定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

西海岸の果て -cycling NewZealand -

四月になった。

フォックスグレイシャーの朝は雨かと思っていたが、幸い晴れていた。

前日キッチンで見かけたじいさんが「いい天気で何よりだ」と声をかけてくれた。ここのキャンプ場はなぜか年配の人が多く、リラックス出来てよかった。若い人が多いとその元気の良さに疲れてしまうのだ。マイペースなじいさんたちは自分の緩やかなペースで話しかけてくれる。私ももっと英語が出来たらいろいろ話が出来るのに。

 

この日は120キロの久々の長丁場で、早起きして出発する予定だったが、前日の夜、テントの外にネコがウロウロしていたり、無性にお腹が空いて、夜トースト四枚食べたりしていたら、いつも通りの時間に起きることになってしまった。

 

起きた時間に引き摺られ、出発もいつも通りの八時半。

 

120キロということで気合いを入れて走り出したが、前半80キロはフラットな道のりで、冷静に考えれば急ぐ理由は全くなかった。

案 シダの覆い茂る森に囲まれた道をひたすらペダルを踏む。案の定、午前中で60キロ以上走ることが出来た。

 

途中、セントアーノルドで会ったKさん一押しの温泉へのアクセスである”Copland track”があったが、ここから温泉までは途中、川を越えながら8時間歩き続けなければならない。

Kさん曰く「乳白色の温泉を独り占めしてキャンプするのが最高」。そんなとこなら行ってみたいものだが、自転車がある私には難しい相談だった。諦めてコップランドトラックを後にした。

 

小さな湖のピクニックエリアでランチタイム。

前日作ったライム風味のチキンサンドとピーナツバターサンドを食べる。インスタントラーメンも食べようと思ったが、サンドフライの集団に襲撃に合い、ラーメンを断念。

サンドフライって何だ、という話であるが、ニュージーランドフィヨルドランド周辺に生息するハエのような生き物で、大きさは蚊ぐらいの小さいものである。しかし、形はまさにハエである。

何が大変かというと、奴らは皮膚を刺すのである。

刺されると猛烈に痒い。そして一旦痒みが収まっても、また忘れた頃に痒みがぶり返してくるという、まあ厄介な奴らなのである。しかも、服の上からも平気で刺してくるのだ。初めて遭遇したのは恐らくセントアーノルドあたりだが、グレイマウスを出たあたりから頻繁に遭遇することになり、この頃には毎日、サンドフライとの戦いだったと言っていい。とにかく勝ち目はないので、集団で遭遇したら逃げるしかなかった。

日記にはこうある「あいつらホント死ね!ワナカあたりまでいるのか?」と。

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ランチのあと、目的のHaastを目指して再び自転車を漕ぐ。

 

私と入れ違いでニュージーランドでワーキングホリデーをしていた友人のトオルが「島ちゃん、南島の南の方なんて100キロくらいホントに何にもないんだよ。島ちゃんそんなとこ行ったら死んじゃうって」と大げさに言っていたが、あながち間違いでもない。

これまで半日走ればなんだかんだでカフェやレストランの一軒くらいあったものだが、見事に何もない。翌日もこんな感じだろうか。雨じゃないといいが。

 

後半、山があったが、この日は非常に調子が良く、全く気にならなかった。天気は曇りだったが、Good ride Dayだ。

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目的地のハーストには3時台に到着した。随分早いペースだったな。

 

ハーストの街はなるほど、果て感が強い。一軒のゼネラルストア、ユースホステル、バス停、公衆電話。以上。これまでにない辺境感だ。

 

宿泊はキャンプサイトもやっているユースだ。キャンプにしようと思ったが、雨が降ってきたので、相部屋を取った。

 

ゼネラルストアは物の値段がほかの街の1.5倍だった。肉類で一番安いソーセージなどを買い、20ドル。高い。そしていつもそうたが、安いソーセージなど美味かった試しがない。

 

ユースに戻る。まだ時間が早いせいか、客は少ない。

天気予報を確認すると明日は雨らしい。明日は久々の難所の予定だ。雨の中正直走りたくない。とはいえ、物価の高いハーストに滞在というのも辛い。どうしたものか。

同室の男がサイクリストで彼は私と反対側から来たらしい。雨と物価が高いのが辛いというと、「日本円は今レートいいんだろ?大丈夫さ」と言われるものの、今のレートが分からない。雨については彼は面白い対策をしていた。靴ではなく、サンダルを履いて、防水のソックスを使えば濡れないという。防水ソックスなんて考えたこともなかったが、そういう手があるのかと感心した。

当たり前だが、濡れた靴はかなり不快だし、中々乾かない。いつも靴の雨対策には苦慮していた。

のちに自転車屋で防水ソックスを売っていたので、使い心地を聞くと、中に水が入ると抜けないと教えてくれた。どうやら彼が言っていたほど快適ではないようだ。

 

キッチンで安いソーセージを調理していると外でキャンプしているサイクリストの男が隣で調理を始めたので話す。イギリスから来たらしいが、とても聞き取りにくい英語を話していた。丸メガネでチリチリな金髪。ちょっと神経質そうな感じだ。

彼は「おれの鍋を気にしててくれ」と言ってコンロを離れた。私も自分のことで忙しく彼の鍋を気にする頃には焦げていた。

彼は焦げた鍋を見ると私には何も言わず、鍋を持ってブツブツ言いながら外へ出ていった。なんかすまん。火、止めてけよ。

 

予想通りうまくなかったソーセージを食べて食器を洗っていると、感じのいい中年女性と一緒になった。「洗剤とってください」とお願いすると「どうぞ」と渡してくれたので「ありがとう」とお礼を言うと”My pleasure”と言ってくれた。

その人のお連れさんだろう、アジア人の女性が「どういう意味?」と中年女性のほうに聞いて、説明してあげていた。

中年女性と話をしてみると、アジア人の女性をホームステイで受け入れていて、今は一緒に旅行中らしい。それでこのハーストに来るなんて中々やるな。

 

外を見ると雨が降り続いている。

 

金はないが、今すぐ尽きるというほどではない、と自分に言い聞かせて、一日待てば天候も良くなるかもしれない、と淡い期待を抱きながら、この何もないハーストにもう一日滞在することにした。

 

さて、明日一日。どうしたものか。

飲んで過ごすのか。