SNSを眺めていると、KINAN AACA CUPの新城ステージ開催のニュースが流れてきた。
KINAN AACA CUPはプロサイクルロードレースチームのキナンサイクリングがプロデュースするアマチュア向けロードレースで、数年前から新城市でもレースが開催されるようになった。これは新城市のスポーツツーリズム推進課と地域おこし協力隊であったダモンデの山田さん、現在協力隊として活躍しているHatch さんの活動によるものだが。
これまで新城ステージは作手で開催されてきたが、今回の新城ステージは初めて新城総合公園での開催で、SNSの告知ではキナンサイクリングチームの加藤GMが、東側のわんぱく広場の急峻な斜面をツールドフランスの有名な山岳ラルプデュエズにちなんで「新城ラルプデュエズ」と命名し、そこを使ったコースになることを説明していた。
この告知を見て、私にしては珍しく、ちょっと出てみようか、という気になった。
AACA CUPはエントリー費も3000円と安く、大会一週間前までエントリー可能。しかも、レイトフィーを払えば当時エントリーも可能という、非常に参加しやすいレースだ。
ちょうどエントリー締め切りの日、Glocalbikeで一緒にロードに乗っているOKNOくんがエントリーしたという話を聞いて、私は出場を決めた。
カテゴリーは速いほうから1-1から1-4まであり、トップカテゴリーはキナンサイクリングチームも出るカテゴリーだ。過去の大会でポイントを取っている選手は決まったカテゴリーへの出場が義務付けられているが、それ以外の選手は参加カテゴリーは自己申告となる。
私は1-3を選んだ。1-4はキッズと同じコースな上、新城ラルプデュエズを上らないようなので、こちらにした。
ダモンデバイクチームのタツマくんにAACAに出ると話をすると、「けっこう速いですよ。」と忠告を受ける。軽い気持ちでエントリーしたが、だんだん心配になってきたが、やるしかない。
大会当日。
私のカテゴリーは朝一番の8時15分のスタート。スタート前に受付を済ませ、試走もしなくてはならない。
自宅を朝6時半に出発。
今回、久しぶりにレースに出るということで、家族が応援に来てくれることになり、早朝から眠たい家族を起こしてついてきてもらった。
普段、私は家族を置いて自転車で出かけているが、私がどんな風に自転車に乗っているのか、子供たちは知らない。普段の私のライドスタイルとは違う、レースではあるけれど、その一端を見てもらえるのが嬉しかった。
レース会場に到着。
今年は暖冬だが、この日はちゃんとした冬の寒さであった。会場となる新城総合公園のグランドを冷たい風が吹き抜けていく。
私は試走の準備をすると見慣れた黄色とクロのBUCYO COFFEEテントに向かった。
「おっ、きた来た。」ダモンデ山田さんがさっそく声をかけてくれる。
「らしくないじゃん。ロードレースなんて。」
全くである。
ロードレースは過去にチーム対抗のエンデューロ(制限時間内で周回を競うレース)ぐらいしか出たことがない私である。
「何周させてもらえるか分かりませんけど、やるだけやりますよ。」私はそう答えた。
今回のレースはクリテリウムと呼ばれるレースで、周回コースをカテゴリーごとに規定の週回数で競うレースだ。ただし、レース中にラップ、つまり周回遅れになると足切りになり、そこで終了となる。果たして何周回できるだろうか。
Glocalbikeの仲間のOKNOくんと合流し、二人で試走に行く。
一周回約3キロのコースはホームストレート以外ほとんど平坦がない。
新城総合公園の北側に位置するスタート地点から、南〜東へ一気に下り、公園の東側の端から問題の新城ラルプデュエズに向かって上って行く。
新城ラルプデュエズの勾配は普通にロードバイクで走る分にはそこまでキツいものではない。奥三河にはこれくらいの峠は割とよくある。
しかし、道は公園の遊歩道で狭く、しかもレースペースで上がっていかなくてはならない。試走の際もアップを兼ねてちゃんと踏んで上がったが、とても7周回持つ気がしなかった。
新城ラルプデュエズを上り切るとまた下りが続き、そのままホームストレートに戻ってくる。
OKNOくんと二周回試走する。作戦らしい作戦は思いつかない。
試走後、間もなく招集がかかる。忙しい。
車に戻り、家族にもう出番だからと告げ、スタート前のアミノバイタルを流し込む。
招集エリアにはキナンサイクリングチームの加藤GMがいた。レースの運営で忙しいはずだが、私の顔を見つけるとわざわざ声をかけてくれた。
朝早い時間だったが、ダモンデのメンバーのりょーこさん、ユミコさん、上野さん、タツマくんと沢山の仲間が応援に来てくれていた。
全く有難い限りだ。
ダモンデクルーに加え、さらにGlocalbikeの仲間もわざわざ応援に来てくれていた。
