定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

水軍の入江 - 2020冬キャンプ -

大学時代の友人であるツネオから「年末年始でたまには子供抜きでキャンプして、山でも歩かないか」と誘いがあった。

 

春の異動から心のゆとりがなく、誘われた当初は準備などを考えると面倒だな、という思いが先に浮かび、あまり乗り気ではなかった。

 

しかし、年末年始の休みがいつもより長かったこともあり、妻に相談すると「行けばいいんじゃない」と言ってくれた。

 

ツネオのプランでは一泊二日でどこかでキャンプをし、山を歩くというものだった。私の他に同じく大学時代の後輩ひろしとフクチが一緒に行くことになった。いろいろ相談した結果、以前、ひろしが家族で使ったことのある三重のキャンプ場に宿泊し、熊野古道を歩くことになった。

まだ若い頃、このメンバーや他の仲間たちと「奥三河野営組合」と称して、無料のキャンプ場やテントが張れて人が来ないようなところでよくキャンプをした。その頃、冬キャンプもしており、今回は久しぶりの冬キャンプになる。

 

年末休みに入った頃、ツネオから「子供がインフルエンザにかかってしまい、行けなくなった」と連絡が入った。

 

どうしたものか。

 

ツネオが中心で企画した今回のキャンプ、正直私は彼の企画に乗っかるだけのつもりでいたので、あまり主体的に考えていなかった。

「やめるか」

一瞬そう思ったが、フクチとは久しぶりであるし、キャンプ場はひろしのオススメだ。それに久しぶりに冬キャンプがしたかった。

結局、ひろし、フクチ、私の3人でキャンプだけ行くことにした。

 

行きはフクチと私の二人でドライブである。ひろしは電車で現地集合だ。

今回はフクチが車を出してくれ、結局ずっと運転をしてくれた。一応、私が先輩だから気を遣ってくれたのかもしれない。独身の頃はよく自転車関係でフクチとも遠出をしたものだが、最近はほとんどそういうこともなくなった。彼も自転車をやっているが、最近は職場の人と山登りをすることが多く、自転車はあまり乗っていないようだ。

山登りをやるおかげで彼は私より最近のアウトドア事情に詳しく、今時のアイテムもいろいろ持っているようだった。

私の方は、昔からの道具がまだほとんど使えることもあり、最近は少し勉強しているが物も知識もまだまだアップデートされていない。

 

久しぶりの冬キャンプで、装備をどこまで持って行くか迷ったが、とりあえず寝袋は長年愛用のイスカの- 15度対応のものを選び、ベースレイヤーも一番厚手のものを用意した。

今回、新たにワークマンでシューズを購入。ビーンブーツ風のシューズである。アウトドア用の靴はトレランシューズしかなく、前に東栄町の明神山に登ったときに濡らして寒い思いをしたので、防水も期待できるワークマンを試すことにした。

 

途中、フクチがたまに行くというアウトドアショップに寄る。

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あまり実物にお目にかかることがない商品がいろいろ置いてあり、私は特に買わなかったが、とても参考になった。

 

寄り道をして、キャンプ地に着く頃にはもう夕方だった。キャンプ場のそばでひろしが歩いているのが見えた。ちょうど彼も着いたところのようだ。

 

キャンプ場は基本は海水浴場で、キャンプもできるというところだった。冬の間はやっていないが、ひろしが管理する観光協会に聞くと、泊まって構わないが、トイレは使えるのものの、炊事場は水が出ないかもしれないとのことだった。トイレが使えればそれで充分である。まあ正直なくても何とかなるのだが。

 

キャンプ場はきれいな浜辺だった。

白い砂が美しい。

浜辺を中心に左右に陸地が伸びており、ちょうど浜の正面が入江の入り口になっていた。

小さな丸い入江に沿うように集落があり、向こうに小さな港が見える。

 

水軍で有名な九鬼が近いですよ、とひろしが教えてくれる。

 

私は好きな時代小説作家、隆慶一郎の水軍を描いた小説を思いだした。こうした小さな入江から家族に見送られて海へ出て行く様子が描かれていた。ここもそうした水軍の拠点だったかもしれない、弓形に伸びる陸地が船を隠すのにちょうどよかったのではないか、などと勝手な妄想をした。

 

車から荷物を下ろし、各自テントを設営する。すぐに暗くなるので、エアマットと寝袋も出しておく。

 

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それにしても素晴らしい場所だ。

テントを張り終え、柔らかく赤に染まる入江の先を見ていると、この景色を見ているだけで、来る価値があったと思えた。

 

景色をもっと堪能していたいところだが、手元が見えるうちに晩ご飯の支度にかかる。

 

三河野営組合を名乗っている頃から、私は炊事班長である。椎名誠の「あやしい探検隊」に出てくる料理人の林さんのファンなのだ。林さんの作るチャーハンがとてもうまそうなのである。林さんに憧れてキャンプに中華鍋を持っていった時期がある。懐かしい。

 

今回は簡単晩ご飯、鍋だ。

ふとスーパーで赤から鍋の素を見つけたら、赤から鍋が食べたくなった。子供が辛いものが苦手なので、家ではなかなか食べる機会がないのである。

 

