長女と二人の時間ができたので、何かしたいかと聞くと自転車に乗りたいという。
長女と自転車で出かける機会が増えて、家の周囲はだいたい回ったので、今回は渥美線のサイクルトレインを使って渥美半島に行くことにした。
渥美線では平日の一部時間帯と土日の終日、サイクルトレインとして自転車を持ったまま電車に乗ることが出来る。今回は豊橋駅から三河田原駅までサイクルトレインを利用した。
三河田原駅までは35分。これだけでちょっとした小旅行だ。長女は渥美線に乗るのは初めてだという。田原方面に家族で遊びに行くこともあるが、普段は車である。長女は車窓の景色を楽しそうに眺めていた。私は通過して行く場所の説明をしたりした。
三河田原駅に到着し、駅の外に出ると非常に風に吹かれた。雨上がりの快晴は気持ちがいいが、風を遮るものが少ない道を自転車で走るのは苦労するだろう。そのことはあらかじめ長女に伝えてあったが、それでも走りたいと、長女は言っていた。
最近ときどき使うwahooのナビ機能を使い、太平洋岸を目指す。wahooナビは車通りの少ない道を選んでくれるのでちょうどいいと思ったのだ。
wahooナビは小さな川沿いの砂利道を案内した。
私はできるだけペースを落としていたが、長女は遅れがちになっていた。砂利道には水たまりが点在しており、走りにくかったようだ。
私は大きな県道に出たところで、ナビのルートから外れ、舗装路で南に向かうことにした。
西から強い風が吹き付ける。
ロードで一人で走るのも躊躇われるぐらいだ。
長女は体を伏せ、一生懸命にペダルを漕いでいる。
必死というより、この状況に何とか耐えている、と言った感じだ。
「自転車なんて辛いからもうやらない」とか言われたらどうしようか。
私は自動販売機を見つけると、「休憩しようか」と長女を止めた。
ジュースを飲んで休憩しながら、この先の道の話をする。お昼ごはんの候補をいくつか上げると「海鮮丼が食べたい!」と急に元気になった。よかった。
休憩した場所から海岸に近い国道42号まで風に煽られながら何とか出ると、そこから西へ。
目的地の太平洋ロングビーチはもうすぐだ。
ビーチに降りて行く坂道を下る。
割と急な坂道なので、気をつけるように長女に言っておいたが、問題なく降ってきた。「スピード出て楽しかった」と意外な反応だった。前なら怖かったと、言うところだったのでだんだん自転車に慣れてきたのだろう。ちょっと安心した。
坂道を下ると正面に海が広がる。
「海だ!」
我々は自転車を停めると砂浜に降りて行った。
私はここに何度も自転車で来ているが、砂浜まで降りるのは何年ぶりだろう。
長女は波打ち際で波を追いかけたり、砂浜で貝殻を拾ったりしていた。私も一緒に綺麗な貝殻がないか探す。
海で遊んで長女はすっかり元気になった。海まで来てよかった。
しばらく砂浜で遊んだ後、海沿いの道を進んで行く。
海のそばを走るこの道は私も大好きな道だ。
長女はペダルを漕ぎながら「気持ちいいね!」と嬉しそうに言った。
自転車で走るということ。
どうして私は自転車に乗るのか。
その答えのひとつを長女とこのとき共有した。
ロングビーチを離れ、国道42号に出る。
お昼は長女のリクエストの海鮮丼。
料理が来るのを待つ間、三河田原駅までの帰りのルートを考える。wahooのナビで参考ルートを出すと、半島の真ん中を東西に横切るトンネルを通るルートが示された。赤羽根トンネルというらしい。
このトンネルは使ったことがない。帰りはここを通ることにした。
帰りも相変わらずの強風だ。
北に向かって走って行くと西からの風で横に流されそうになる。長女は教えた訳でもなく、自然に体を風に向けて少し傾いてバランスを取っていた。
渥美半島の中央を走る国道259号に出ると、東に進路を取った。途端に風が背中を押してくれる。
「すごいね!eバイク乗ってるみたい!」と長女が言う。なるほど、そう言われればそんな感じもする。
259号を田原市街に向かい、道の駅田原めっくんはうすに立ち寄る。家で待っている妻と下の子供達に我が家で人気の「こもぱん」のパンを購入した。
ちょうどいい電車があったので、切符を買いすぐに電車に乗り込んだ。そのまま自転車を載せられるサイクルトレインは楽でいい。輪行だとこうはいかない。準備している間に一本電車を見送ってしまうだろう。
車内で長女は道の駅で自分のおやつに買ったメロンデセールを頬張り、終始笑顔だった。
私は電車に揺られるうちにいつの間にか眠りに落ちていた。