わざわざ来てくれたみんなのためにも何とか完走したい。そう思った。
スタート位置に着く。出場選手は40人ほどだろうか。
私の場所は後のほうで不利だが、下のカテゴリーは力量がバラバラで落車の危険が高いのでこのくらいの位置どりでいいということにしておいた。
レーススタート。
思った通り、先頭集団はすごい勢いでスタートしていく。必要以上に出遅れないよう慌てて集団を追う。一度集団から離れると集団に戻るのは不可能に近い。
試走を思い出し、自分が走りたいライン狙いつつ、途中のグレーチングやカーブミラーといった障害物を意識してやり過ごしながら、少しでも前に出るチャンスを伺う。
公園東側の折り返しのヘアピンコーナーで減速することを見越して、スピードコントロールをしながら、コーナーの立ち上がりで踏み込む。
小さい段差を軽くいなしながら、新城ラルプデュエズに突入していく。前を走る選手がコーナーの入り口を間違えてコースアウトしていくのが見える。
一つ一つを着実に。何とかここで前に出なくては。
上っていくと仲間たちが応援してくれる声が聞こえる。
ラルプデュエズのコーナーごとに仲間が立っていて、私のことを応援してくれていた。
何とか応援に応えたい。
しかし、練習不足の体は正直だ。
懸命に斜面に食らいつくが、思ったように前の選手たちを捉えられない。耐えるしかない。
山の上のほうにGlocalbikeのバスマンさんがいた。
「シマダ‼︎一番上の先まで踏み続けろ‼︎」
レース会場中に聞こえそうな大きな声が飛ぶ。さすが世界戦を転戦し、日本代表を支えるメカニックである。海外のレース会場でもそうしているのだろう。
新城ラルプデュエズは遊歩道部分が終わるとアスファルトになるのだが、そこからまだしばらくジワっと上っている。
多くの選手が遊歩道の終わりでペースを落とすので、バスマンさんはそこを耐えて踏め、と言っているとこがわかった。
私は遊歩道の出口からダンシングをし、踏めないなりに最後にペースを上げる。毎回、ここで何人か捕まえることができた。
ホームストレートまで一気に戻る。
ホームストレートを抜けるとまたすぐに下りが始まる。このコーナーは右、次は踏みながら左、などと考えているとあっという間に東側の下りストレート。ラルプデュエズに戻ってくる。
「シマダくん、前まで5秒!いけるよ!」エプロン姿の山田さんがタイム差を教えてくれる。捉えられるか。
三周回目を終え、ホームストレートに戻るとMCのユキオくんが「あと〇〇で足切り発生か?」という声が聞こえる。
まずい。トップはどこまで来ているんだ?
下りをこなし、東側のストレート。前の選手がボトルを取るのが見える。私もボトルが取りたいが、それよりコーナーの立ちがりで逃げたい。ダウンチューブからボトルを取ることを諦め、ハンドルを握りコーナーに突入していく。立ちがりでダンシングし、何とか離す。
ラルプデュエズの上り口で数人の選手が横を抜けていく。ラップされた。
いや、ここで食らいつかないと。
この周回で私のレースは終わりかもしれないが、あとはどこまで前を行く選手を一人でも抜けるかだ。
あの人なら、私のヒーローならそうした筈だ。
みんなの声援を受け、呼吸のリズムとペダリングが合わないまま、とにかく上を目指した。
アスファルトまで上り切り、下りに入る。
下り区間で子供たちが見えた。
やれるだけやる。
ホームストレートに戻って、必死に踏むが、正面で赤いフラッグが振られた。
わずか12キロ、30分足らずの私のレースは終わった。
喉の奥から血の味がする。肩で息をしているがなかなか収まらない。
OKNOくんを見つけて声をかける。彼はペースを抑えすぎた、と反省していた。
「やってみないと分からないね。」私は彼にそう言ったが、自分に言っていたのかもしれない。
ゴール付近にいるといろんな人が声をかけてくれた。
ラルプデュエズで応援していた仲間たちが戻ってくる。AACAの人はいいと言っていたが、公園のおじさんがダメと言って追い出されたそうだ。
「追い出されちゃったよ。」とバスマンさんは笑っていた。
そんなところで真剣に応援してくれるところが我らダモンデクルーとGlocalbikeの仲間たちらしい。
Hatchさんや加藤GMも声をかけてくれた。
子供たちが駆け寄ってくる。
「お父さん完走できなかったよ。」
それでも子供たちは何だか嬉しそうだ。
結果は不甲斐ない限りだが、周りの仲間や家族がこんなに応援してくれて私は幸せものだ。
BCYO COFFEEでパスタを食べて、子供たちを自転車体験コースで遊ばせる。
その向こうを1-1の選手たちが猛スピードで駆け抜けていく。
子供たちとトップカテゴリーの選手。
対照的な光景だが、これこそが自転車の世界なのだ。
レースという非日常を大いに楽しんだ一日になった。