定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

ブドウ畑の風景 - 甲州・富士山ソロキャンプツーリング -

ローカル食堂を堪能した私は国道を離れ、釜無川の左岸の谷を走る道へ出て南下した。今回の旅のガイドブックにしている『ツーリングマップル』のオススメルートに乗ったのだ。『ツーリングマップル』はバイクツーリング用のガイドブックだが、車の少なく走りやすい道やソロでも使いやすいキャンプ場が紹介されており、自転車ツーリングでも使いやすい。今回のルートも国道からのアプローチやや上ったが、車が少なく快適だった。道は広域農道のようだ。

丘を上がっていく道の両側にブドウ畑が現れた。

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収穫を待つばかりといったブドウが鈴なりだ。畑によって作っている品種が異なっており、こちらは巨峰の仲間、少し進むとマスカットの仲間、と次から次へと現れる様々な種類のブドウ畑を眺めながら坂を上がって行く。

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ブドウ畑の間に田んぼが点在しており、ブドウ畑と黄金色に輝く稲穂が美しいコントラストを作り出していた。

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私の住む街も郊外に出るとブドウ畑は多いが、斜面にこんな風には作られない。甲斐の国はブドウの産地、と知ってはいても、こうして実際の景色を見るとここにしかない風景なんだな、と分かる。

 

そんなことを考えながら、「ああ、旅をしているんだ。」と実感が湧いてきた。

 

そうしてブドウ畑を見ていれば当然ブドウが食べたくなる。ある農園の直売所の看板が目立っていたのでそこに向かう。

 

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よく写真を見て欲しい。

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あまりに素っ気ない貼り紙に吹いてしまった。まあ縁がなかったということだな。

 

広域農道を外れ甲斐市の市街地に出る。更に南下するため、釜無川の河岸道路にでて走る。時折大きなダンプカーに追い越されたりしたが、街場を走るよりは走りやすかったのではないだろうか。

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途中、道沿いに「はくばく」の工場を見つける。

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そういえば山梨が本社だったか。どこかで土産にはくばくのほうとうでも買おうと思った。

 

この日の宿泊はツーリングマップルで見つけた四尾連湖(しびれこ)のキャンプ場だ。今回の旅で事前にまともに調べたのはキャンプ場と電車のダイヤぐらいのものである。

四尾連湖はかつて今の富士五湖を含めた富士八海の一つに数えられた湖で、綺麗な丸い形をしたカルデラ湖である。

山の中にあるのがなんともいいじゃないか。私は海外も含め中々の数のキャンプ場に泊まったが、やはり湖畔のキャンプ地は格別だ。私は一日目の宿泊地をすぐにそこに決めた。

決めてから調べてみると、湖の周囲は私有地で、二軒あるキャンプ場に予約が必要なようだ。しかもそのうちの一つはマンガ「ゆるキャン△」で舞台になったいわゆる聖地らしい。正直げんなりしたが、泊まるのは平日だし、混んでないだろうとタカをくくっていたが、聖地のほうのキャンプ場「水明荘」に電話をすると予約で一杯だという。ムムム。

仕方なくもう一軒の「龍雲荘」の方に電話すると感じのいいおばはさんが出て、予約は問題ないという。

自転車で4時か5時に行く、と伝えると、すごい山だから大変だと言われるが、まあいつものことであある。

 

キャンプ場を予約した後、Amazonプライムで「ゆるキャン△」のアニメが無料だったので参考に見てみたが、思ったよりいいアニメだった。私もキャンプを始めたころは学生で道具がなかなか買えなかったので、そのあたりの描写が共感できた。

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身延線市川大門駅近くのスーパーで買い出し。キャンプ場でも買える気がするが、キリンがなかったらコトである。

よその街のスーパーが楽しくて思いの外、時間を使ってしまう。すでに時間は4時を回っている。ここから四尾連湖まで約10キロの上りだが、まあ1時間見ておけば大丈夫だろうと過去の経験から判断した。

 

