定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

富士山を望む場所 - 甲州・富士山ソロキャンプツーリング -

昨夜の喧騒が嘘のように朝のキャンプ場は静かだった。私は寝袋から出て、テントのジッパーを開けた。周囲のテントとあまり離れておらず、荷物の中からコーヒーセットを探す音が妙に大きく聞こえる。まあ夜遅くまで騒いでいたようだし、朝が早くて多少音を出しても文句を言う人もいないだろう。

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私はコーヒーを淹れ、マグカップを持って山中湖畔に出る。思いの外、寒い。全く知らなかったが、山中湖は標高900mほどあるらしい。

湖畔にはすでに何人かの人が出ていた。

 

だんだんと空が明るくなってくる。西を見ると富士山の広い裾野が見える。山頂付近は雲がかかっているが、やがて流れていきそうだ。

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東の空を振り返ると、朝日が昇ってくる。

 

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昨夜のキャンプ場はあんなに騒がしかったのに、朝は静寂の世界だ。

湖面に映る太陽が淡く輝いている。眩しいが何度も何度も見てしまう。見る見る日が高いところに昇っていく。こんなふうに朝を迎えることができたことに感謝した。

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雲が少しずつ晴れてきた。

富士山の方を見る。富士山はようやく雲から少し頭を出した。

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私の住む街は遠いが一応、富士山が見える。

しかし、冬のよく晴れた日でないと見えない。そうして見るのは雪を被った富士山だ。

雪が降る前の富士山を見るのはとても新鮮だった。私は写真を撮り、早朝だったが、妻に写真を送った。次女はどんな感想を言うだろうか。

 

キャンプサイトに戻り、朝ごはんを、と思ったが、米を買うのを忘れていたことに気がついた。だからと言って朝からコンビニも味気ない。

私は緊急時用のインスタントラーメンを朝ごはんに作ることにした。中華三昧味噌味だ。朝からキャンプ場に味噌ラーメンの香りが漂う。なんだか周りに申し訳ないが、仕方がない。

 

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ラーメンを持って日の出を見たのとは反対側の湖畔に行く。このみさきキャンプ場はその名の通り、山中湖内に突き出た小さな半島にあるのだ。こちらの湖面はとても静かで鏡のようだった。

 

湖面を眺めながら朝ラーメンを食べる。

バスフィッシングの人が何人か見える。釣り人は朝が早い。

そんな景色を眺めながら食べる朝食は味噌ラーメンではなくて、せめて塩ラーメンだな、とどうでもいいことを思った。

 

ラーメンを食べ終わる頃には、キャンプ場は騒がしくなってきていた。昨日は暗くて分からなかったが、様々なキャンパーがいる。最近のキャンパーはギアもウェアもおしゃれだ。またキャンプブームが来ているというが、こうしたアイテムの充実があるのかもしれない。

 

荷物をまとめて出発。

 

今日も朝から素晴らしい快晴だ。日の出の頃出ていた雲もほとんどない。まず目指すのは、三国峠に続く山中湖パノラマ台。山中湖畔沿いに走っていく。

振り返ると富士山がドーンと見えた。

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嬉しくなって湖岸のそばまで行って記念撮影。

 

湖畔を離れ、三国峠のアプローチにとりつく。

昨夜、今日訪ねる予定の松本さんとメッセージをやりとりする中で、山中湖側から三国峠は大したことない、という情報をもらっていた。

思いの外、すぐにパノラマ台に到着。

 

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一生懸命写真を撮っているご夫妻にケータイを渡して、写真を撮ってもらった。

「カッコいいですね」旦那さんがわたしにケータイを手渡しながら言う。久しくそんなことを言われたことがないので、素直に喜んでしまった。

 

三国峠までのアプローチはとても気持ちが良かった。

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ススキの原を風が抜けていく。

三国峠に到着。あっけなかった。

 

ここから道は一旦神奈川県で、すぐに道また県境を越えて静岡県に入る。

 

三国峠をどんどん降っていく。オリンピックのロードレースのコースにもなっているはずだか、かなりの斜度だ。正直、静岡側から上る気にはならない。

だが、多くのヒルクライマーが向こうからやってくる。よくやるな。

 

途中、眼下に富士スピードウェイが見えた。

 

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更に道は南に向かってどんどん降っていく。

だいぶ平坦なところまで降りてくると国道246号線にぶつかる。国道沿いに行けば、今日の目的地である小田原までは早く着けるかもしれない。しかし、国道は確実に混雑するだろうし、まだ時間も早い。

私はツーリングマップルを見て足柄峠を越えて行くことにした。足柄峠からは富士山がよく見える、とツーリングマップルには書いてあった。

 

小山町の役場のそばで和洋菓子屋さんを見つけて入る。カフェでもあればよかったが、そんな都合よくはないものだ。

 

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入ったお店は地方によくある和菓子も洋菓子も売っているところで、私はブッセに黒砂糖のわらび餅、それから店の看板商品らしい「金太郎の熊どら」を買う。

店内にテーブルがあったので中で食べさせてもらう。店の奥さんがお茶を出してくれる。

「10月からお客さんみたいに中で食べていく人には消費税10%にしないといけないのかしら。」と困った様子だ。毎日、真面目に商売をしていそうな小さいお店の人を悩ませるなんて、どんなもんだろうな、と思った。

 

和洋菓子屋を後にして足柄峠へ向かう。

 

しばらくは緩い上りだったが、途中のゴルフ場のあるエリアが激しい上りだった。これは一昨日の四尾連湖といい勝負だろう。途中、止まってしまおうかとも考えたが、なんとか耐えた。

 

ゴルフ場の建物まで来ると結構な標高を稼いでいた。

峠のてっぺんまでもう少しだろう。

 

