定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

乗鞍へ - RIDE DaMONDE -

ダモンデの仲間で最近ロードバイクを購入した上野さんとダモンデメンバーでライドに行ったとき、乗鞍の話題になった。ダモンデメンバーで時々一緒に走るえーしは行ったことがないという。

 

乗鞍は日本のサイクリストにとって特別な場所、といえると思う。

日本で最も有名なヒルクライムの大会「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」が開かれる場所であり、自転車で標高2700mまで上がることができる場所は他にほとんどない。

 

我々ダモンデのメンバーも3年前に一度上っている。乗鞍観光センター駐車場から乗鞍岳畳平までの20.5キロ、標高2700mまでのヒルクライムは誰にもとってもチャレンジである。

 

今回のメンバーは初めて乗鞍を登る上野さん、えーしを始め、ダモンデの代表山田さん、早川さん、タツマくん、私の6名である。

早朝新城に集合した我々は途中、えーしを拾い、スタート地点となる乗鞍観光センター駐車場に向かった。

 

現地に着くと素晴らしい快晴。

この場所で既に標高1450mとあって涼しいが、日差しが下界よりきつく感じられる。

 

我々は車からバイクを降ろし、各々準備を始めた。

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タツマくんが「シューズがない」と騒ぎ始める。しばらく車の中を探すが見つからない。

「おかしいな」

 

ロードバイクに乗る場合、ペダリング効率を良くするためにビンディングペダルを使うのが一般的だ。専用のシューズの裏に取り付けられた部品でペダルに足を固定して走る。あるとなしでは足の使い方も違うし、使わないと効率が悪い。

シューズが見当たらないタツマくんは結局、履いていたトレランシューズで登ることとなった。

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準備を済ませ、スタート前の記念撮影。

 

久しぶりの乗鞍へ、ペダルを踏み始めた。

 

我々の乗鞍ライドは、自分を追い込み頂上までのタイムを計測するとかそういう類のものではない。

美しい乗鞍岳の景色を楽しみながら、無理のないペースで仲間と話しながら登って行くのだ。

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ダモンデ山田さんは前日の練習で追い込んだせいか、身体が重いという。しばらくして気がつくのだが、ブレーキがホイールに擦った状態で走っていたらしい。平地ならばブレーキの引きしろの違いで気がつくこともできたのだろうが、乗鞍への道はひたすら登りのため、ブレーキをかけることがなく気がつかなかったらしい。

 

まずはマイカーで入ることができる一番奥の駐車場、三本滝駐車場を目指す。



三本滝駐車場までは軽くサドルトークをしながら順調に上がっていく。

 

初めての上野さんも遅れる様子はない。

上野さんは最近ヒルクライムを積極的にやっているそうだが、もともとやっているトレランで鍛えた基礎もあり、全く心配がなかった。

 

三本滝駐車場に到着。

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ダモンデ山田さんは朝ごはんが足りなかったのか早速ソフトクリームを食べている。

早川さんと山田さんはなぜか自然体でソーシャルディスタンスだ。

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三本滝から先はマイカー規制エリアとなるため、車はバスとタクシーしか入れない。そのあたりも乗鞍をサイクリストの聖地たらしめている所以だろう。

 

規制ゲートのおじさんに挨拶し、我々は先に進む。

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晴天の乗鞍は素晴らしいとしか言いようがない。

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仲間のはしゃぎ振りもなかなかだが、私自身楽しくて仕方がなかった。

 

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トレランシューズのタツマくんは斜度が上がるにつれ、だんだんと遅れ始めた。普段ならスイスイ登っていくタツマくんが苦戦しているのを見て、今更ながらビンディングペダルの恩恵の大きさに気付かされる。

 

しばらくして集団はバラけてくる。

 

冷泉小屋で一度止まり休憩。

周囲には硫黄の香りが漂う。

 

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山田さんがカメラを出してみんなの写真を撮ってくれる。私も久しぶりにロードバイクと一緒に写る写真を撮ってもらった。

 

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さすがカメラマンをしていたことがある山田さんである。このときの写真はお気に入りの一枚になった。


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次のポイントは位ヶ原山荘だ。

ここまではそう遠くないが、まずまずの斜度になっている。

 

時折、上から降りてくるサイクリストと出会うが、ebikeに乗っている人が多い。

自分の足で行きたいと思うのはサイクリストの思想であって、普通の人のアクティビティと考えるとこの使い方は正解だと思う。

 

位ヶ原山荘に着く。

 

ここまでくれば畳平まであと5キロだ。

山田さんは山荘に着くとすぐ、缶コーヒーを買った。

「ここまで飲み物を上げてくれる人がいると思うとね。今はお客さん少ないだろうし」

 

相手のことをいつもよく考えている山田さんらしい一言だ。

我々はそれぞれ飲み物を買い、しばらく休憩。

 

