沖縄から東栄町に移住してきた金城愛氏(少し前に結婚して西田さんになった。私は前のまま「金ちゃん」と呼んでいる)が経営する宿で、全国のゲストハウスを巡って旅をしている人や田舎暮らしに興味のある人が集まるところだ。
そうした外の人だけでなく地元の若い人々も集まる拠点にもなっている。
我が家は年数回、このdanonに泊まるのが年中行事になっている。特に何かするわけでもなく、とうえい温泉に入って、danonの他のお客さんといっしょにご飯を食べて、大人はそのまま深夜まで飲み明かすだけだ。
お客は口を揃えて「田舎の親戚の家みたい」という。
古民家を改装した宿の中は、金ちゃんのセンスでお洒落な雑貨と昔の道具がいい感じに馴染んでいるのだが、とにかく落ち着く。
この日は夕方に着いたので、とうえい温泉の割引券を金ちゃんにもらうと、すぐに温泉に行く。一人で豊橋から泊まりに来ていたKさんをついでに乗せていく。だのんではよくあることだ。
とうえい温泉は湯がとてもいい。近隣にいくつかある日帰り温泉の中でもお気に入りの温泉だ。
うちの子供たちは、だのんに行く楽しみの一つがとうえい温泉に入ることである。まあ私もそうだが。
一緒に入った長男は「次はボコボコのとこー」とか順番にいろんな湯に浸かっていた。初めて来たときは怖がって私にずっとくっついていたものだが。
湯上りはソフトクリームを食べるのも習慣になっている。ビールはだのんに戻ってからだ。ソフトクリームのほとんどは子供たちが食べてしまう。
だのんに戻ると早速ビールを開ける。家から持ってきた自家製の燻製を肴に、キッチンで金ちゃんや旦那のニッシー、Kさんと話しながらゆっくり飲む。
夕食の支度ができるとそのまま夕食に突入し、みんなで食卓を囲んでスタンバイ。うちの長女が小学校風に「手を合わせてください。いただきます!」といい、みんなが「いただきます!」と声を揃えていう。ほんとほのぼのしている。
この日の夕食はチキンカツで、「チキンカツってみんなよく食べるんだよね」と金ちゃんが言ったがなるほど納得である。胸肉を使っていてアッサリしているのもあるだろうが、パクパク食べられた。
食事が終わり、子供たちは隣の部屋で遊んでいる。少し食卓の上を片付けたが、そのまま私は飲み続けた。毎回こんな調子である。
この日はKさんに、どうしてだのんに来たのかを聞いたり、金ちゃんや私の若い頃旅した話とかをしながら、Kさんの年の頃を思い出したりした。
こうして初対面の人とゆっくりお酒が飲めるのもなんだか旅をしているようで、好きな時間だ。私に絡まれるほうはどう思っているか分からないが。
用事で出かけたニッシーの帰りを待っていたが、睡魔に勝てず、日付が変わる頃、眠りについた。
朝、目を覚ますと、となりに寝ていた長女と目が合った。他の家族は眠っている。私は長女と二人で起き出した。
キッチンではすでに金ちゃんが朝食の支度をしている。
「おはよ、しまちゃん。二日酔い?」
毎回、夕方から深夜まで飲み続けているので、だのんの朝はいつも二日酔いだ。
私はとりあえずコーヒーを淹れる。
二日酔いで少しだるい朝のこの時間が好きだったりする。
長女は気に入った本があったのか、起きてから静かにずっと本を読んでいる。
Kさん、わたしの家族と順番に起きてくる。起きてきた大人にはコーヒーを勧める。
朝食
朝も揃っていただきますをする。
スパムの入ったニンジンシリシリと玉子焼きがだのんの朝の定番だ。普段はあまり朝食は食べない方だが、だのんの朝はしっかり食べる。単純においしいからだと思う。
食事が終わるとニッシーが、外でテントサウナをやってくれるというので、短パンに着替える。
早速テントの中に入る。
おお、なかなか暑い。
中は大人4、5人が座れるようベンチが置いてあり、薪ストーブが焚かれている。薪ストーブの上には石が置かれており、そこにニッシーが柄杓で水をかけてくれる。
石に水をかけるとすぐに水蒸気になる。
ニッシーがタオルで熱風を送ってくれる。
なるほど、これはいい。
しばらくたって体が火照ってくる。汗がよく出る。
「川に入っておいでん」とニッシーが言う。
テントから出るとそのまま隣の川に飛び込む。
かなり冷たいが気持ちがいい。
この日は日差しが暖かく、外のベンチで座っていると気持ちがよかった。
素晴らしいタイミングで金ちゃんが冷えたジャスミンティーを持ってきてくれる。
最高だな。
その後、更に2セットサウナと川ダイブをしてすっかり気分爽快である。
ちょうど、お客さんのマッサージをしに来ていたタイ古式マッサージ師のでらちゃんが
「しまちゃん、サウナしたー!って感じのいい顔になっているよ」と言ってくれた。
これでリフレッシュしなかったら嘘だろう。
だのんにお泊りの際はテントサウナ、是非試してみて欲しい(要予約、別料金)。
サウナを満喫した後、我が家はだのんを後にした。
今回は比較的静かな滞在だったが、充実した時間を過ごすことが出来た。
だのんの帰り道、前から行ってみたかった東栄駅前の雑貨屋さん「maru-kai」さんに立ち寄る。
ここは昨年オープンで、東栄町を中心に奥三河のハンドメイドクラフトが売られているお店である。道の駅では多少そうした製品が手に入るが、こうしてまとめて売られているところは殆どない。
店内はとてもおしゃれな空間だ。いい意味で奥三河らしくない。
雑多な商品と一緒に売られてしまうと、地味に見えてしまいがちなものも、maru-kaiの店内では、一つ一つが個性的で魅力的に見えた。
店主のなつきさんのセンスだろう。
なつきさんはそれぞれの商品について、詳しく説明してくれる。
どんな人がどんな風に作っているのか、どう使ったらいいのか。
商品の幾つかは私の知り合いのものもあった。
欲しいものはたくさんあったが、家で実際にどこに置くかイメージできるものだけ買うことにした。
私はアイアンの花器と鹿の時雨煮を、妻は繭花を購入した。繭花は前から家に欲しいと思っていた。
繭花は東栄町のおばあちゃんたちが作っていて、町内で買い求めることが出来る。なつきさんによれば、繭花を作っているおばあちゃんたちが作品に合わせて色も自分で染めて作るのだという。とても凝った作りでしかもどれも優しい雰囲気だ。
奥三河の人は手先が器用で何でも自分で作ってしまう人が多いが、いざ物を売るとなると、なかなか上手にできない人が多いように思う。
マルカイではそうした商品の一つ一つのストーリーを教えてくれる。
奥三河に必要なのはこういう店だ、
そう思った。
マルカイの後、新城の梅の名所「川売の里」へ。
私は何度か来ているが、妻や子供たちは初めてだ。
満開の時は、車で来ると後悔するほど道が狭いが、この日はまだ6分咲きほどでそこまで車は多くなかった。
「いいにおい」長女が言う。
私は深呼吸をして体いっぱいに梅の花の香りを取り込んだ。
今年は奥三河の春も早い。
だのんに行くこと以外、全く決めていなかった休日だったが、奥三河はいつものように癒しをくれた。
奥三河の春は本当に美しい。また近いうち来ようと思った。