定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

Farewell Spit -cycling NewZealand -

タカカの朝は快晴。

南島最北端のFarewell Spitを目指した。

フェアウェルスピットは鳥の嘴のように細長く伸びた海岸線が作り出す独特の地形でその長さは26キロにも及ぶという。

サイクリストは、「最北端」とか「果て」という言葉に弱い。

 

「北の果てか。」

声に出してみると、なんだかわくわくしてきた。

 

フェアウェルスピットに行く前に、途中にあるPupu springsに向かう。

ウティアンガで会った人が「ぜひ行った方がいい」と薦めてくれた場所だ。

ここは透明度の高い湧き水で有名らしい。

 

あまり有名な観光地ではないせいなのか、私が朝から行ったせいか分からなかったが、私以外に訪問者はいなかった。

 

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よく整備された静かな場所で、噂通りのターコイズブルーの湧き水を見ることが出来た。

 

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ププスプリングスを後にし、Coolingwoodの街に向かう。

南島の西の先端から陸地が細く弓なりに伸びるフェアウェルスピットが作り出す湾はゴールデンベイと呼ばれており、コリンウッドはその玄関口。

 

タカカからコリンウッドに続く道は内陸からやがて、海岸線に出た。

 

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淡いグレーの干潟が広がる景色はとても美しかった。

いろいろ期待して行ったププスプリングスよりも、こちらの方が感動した。

 

ほどなくしてたどり着いたコリンウッドは昔のロードムービーに出てきそうな小さな街だった。

Lonely Planet』によれば人口わずか250人。

スーパー、カフェ、バー、バックパカーズにキャンプ場、街のすべてが500mほどのメインストリートに並んでいた。
二階建てより大きな建物が無く、他の街よりも空が広く見えた。

 

「なんてのどかな街なんだ。」

 

ゆるやかに流れる街の時間に私は自然に取り込まれていった。

 

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メインストリートのカフェで食事をする。カフェの名はその名も「Coolingwood Cafe」。

 

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店のドアを開けるとレジカウンターの女性が愛想よくあいさつしてくれた。

そのままカウンターで注文。

飲み物はいつものようにカプチーノだが、上にかけてもらうのはチョコレートではなく、シナモンにした。

実は少し前まで、カプチーノを注文した際に聞かれる「Cinnamon or Chocolate on top?」というのがずっと「chocolate」の部分しか聞き取れず、この頃になって、ようやく何を聞かれているのか分かったのだった。

 

店の女性は、マス目に仕切られたノートに注文を書き込んでいた。

 

 

食事の方はと言えば、普段はハンバーガーが多いが、この日は珍しくフィッシュバーガーを注文した。

 

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昼食の後、キャンプ場に行く。この小さな街にキャンプ場もバックパッカーもあるなんて奇跡のようだが、これもフェアウェルスピットが近く、私のような旅行者がよくやって来るからだろう、と勝手に想像した。

 

キャンプ場はちょっと古いところだったが、一応キッチンもあって、一泊10ドル。キャンプサイトの隣がすぐ海というのがうれしかった。

 

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キャンプ場には私以外にも客がいた。

古いタイプのソロテントが張られている。しばらくすると、丸いメガネが印象的なサイクリストが外からテントに戻ってきた。自転車は古いスポルティーフだ。

何から何までクラシックな感じで、彼なりのこだわりなのだろうが、なんだかおもしろかった。何を話したかは全く覚えていないが、テントの前で食事をしながら、はにかんでいた彼の顔が今でも思い浮かぶ。

 

キャンプ場に荷物を置くと、軽くなった自転車でフェアウェルスピットに向かった。

 

コリンウッドからフェアウェルスピットの付け根までは10数キロほど。

 

当時は知らなかったが、フェアウェルスピットは自然保護区になっており、一番奥まではツアーに申し込まないと入れないらしい。

 

フェアウェルスピットを望む丘までは自転車で入ることができた。

 

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弓なりに伸びるフェアウェルスピット



私は自転車を置いて、フェアウェルスピットへ降りて行った。

 

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どこまでも続くのではないかと思われる砂浜。

砂浜という言葉はどこかしっくりこない。普段は海で潮が引いているところなのだろう。


美しいと思う。だが、どこか荒涼とした景色。

 

強い風が身体から体温を奪っていき、砂が地面を走っていく。

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私は不思議な気持ちになり、しばらく黙々とただ前に進んだ。

 

 

旅の感覚や、ひとりで世界の只中にいるような感覚、冒険の最中で苦境に陥っている感覚、こうした感覚は経験したものでないと理解できない類のものであろう。

 

冒険者の感覚と哲学者の思想との乖離。いつか学んだ学問のことが頭を巡っていた。

 

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どこまでも広がる空、遠くに近くに見える海、足元に広がる砂の世界でひとり強い風に背中を押されながら、そんなことを思った。

 

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