しかし、それは甘かった。

最初のアプローチからかなりいい斜度の上り。どうだろう15%くらいあるのではないだろうか。すぐにペースは落ちて時速7キロほどになる。一旦、市川三郷で一瞬下りになるが一瞬の話。そこからさらに長い上りが続く。気がつけば1時間以上上っている。とうに到着予定の5時は過ぎた。

集落の名前と地図を照らし合わせ、現在地を確認するが、全然進まない。

四尾連湖まで最後の集落を抜ける。あと少しのはずだが、また斜度がキツくなる。もう時速は5キロほどしか出ていない。それでもなんとかペダルを踏み続けると、ようやく四尾連湖の看板が見えた。

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予定より到着が遅れたので、とりあえず龍雲荘に行く。四尾連湖が見えた。静かな美しい湖だ。あとでゆっくり堪能しよう。

龍雲荘は昔ながらの観光地の食堂のような建物だった。近くまでいくと、電話で話したおばさんだろう、「予約の人?」と声を掛けてくれた。

 

「遅くなってすいません。」わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。

 

「自転車で来るって言ってたから、時間通りに来れないんじゃないかって思ってたのよ」おばさんは笑って言った。おっしゃる通りで言葉もない。

 

チェックインの手続きをする。自転車は一泊1500円でいいという。しかも聞けば客は私だけらしい。ますます申し訳ない。

 

テントサイトは湖畔には面していないが、非常にきれいに掃除がされており、サイト上には落ち葉もほとんどないほどだ。施設は全体に昭和感満点だが、ちゃんと手入れがされていて非常に好感が持てた。

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ざっくりテントを張る場所を決め、自転車から荷物を下す。するとおばさんが「どこにする?東屋の下でもいいよ。雨降るかもしれないし。」と優しい言葉をかけてくれる。私は東屋のそばにテントを張ることにした。

 

さて、そこまでやれば、あとはどうとでもなる。

苦労して下から運んできたビールを持ち、湖畔に行く。湖は静かで美しい。

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長く充実した一日に乾杯した。

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久しぶりにいい湖に来たな。桟橋から対岸のキャンプ場が見える。あれが水明荘のサイトだろう。距離を置いてテントが二張。一方には焚火の明かりがみえる。サイトは湖畔に面しており、確かに良さそうだ。他にテントが見えないので、水明荘は静かに過ごせるよう予約をコントロールしているのだろう。ここは騒ぎにくる場所ではない。静寂が似合う。

 

ビールを飲みながらテントを張る。昔、ニュージーランドで一緒になったスイス人サイクリストがいつもビールを飲みながらテントを張っていた。テント張りながら、すぐに次のビールを投げて寄越したっけな。

 

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テントを張り終え、薪を拾いに行く。今どきにしては珍しく、このキャンプ場は直火OKだそうだ。薪と着火用の杉の葉を拾う。

 

空が暗くなってきた。お腹が空いたので晩ご飯を作る。晩ご飯はペンネだ。茹でてソースをかけるだけだが、私はドライハーブと粗挽き胡椒を加えて少しアレンジする。ペンネはスパゲティと違い、バッグのなかで折れたりしないので旅に携帯するのにいい。

 

食事を終えると、あとは焚火とウィスキータイムだ。

焚火は簡単についてくれた。

火の隣に焼きとりの缶詰めを置いて温める。これも私がソロキャンプでよくやる。

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四尾連湖は標高900m近くあり、9月半ばでも肌寒い。焚火が嬉しい。自転車のソロキャンプで焚火なんて贅沢だ。

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朝早かったこと、最後の上りがきつかったこと、アルコールが回ってきたことなどが重なり、もう10時くらいか?と思って時間を確認するとまだ8時だ。

 

子供たちはまだ起きている時間のはずなので、家に電話する。

長女はスイミングの日で疲れてもう寝てしまったらしい。次女に「明日は富士山のあたりに行く」と言うと「富士山の写真撮ってきてね」と言うので私は写真を撮ったらお母さんのケータイに送る、と約束した。

 

家族がこうして時間をくれるのは本当にありがたいことだ。私は残った火を処理するとそのままテントに潜り込んだ。