クリスマスの朝。
街はどんな感じなんだろう?
普段通りなのか、騒がしいのか、それとも静かなのか。
自転車を宿の外に出し、出発の支度をしているとリアタイヤがパンクしていた。
フロントはホイールを外すときにキャリアの一部を外さないといけないので(下がクイックに挟んで固定している)、リアでよかった。
どうやらスローパンクのようだ。クリスマスの朝からパンク修理とは。
ホイールを外していると、宿の女性が「パッチとかうちで売ってるわよ」と声をかけてくれた。
「大丈夫、全部持っているから。ありがとう。」
私は礼を言い、作業に戻った。
タイヤに何も刺さっていないようなので、チューブを交換して済ませた。今
思えば、このときパッチを買っておけばよかった。
のちに後悔することになる。
修理完了。
これまで雨もあったので、タイヤは真っ黒だった。
もちろん、そのタイヤを作業をした私の手も真っ黒に汚れた。
ちょうど宿の玄関を掃除していた女性に、真っ黒の手を見せて、
「手、洗わせてもらってもいいかな?」ときくと、
少し笑って「Absolutely」と言ってバスルームの方を指さした。
バスルームで手を洗い、玄関の女性に礼を言い、握手して別れた。
「クリスマスよ。車に気をつけてね!」
アートハウスバックパッカーズを後にする。
最後まで印象のいい宿だった。
ロンセストンを後にし、南に向かう。
タスマニアは北部のロンセストンと南部のホバートを結ぶハイウェイが走っており、オールドタスマンハイウェイと呼ばれている。
その名の通り、タスマニアでも古い街道で、特にロンセストン周辺には昔からの小さい街が点在している。
今日はこうした街を巡り、のんびり過ごすのだ。
ロンセストンの町外れからハイウェイが2キロほど、真っ直ぐな上り坂になった。都市から出るとき、ときどき出くわす状況だ。メインのハイウェイを使うと多いケースだと思う。
長いのぼりの後は平穏な道だった。
タスマニアには鉄道が走っているが基本貨物用。旅客はごく一部。 |
夏のクリスマスの陽射しが眩しい。
昼にはEvandaleの街に入る。
ロンセストンもだったが、外に人がほとんどいない。
なぜか見かけたのはロード乗りばかりだ。
エヴァンデールの教会の横にある公園で昼食。
メニューはインスタントラーメンにインスタントのマッシュポテト、それからリンゴ。
こんなものでも外で食べればうまい。
昼食を食べた後、シューズのクリートの位置をずらした。膝がずっと痛いのだ。多少でも痛みが軽減されるといいが。
昼食後、エヴァンデールからPerthという街に立ち寄る。
ここにもさっぱり人影がない。
その後、今日の目的地、Longfordまではすぐ着いてしまった。
キャンプ場に向かうと、無事に営業していた。よかった。
レセプションのおじさんもとても感じがいい。
夜、バーベキュースペースでソーセージを焼くからおいで、と誘ってくれた。
リカーストアの場所を聞き、クリスマスでも営業しているか尋ねると、
「やっているんじゃないかな。酒なら夜パーティしてるときに誰かがワインぐらいくれるかもしれないよ」と教えてくれた。
私は礼を言い、テントサイトに向かった。
キャンプ場は背の高い木がほどよい間隔で伸び伸び茂っており、木陰がとても気持ちよかった。
キャンプサイトは草に覆われていて、寝そべっても気持ちがいい。
また、大きな木がほどよい間隔で繁っており、やさしい木陰を作っている。
さらにテントサイトの横には小さな川が流れており、カヌーに乗っている人が見えた。
施設のいいキャンプ場は珍しくないが、
街中にあってこういう気持ちのいいキャンプ場は珍しいのではないだろうか。
こういうキャンプ場が近所にあれば毎週末に行きたいぐらいだ。
一本の木の下にテントを張り、とりあえずビールを買いに行く。
夜、誰かに貰えるかもしれないと言われても、
こんなに気持ちがいいのにビールを飲まない手はない。
リカーストアも無事にいていた。
店は中に入ると暗く、狭い通路の奥に格子付きのカウンターがあった。
そのカウンターの向こうにいくつかの酒の瓶が並び、真ん中に店主がいた。
なんだか、怪しい店みたいだな。
というより、荒くれた時代から続く店なのかもしれない。
ビールは見当たらなかったが、「Boag's二つ」と言うとちゃんと出てきた。ありがたい。
キャンプ場に戻り、早速ビールを開け、草っ原に寝転んだ。
いい時間だ。
こうして本を読み、ビールを飲みながら川を眺めてもいい。
コーヒーを淹れて、チョコレートをつまむのもいいかもしれない。
音楽をかけて眠ってしまってもいい。
或いは歴史小説を読んで戦国時代に想いを馳せてもいいだろう。
となり、と言っても200mぐらい先のおじいさんは
木陰で犬と寝そべっていて、とても満足そうだ。
私も音楽を聴きながら、ビールを飲み、マッシュポテトをつまみながら
日記を書いているが、なんともいい。
今度の旅はこれでいいのだと思う。
どこか目的地に到達すること、それだけが重要ではない。
このタスマニアという土地で、この風土にあった自分なりの自由というものを求めていく。
そういう旅だ。