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走っていると前の方を女性のランナーが走っている。

すごいな。どこから来たんだろう。

追い抜きざまに声をかける。

「こんなとこ走るなんて凄いですね!」私がそう言うと「そちらこそ!」と返してくる。「いやいや、自転車のほうが楽だと思いますよ。頑張って!」

もう抜き去ってしまってランナーは後方だったが、「そっちも頑張って!」と声をかけてくれたので、彼女から見えるように私は右手を振った。

 

こういう一期一会はいいな。

 

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足柄峠に到着。

ここは駿河国相模国の国境だったらしい。また城もあったようだ。城跡へ登っていく。

 

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雲に隠れていたが、わずかに富士山が見えた。

ここに城があった時代、人々はどんな風に富士山を見ていたんだろうか。

あんなに雄大な山を見たら思わず手を合わせたことだろう。

 

いい場所だった。

 

足柄峠を降りていく。この先は神奈川県になる。

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神奈川県側の下りの斜度もなかなかだ。

 

降っていると多くのランナーに出会う。どうやらここはランナーには有名な練習地らしい。やはり同様にサイクリストも多い。南足柄市の市街地近くまで降りると、傾斜もだいぶ緩くなる。

そんなところをとても辛そうに上っていくサイクリストを見かけた。そこはまだ序の口なんだよ、と心の中で声をかけた。

 

目的地の小田原まであと少しになり、松本さんに連絡を入れる。お昼をご馳走してくれるらしい。せっかくのご好意なので甘えることにした。

 

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市街地を抜け、松本さんとの待ち合わせ場所に向かう。思ったより時間がかかり、少し遅れてしまった。

待ち合わせ場所に着いて、松本さんに連絡する。

松本さんのお宅はすぐ近くだった。

 

松本さんは昔、私がアラスカを旅していたときに出会ったカメラマンだ。今はなくなってしまったフェアバンクスの「GO NORTH」という宿で我々は出会った。私が北極海から戻り、帰国までの残された時間をどう過ごそうか考えていたときのことだった。結局私はアラスカに詳しい松本さんの勧めでアンカレッジの南、キーナイ半島へ行き、その後帰国の途についた。

 

松本さんが家の前で出迎えてくれた。松本さんと会うのは何年振りだろう。まだ次女が妻のお腹にいた頃に北杜市で開催された松本さんの写真展に行ったのが最後だから7年くらい前か。

 

松本さんは昔と印象が変わっていない。

 

今年建てたばかりの松本さんの家は、周囲を田圃に囲まれた場所で、風が吹き抜けるとても素敵なところだ。黄金色に染まった田圃が美しい。

そして富士山に連なる山々が見える。極北の自然を愛する松本さんらしいところだと思った。

 

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家の中には薪ストーブがあった。

「まだ火入れしてないんだ。楽しみだよ。」

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松本さんはお昼にお手製のパスタをご馳走してくれた。みずみずしいブドウも出してくれる。

 

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食事をしながら、家の話、アラスカの話などいろいろ話す。何年も会っていないのに、自然と話ができた。

 

北極海に続くダルトンハイウェイの話は特に盛り上がった。Foxという街の先にあるカフェの話など、松本さんに聞かれるまで忘れていたことをたくさん思い出した。

 

家の中を見せてもらう。家具など随所に松本さんのこだわりが見て取れる。

「窓からキジが歩いてるの見つけてさ、思わずアラスカでグリズリーを撮影するときに使うデカいレンズのカメラだしてきちゃったよ。」

田圃のほうを指差して教えてくれる。

 

そのまま庭を案内してもらう。

「この薪置き場の屋根に苔が生えないかなって。アラスカみたいにさ。」

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松本さんは家のことが楽しくて仕方がない様子だ。私もよく分かる。

 

話に夢中になって時間があっと言う間に過ぎていく。出かけていた松本さんの奥さまが帰ってきて、奥さまも交えてさらに話す。

 

その後、私はお暇させてもらうことにした。

 

松本さんご夫婦が見送ってくれた。

本当に会いに行ってよかった。

また会いに行こう。

 

私は小田原駅に向かった。あとは来た時のように自転車をしまい、電車に乗るだけだ。

 

春から仕事が大きく変わり、このところ、今後の生き方を、転職も含めて、いろいろ考えていた(まだ考えているが)。そんなとき、旅で出会った人々はその後、どう暮らしているのか、実際に会って確かめたくなったのが、旅に出た動機の一つだ。

旅の中に少しでも人生を見出してしまった人はどうやって日本の社会の中で生きていけばいいのか。私はそのことを毎日考えていた。

 

松本さんは自然体だった。松本さんらしい新居も元々そこにあったようだった。

 

 

小田原駅から新幹線に乗り込み、売店で買ったビールを飲む。

地元の駅からは妻が迎えに来てくれるので駅から先は心配ない。ケータイを見ていると、となりに座っていた年配のご婦人が声をかけてきた。

 

「富士山、とてもよく見えますよ。」

 

通路側に座っていた私は少し身を乗り出し窓の外を見た。

山裾からてっぺんまで綺麗に富士山が見える。

 

「日本人はやっぱり富士山が好きなんですよね。」とご婦人。

 

「昨日、富士吉田のあたりにいたんですけど、雲で隠れて全く見えませんでした。今日の富士山は素晴らしいですね。」私は昨日、今日と富士山の周りを旅したことなどを話し、しばらくご婦人と会話を楽しんだ。

 

地元の駅に新幹線が着くと、ご婦人に富士山のことを教えてくれたお礼を言い、新幹線を降りた。

 

最後の最後までいい旅だった。

 

家に帰ったら、妻と子供たちにささやかな土産を渡し、この数日どんな風に過ごしていたか聞いてみよう。そして私が見て感じたものを伝えようと思った。