これはまだコロナの緊急事態宣言が出されるまえの頃の話だ。
珍しく豊橋の里山に行って子供達はけっこう歩ける、ということが分かり、新城市の山に行った。
選んだのは、新城市にある風切山。風切山は桜の名所である桜淵公園からアクセスできる山でここも標高356mと比較的低い山だ。
ちなみに風切山の情報は新城市のスポーツツーリズムのページに詳しく載っており、私もこちらを参考に歩いた。
今回は自分の子供達と長女の友達のTちゃんを連れて行くことになった。
午前11時頃、桜淵公園を出発。
まずは山の入り口にある荒沢の滝に向かって県道沿いに北に向かう。
子供達は元気よく歩いて行く。
暖かくなってきて、いろんなところに花が増えてきた。女の子達はタンポポや他の花を摘んだりして、道草しながら楽しそうに進んでいく。
「あ、つくし」次女はつくしを見つけると摘み始めた。長男もそれを見ていっしょに摘む。どうするのか聞くとお母さんに煮てもらうらしい。なるほど、それで一生懸命な訳だ。
長男は次女のつくし取りをいっしょにしながら、トカゲを見つけたらしく、捕まえようとしたが、逃げられたようで残念そうだ。
荒沢の滝の入り口には段々になった田圃が広がっており、彼岸花の名所として知られている。
今の季節はタンポポがたくさん咲いている。長女とTちゃんがタンポポで花束を作っている。
ほのぼのとした様子を妻とTちゃんのお母さんに伝えようと写真を撮るとTちゃんが「送っちゃダメだよ。お母さんにあげてびっくりさせるんだから。」と言う。かわいい子である。
桜淵公園から荒沢の滝の入り口まで子供の足でも20分あれば行くかと思っていたが、文字通り道草をして小一時間かかった。山の上でお昼を食べようかと思っていたが、もう12時であった。子供達にお腹が空いたか訊ねるとまだ大丈夫というので、お昼は歩いた調子で決めることにした。
田圃の横の獣害除けの柵を開けて荒沢の滝へ向かう。
沢沿いの斜面を上がっていく。荒沢の滝には不動明王が祀られており、赤いのぼりが道に何本も立っていた。
田圃の入り口から荒沢の滝まではあまり時間は掛からなかった。随分前に私が来たときにはほとんど水がなかったが、今回はまずまずの水量があった。
子供達は滝壺のそばで水に手を入れ、「冷たい!」といいながら、キャッキャっと楽しそうだ。
山から降りてきたのだろう年配の夫婦がやってくる。軽く挨拶をして、我々は山道に戻った。
先に行く長女たちが分かれ道で「どっちー?」と振り返って聞いてくる。
風切山のハイキングコースには要所要所に看板が立っており、迷う心配はない。このルートは初めて来るが、他のルートで風切山に登ったことが数回あるので道の心配はしていなかった。
しばらく行くと「だんご山」というところに出る。
少し視界の開けたところで古いベンチがあった。
ここで少し休憩。おやつを食べる。子供達は自分のカバンからおやつを出して食べ始める。私はタンブラーのコーヒーを飲み、飴を一つ口にいれた。
ベンチとその隣には東屋があったが、そちらは破損しているのか使用禁止になっていた。さらにその先には石碑があり、「山の神」と彫られていた。
「山の神」というのがどんな神様かよく分からないが、安全に山で過ごせるようお賽銭置くと手を合わせておいた。
ベンチの近くの斜面にカタクリ花が咲いていた。
子供達はカタクリを見るのは初めてだったようだ。
「綺麗なお花だね。」
子供達はしゃがんでカタクリの花を眺めていた。
カタクリの群生地からしばらく行くと年配のご夫婦とすれ違う。子供達は元気に挨拶した。
そこからさらに行くと老人福祉センターに出る。
ここでも少し休憩。老人福祉センターが開いていたらトイレを借りようかと思ったが、週末は開いていないようだ。
ここから本格的に風切山の登りに入る。