サッと野菜を切り、鍋に赤から鍋の素と野菜と肉と豆腐を入れて煮たらおしまい。野菜はフクチが実家で収穫してきてくれた。

 

少し鍋の素が少ないかと思ったが、白菜と白ネギから水が出てちょうどよかった。

 

鍋が煮えるのを待つ間、焚火に火をつけ、ビールをあける。お歳暮で貰ったロースハムを厚く切り、串に刺して焼く。

やはりキャンプは焚火とビールだ。

 

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薪はひろしがホームセンターで買ってきてくれたが、量が心許ないので、浜で流木を拾う。

 

今回は焚火台としてユニフレームのファイアスタンドを持ってきたが、薪の下がメッシュになっており、風が通るせいか薪がよく燃えた。

浜に着いたときは風もなく暖かだたったが、暗くなるにつれ風が出てきて寒くなってきた。

 

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鍋が煮えた。

 

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各自コッフェルやシェラカップを出して鍋をよそう。冬キャンプは鍋が簡単でいい。

男三人は食べだすと早い。すぐに鍋の具が終わってしまう。野菜は切ればまだあったが、焚火で炙って食べるものもあるので、シメの玉子とじうどんをそのまま作って食べた。

 

夜は長い。焚火を続けながら、ビールを飲む。

 

今回新たに持ってきた道具がもう一つあった。

ファイヤーサイドのトング、ファイアーバードである。

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ファイアーサイドは長野県駒ヶ根市にある薪ストーブの代理店だが、となりにアウトドア用品と雑貨の店があり、長野にキャンプに行くと寄ることにしているところだ。

 

普通のトングより長くて使いにくいかと思ったが、細身なのにしっかりしていて重たい薪をつかんでもよれることがなかった。

また、挟むところの内側に爪がついており、薪を掴んだ感覚もとてもよかった。

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実際に使ってみると長さもそれほど長く感じなかった。これはいい道具だと思う。

 

流木がなかなかの量確保できたので、どんどん薪を追加していく。ひろしが買ってきた薪より流木のほうがよく燃えた。よく乾いていたのだろう。

 

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酒を飲みながら、いろいろ話をする。

フクチの最近の山登りの話やひろしの家族のことなど。フクチは山で過ごす時間が多いようだ。ひろしは息子の話を聞かせてくれた。彼の学校での話があまりに面白いので爆笑してしまったが、先生と親は大変だろう。だが、そんな彼が自分らしく生きていけるような社会にならないと嘘だよな、と真面目なことを考えた。

 

長い時間、焚火を囲み、スローなペースで酒を飲む。そしてスローなペースで話をする。

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焚火はいいなぁ。

 

風が吹き続けている。

フクチは風下になるのか、煙を避けて何度も椅子を動かしていた。私は煙が目に染みても多少の煙はかかるに任せた。

 

焚火のお供はビールもいいが、夜がふけたらウィスキーだろう。

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スキットボトルからそのままウィスキーを飲む。中身は何か知らないまま持ってきたが、ブッシュミルズシングルモルトのようだ。

 

だいぶいい時間になったので火の始末をする。

 

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振り向くと月が明るい。そのまま空を仰ぐと星もたくさん見えた。

 

私はテントに潜り込むとすぐに寝てしまった。

長年愛用の寝袋は安心して眠れた。

 

朝方、外でフクチがガサガサやっていたようで音が聞こえたが、私はそのままま寝続けた。

 

テントが明るくなり、夜明けが近いのが分かった。

ゆっくり体を起こし、ジャケットを着てテントから出た。

 

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雲ひとつない青い空の端が赤く染まっている。

静かな入江の海は空の色をそのまま写していた。

素晴らしい朝焼けだ。

 

朝焼けを見ながら私はコーヒーをいれた。

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フクチとひろしも起きてきた。

フクチにポットにコーヒーがあることを告げ、コーヒーを飲まないひろしにはココアの袋を渡した。

風は夜に比べ弱くなっていたが、とはいえ寒い。

再び薪に火をつけた。

 

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焚火を再び囲みながら朝ごはんの用意をしていると朝日が上ってきた。

日が上るのをこうして見るのはひどく久しぶりの気がした。

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朝ごはんは正月らしく餅である。

ひろしの奥さん、私の大学時代の同級生なのだが、彼女が餅を持たせてくれた。

 

焚火が落ち着いたところで、網の上に餅を並べて焼く。よく考えたら焚火で餅を焼くのは初めてかもしれない。

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餅は多少焦げたが中までちゃんと焼けていた。

醤油をつけ、海苔を巻いて食べる。

うまい。外で食べれば何でもおいしいが、こんな素晴らしい朝ならなおのことだ。


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食事が済むと帰りの車で飲むコーヒーをタンブラーにいれ、撤収を開始した。

撤収もみんな手慣れたものだ。

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私は一足先に撤収が終わったので昨日行けなかった波打ち際にいく。穏やかな湾である。

 

フクチの車に全員の荷物を積み込むと、我々は小さな入江を後にした。私はこの場所を勝手に水軍の入江と呼ぶことにした。

少し遠いがいい場所だった。

今度は子供たちも連れて来よう。

今年も素晴らしい景色の中、過ごす時間ががたくさんありますように。

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