサイクリスト。Tシャツはどこで・・

彼と行く方向は同じだったが、私はもう出発するところだったので、そのままユースを後にした。

 

朝方少し降られたが、その後すぐに止んだ。アーサーズパスからは気持ちのいい下り基調の道が続き、順調に距離を稼ぐ。

一時間もしないうちにカトマンズ行きのスイス人が追い越して行く。

“Everything OK?”

私のペースが遅いからだろう、心配して声をかけてくれたようだ。

“No problem! Thanks!”彼の背中にそう言葉を投げた。彼は重たいギアをガンガン踏んで、あっという間に見えなくなった。

まあ、彼らからしたら私は相当遅いかもしれない。つい先日もドイツ人女性のサイクリストにサッと追い抜かれてしまったしな。

もっと頑張りたいのはやまやまだが、この頃また膝の調子がよくなく、重たいギアを踏むと膝がピキッというので無理なない範囲でペダルを踏んでいた。

クライストチャーチでしばらく自転車には乗らない予定なので、回復すると良いが。

 

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この日はPorters Passという峠があり、そこが一番の難関かと思っていたが、その手前の登り返しのほうがきつかった。軽めのギアにいれ、クルクルペダルを回して登って行く。重いギアを無理に踏むのではなく、軽いギアをたくさん回して回転数で稼ぐのだ。今でも山岳系の道では、私はこのスタイルを踏襲している。グレイマウスでメンテナンスしたおかげで、軽いギアにするのもシフティングがスムーズだった。

 

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何よりこの日嬉しかったのは珍しく風が追い風だったことだ。

風の強いNZは不思議と向かい風に捕まる気がする。

 

昼はこの日も店がないのでピクニック状態。

買っておいたマフィン数個とインスタントラーメン、あと疲れていたのだろう、ハチミツを舐めた。

この時、NZに来て最初に買ったバーナーストーブ用のガスカートリッジが一つ空になった。よくここまで保ったものだが、それだけ今まで泊まった場所の宿泊先の施設が充実していて、あまり使う必要がなかった、ということだろう。

 

一つ荷物が減って、自由になる。自由になる分、少し不安になる。旅はいつもその繰り返しだ。物が減っても自由になるだけの人は相当旅慣れた人だろう。私はその領域とは程遠かった。心配でいつも何かを買い足したりして、ちっとも荷物は減らなかった。それが私の力量、と言えるのかもしれない。

 

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ポーターズパスから先はカンタベリー平原に降りて行く道になる。

 

 

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長い下りで順調に進む。

この日の目的地、Springfieldに着いた。トランツアルパイン鉄道の駅がインフォメーションセンターになっており、上品な感じの中年女性が応対してくれた。

 

食品が買える場所とキャンプ場の場所を聞くと、その足で食品ストアに向かう。ストアはカフェを併設した店だった。

店内には日本人らしい女性が働いていた。矢場とんのTシャツを着ているので間違いない。

会計のとき、彼女が対応してくれたのだが、日本語で「6ドル90セントです。」と言われ、私のほうも普通に「はい」と答えてしまった。

「どうして日本人ってわかりました?」私が尋ねると、「だって中国人は自転車でなんて旅行しないでしょ?あとはなんとなく。」なるほど。どちらの理由も納得がいった。不思議と海外で日本人とそれ以外のアジア人は見分けがついたりするのだ。

 

矢場とんのTシャツを着ていたので、「名古屋ですか?」と聞くと「一宮。あなたもその辺り?」と聞き返された。

豊橋だよ。」と言うと「田舎ね。」と言われて少々ムッとしたが、まあ否定するとこでもないな、と思った。

店を出る際、彼女はお客さんの忘れ物だけど、とクッキーをくれた。こういうのは本当に助かる。豊橋を田舎と言ったことは許すとしよう。

 

食料の買い出しのあとはボトルストア寄り、ビールを購入。

 

キャンプ場に向かうがキャンプ場は無人で、料金はある民家で払った。6ドルと安かったが、シャワーとトイレだけあるシンプルなところだ。

 

建物がひとつあり、キッチンかリビングが使えるかと思ったがカギがかかっていた。後ほどやってきた男性がカギをあけて建物に入っていったので、開けてくれたのかと思い、入ろうとすると「ダメダメ」と止められた。どうやら建物はこの地域のコミュニティが使っているもので、キャンプ場もコミュニティで管理しているようだ。そうでなければ民家の玄関先でお金を支払ったりしないだろう。

 

キャンプサイトの目の前に牧場があり、広大な平原の向こうにさっきまで走っていた山々がその背後に見える。ここは東海岸クライストチャーチまで広がるカンタベリー平原の一番端になるのだろう。

 

いいキャンプサイトだ。設備がいいのも嬉しいが、やはり景色がいいのが最高のキャンプ場である。

あと、静かなのも重要だが。

 

そういう意味では街はずれにあって、周囲が牧場というスプリングフィールドのキャンプ場は素晴らしかった。

 

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夕食は前日、アーサーズパスのユースのフリーラックにあった乾麺の蕎麦である。前日これを見つけたとき思わず「おおっ!」と声を出してしまった。

 

持っている調味料で蕎麦つゆをつくり、先ほどストアで買った卵を入れて月見蕎麦にした。

 

広々としたニュージーランドキャンプサイトで月見蕎麦を心ゆくまで食べる。

 

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なんだか幸せだった。