Dear Shima
I arrived in Christchurch today and I can stay in my friends place. It's
near to the city center.
Please call me under the phone number: 〇〇〇〇. You can also leave a
message on the answering machine.
See you soon.
Luzia
これが前日のルティアからのメールであった。
ルティアの友達の家がクライストチャーチにあるなんていうのは初耳である。てっきりまたどこかのユースかバックパッカーに滞在していて、そこで合流だろうぐらいに思っていたので、予定外の展開に混乱した。
電話番号こそ教えてくれたが、家主の名前は分からない。
ううん……
悩んでいても解決しないので、とりあえず私はルティアのメールにあった連絡先へ電話してみる。
公衆電話からメールにあった電話番号にかける。数コールして、年配の女性の声がした。
「スイス人サイクリストのルティアの友達で…」確かそんなことを伝えたと思う。相手の女性は「ああ、ルティアの友達ね。ルティアならセントラルへ行くって出かけていったわ。」と教えてくれた。私も今ちょうどカテドラルスクエアのあたりにいるから、彼女を探してみる、と言い、電話を切った。
そう言ってみたものの、ルティアがどこにいるのかサッパリ検討がつかない。
カテドラルスクエアのベンチで前日ユースで作ったオニギリを食べる。走ってない日でもお腹はすぐに空く。持ってきたオニギリだけでは足りなかった。
2016年の大地震でクライストチャーチのシンボルであった大聖堂は崩壊してしまったが、当時はまだ大聖堂が健在だった。
大聖堂の横にインフォメーションセンターとスターバックスが入っていた。
昼ごはんも足りなかったし、コーヒーでも飲みながらカテドラルスクエアを見ていればルティアが通るかもしれない、そう思い、スターバックスに入った。
スターバックスではフラペチーノのラージにベーコン&エッグパイを注文した。日本よりサイズが大きいのでお得感がある。
注文すると、店員に名前を聞かれた。なにかと思えばフラペチーノの容器に私の名前を書いていた。なるほど、出来たら名前で呼ばれる訳だ。
コーヒー豆を切らしていたので、ついでにコーヒー豆を買う。豆を挽いてもらおうと思ったが、挽き方を聞かれて「紙のフィルターで」と言っても通じない。”French press?”と聞かれるが、そんな荒く挽いてもらっても、と困っていると、中から日本人の若い男性が出てきて助けてくれた。「drip」と答えるのが正解だったようだ。
カテドラルスクエアに出されたテーブルに座り、軽食を取りながら、人の往来をしばらく見ていた。
カフェの外でこうしてのんびりするのは久しぶりだ。
やはりカフェは外の席がいいな。ルティアはよく外の席に座りたがっていたっけな。
それにしてもルティアはどこにいるんだろう?
やがて私はルティアを探すのを諦め、また教えられた電話番号にかけることにした。
また先ほどのマダムが電話に出て、事情を伝えると、車で迎えに来てくれるらしい。あるホテルの前を待ち合わせ場所に指定された。「車で来てもらうのはいいけど、自転車があるんだ」と伝える前に電話は切れてしまった。
やれやれ。
ここまで来たらなるようにしかならない。
指定されたホテルの前で待っているとミントグリーンのビッツ、いやニュージーランドではヤリスか、とにかくやってきて、私の前で止まった。
中からいかにもな感じのマダムが出てきた。年は60ぐらいだろうか、海外のよくいる感じの恰幅のいいマダムである。
彼女は私の自転車を見るなり「自転車は運べないわね。ついてらっしゃい」
マダムはそう言うと、車に乗り込み、すぐにミントグリーンのヤリスは走り出した。
マダム、待ってくれ。
そんなに速く走れない。
しかし、そこはさすがにしばらく行くとミントグリーンのヤリスは待っていてくれた。
セントラルからそう遠くないところにマダムの家があった。
白い平屋でガレージと庭のある明るくてかわいい家だ。いいな、こういう家。
マダムは名をアニータといい、まだルティアは戻ってないから、とリビングでジュースを出してくれた。
ジュースを頂いていると旦那さんが現れた。旦那さんはレイ。少しパーキンソン病の気があるらしく、ゆっくり体を動かしていた。
特にすることもなく、リビングでボッーとしていたが、レイが車でどこかに出かけるようで、成り行きでわたしもついていくことになった。
例のミントグリーンのヤリスの助手席に乗り込む。レイの運転は非常にのんびりしたものだった。むしろゆっくり過ぎてドキドキするぐらいの運転だった。
車はカーディーラーに着いた。レイは駐車したが、サイドブレーキを引かなかったので、私が降りるときにさりげなくサイドブレーキを引いておいた。
ディーラーでレイはしばらく何か相談していたようだが、私の英語力ではよく分からなかった。コーヒーを出されたので有り難く頂く。ディーラーの人からしたら、私はよくわからない人間だったと思うが。
ディーラーでレイが用件を済ませ、レイの家に戻ると、ルティアが待っていた。
“Shima!”
ルティアは私の姿を認めると、嬉しそうに名前を呼んでくれた。
我々は再会を喜んだ。
ルティアは帰国まであと一週間ほどあり、しばらくここに滞在するという。アニータたちとの関係を聞くと、直接の友達ではなく、ルティアの妹とアニータが友達、ということだった。
うん?
アニータからすれば、ルティアは友達の姉というのはいいが、私はその友達である。このままの流れだと晩御飯をご馳走になってそのまま泊めてもらう勢いだが、どうしたものか。
ルティアにそのあたりの話をすると「あなたが来ることは伝えてあるから、いいのよ。」とルティアは言う。
そうこうしていると、レイがバスタオルを持ってきて「シャワーを浴びてきなさい」と言う。
まあいいか。
ご厚意に甘えよう。
夕食の時間になった。
アニータとレイの友人夫婦を迎えて、さらに我々もいるからなかなか大所帯だ。
夕食は焼いたジャガイモとサツマイモ、カボチャが主食で、ボイルした野菜がたっぷりとラムが出た。ニュージーランドに来たら一度はラムをと思いながら食べていなかったので嬉しかった。
「あなたラム大丈夫?まえにうちにホームスティしてた日本人は食べなかったわ。」とアニータに聞かれた。
「ラム美味しいね。私はだいたい何でも食べるよ」と答えた。いつもお腹を空かしているせいもあったがとても美味しい食事だった。
食事が終わり、リビングでいろいろ話す。もっとも、私はほとんど聞き役だったが。
ルティアはこれまでにグリーンランドに3回も行ったことがあるらしい。
さすがだ。。羨ましいクレイジーレディである。またそれでいてクレバーなのがカッコいい。
そんなことを話していると、アジア人の女の子が部屋に入ってきた。どうやら彼女はここにホームスティしているらしい。名をココと言った。
この日彼女は友達の家に泊まるらしく、何と私が彼女のベッドを借りることになった。
やいやい。
成り行きとはいえ、ニュージーランドに来て女の子のベッドで寝ることになるとは…
一応、自分のシュラフシーツにくるまってからベッドに入った。
ココのベッドはドキドキしたが、ふかふかのベッドが久しぶりということもあり、意外とあっさり寝てしまったのであった。