このから先は何度か来たことがあるのでルートの心配はない。
子供たちは相変わらずワイワイいいながら、楽しそうに登っていく。上の子たちについていけない長男と後ろからゆっくりついて行く。
風切山の山道には280を超える石仏が祀られており、少し進むと次の石仏に出会う。
先を行く長女とTちゃんは石仏と出くわすたびに律儀に手を合わせていた。
次女のペースが遅れてきた。
「お父さん、お腹空いた」
確かにそういう時間だが、せっかくなら山の上でお昼を食べたい。次女を励まし、先に進んだ。
それからしばらく山道を進むと林道に出る。ここは景色がいい。新城市内が一望できる。
ここでお昼ご飯でもよかったが、次女以外は山頂まで行く気になっていたので、次女を励ましつつ、そのまま進む。
長女たちが前で何か騒いでいる。
Tちゃんが何か捕まえたようだ。Tちゃんは手の中のトカゲを見せてくれた。最近、トカゲが捕まえたくて仕方がない長男はTちゃんを羨望の眼差しで見ていた。
Tちゃんはトカゲを長男に渡してくれたが、長男はトカゲを逃してしまった。長男は残念そうだが、Tちゃんは「いいよ」と言ってくれた。
私はしばらくTちゃんと話しながら歩いた。Tちゃんのお父さんは仕事が忙しく、Tちゃんとなかなか遊べないが、休みの日には山に行ったり、アウトドアショップに行ったりするらしい。
Tちゃんは「これお父さんに買ってもらったんだ。」と首からぶら下げたバードコールを見せてくれた。
Tちゃんがバードコールを「キュッキュッ」と鳴らすと森の中から鳥の声がして、バードコールに応えていた。
私は思わず「おおっ」と声を上げた。
鳥が応えてくれたのがよほど嬉しかったのだろう、Tちゃんはその後もしばらくバードコールを鳴らしていた。
山頂まであと少し、というところで長男がまた遅れてきた。お腹が空いたと何度も言っていた次女は長女たちと先に進んでいる。
疲れてきた長男を励ましながら、先に進む。
山頂近くの分岐で長女たちが待っていた。
「こっちだよ。もうあそこがてっぺんだから」
女子3人は元気に走っていく。
山頂に着いた。
新城市の山の南側が見える。子供たちに、どのあたりが何かを説明したが、あまり伝わらなかったようだ。行ったことのない場所の話をしてもそうなるよな、と思った。またいろいろ連れて行かないと。
時計を見るともう2時近い。腹も減るわけだ。
私は荷物から敷物を出して広げる。
山頂は風があり、日向にいても少し肌寒いくらいだ。
子供たちはカバンからお弁当を出して広げる。
みんな揃っていただきますをした。
Tちゃんがみんなにミニトマトを配ってくれる。口に入れると甘みと優しい酸味が口に広がった。
私はバーナーストーブを出すとお湯を沸かし、フリーズドライのお吸い物を作る。妻が作ってくれたおにぎりとよくあった。
日が陰って、吹き付ける風が冷たい。
子供達にお吸い物を回す。温かいものを用意してよかった。
子供たちは持ってきたおにぎり弁当をあっという間に平らげてしまった。
たくさん歩いてたくさんエネルギーを使ったのだろう。体を動かしてたくさん食べるのはいいことだ。
子供たちはまだ食べ足りない様子だったので、私はチキンラーメンを作ると子供たちに分けた。
結局、チキンラーメンは子供たちがほとんど食べてしまい、私は自分用にもう一つ作った。二つも要らないかと思っていたが、念のため持ってきてよかった。
遅めのお昼を終えると、来たルートとは別のルート、ちょうど車を置いた桜淵公園のすぐ正面にでる道で山を降りた。
帰り道は途中から舗装路だったが子供たちは「だるまさんが転んだ」を始めてしまい、なかなか車に戻るまで時間がかかってしまった。
桜淵公園に戻り、Tちゃんに「楽しかった?」と聞くと「うん。またお願いします。」とTちゃんはペコリと頭を下げた。
またTちゃんを連れて山にハイキングに行きたいものだ。