頂上は晴れているだろうか。私は畳平のほうを見上げた。気になるのはそこである。せっかくなら晴れの中を走りたい。

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ゆっくり走ってきたとは言え、15キロ以上続けて登っていればそれなりに疲れてくる。私は集団が分かれてきたところで自分のぺースで行かせてもらうことにした。

 

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標高も2500mを越えてくると空気が薄くなって身体が軽い。もっともその分呼吸は苦しいが。

 

周囲の木々が殆どなくなっていく。

 

森林限界を越えたのだ。

 

ここに来るたびにかつて旅したアラスカの景色を思い出す。全然違うのだけど、どこか通ずるものがあるのだ。ツンドラの向こうにカリブーが走っていって…

私が乗鞍にやってくる理由はここにもある。他では見ることのできないこの景色の中を自転車で走ることができるのだ。


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路肩の広いところで止まり、風景を眺めながら仲間が来るのを待った。ここまでくればゴールの畳平までわずかだ。

 

素晴らしい景色だ。ここでも充分に来る価値がある。


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仲間たちがパラパラとやってくる。


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みんな思い思いに写真を撮っていた。

 

全員揃ったところで記念撮影。


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揃いのジャージで登るのはいいな。

 

山の上から降りてきたライダーが止まった。

先週、新城のイベントに参加していたY氏だ。

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日本も人がいうほど広くない。

 

畳平まではあとわずか。

 

眼下には登ってきた道が広がる。

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そして行手にはゴールの長野県と岐阜県の県境が見える。

 

早くゴールしたい気持ちとこの素晴らしい景色の中でもっと走っていたいという気持ちが交錯する。

 

私は自分のペースを維持しながら、県境に到着した。

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ここはいつも風が強く吹いているが今回はあまり吹いていない。早川さんが驚いていた。

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こちらでも仲間と写真を撮る。

 

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何回来ても「ここまで来たな」と思う。

やはり乗鞍は特別感があるのだ。

 

 

畳平駐車場でバイクラックにバイクをかけるとウィンドブレーカーを取り出してすぐに羽織った。身体が冷えるのが分かる。標高2700mは伊達ではない。

 

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振り返るとと登ってきたエコーラインの方は灰色の雲に覆われ、白い霧がこちらにも流れ込んできている。

我々はほどなくして畳平駐車場を後にした。

 

つい先程まで青空だったのに、カーブの向こうが見えないほどに道は霧に包まれてしまった。

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早川さんとタツマくんは写真を楽しそうに撮っていたが、他のメンバーは順次来た道を降りていく。

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すぐに霧は雨になった。激しい雨が身体に当たる。身体に打ち付ける雨が痛い。海外で雹に降られたときがこんな感じだったので、雹かとも思ったが、その場の状況ではそこまで分からなかった。そんなことより、まずは少しでも早く下に降りることが重要だ。まだウィンドブレーカーは水を弾いていたが、じきに濡れてしまうのは明らかだった。

 

濡れ始めの路面はスリップしやすい。

私は焦る気持ちを抑えながら、バイクコントロールできるスピードを見極め、いつもよりやや速い速度を保った。ウィンドブレーカーはすぐに撥水性を失うと水を吸い、雨と下りのスピードが身体からどんどん体温が奪っていった。

そして、真横で大きな雷鳴が響いた。

「さすが乗鞍」感嘆とも悪態とも分からない言葉を吐きながら、山の下は晴れていることを確認し、早くそこまで行こうと決めた。

 

位ヶ原山荘まで戻る。

 

先行していたえーしが、行こうか止まろうか躊躇していたので、行くように合図する。濡れた身体で待っていては闇雲に体力を消耗するだけだ。

 

私は後続の山田さんが来るの待って、先行する上野さんとえーしが行ったことを告げ、先を急いだ。

 

水がついたホイールはブレーキが効きにくくなってきていた。いつもの力具合でブレーキがかからない。久々の状況に対応しながら、昔の雨のロングライドを思い出したりしていた。思えばこんなことを続けてもう20年になるのだ。

 

三本滝まで無事に戻る。

雨はほとんどあがっている。

 

私は先行した二人に声をかけると、すぐに温かい飲み物を買った。冷えた身体を温める必要があった。

 

後続の山田さんたちはずいぶん遅れて到着した。

その後にいた早川さんとタツマくんに何かあったのではと、位ヶ原で待っていたらしいが、後続の二人は写真を撮って盛り上がっていただけらしい。何とも早川さんらしい。

 

我々は体制を整えるとスタート地点まで戻って行った。

 

スタート地点の乗鞍観光センター駐車場は上とは対照的に穏やかなものだった。各々感想を語り合いながら、落ち着いて撤収を始める。

 

戻ると私はつい先程までいた場所を見上げた。

今回も感動と貴重な経験を得ることができた。

 

またこうして仲間と来よう。

素晴らしい景色の中を走るという、私にとって根本的な自転車に乗る理由を確かめるために。

 

そう思った。

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