Vineyard 28を後にすると、再びハイウェイに戻り、南を目指した。
次の目的地はBinningupだ。
本日の目的地、つまりキャンプ予定地であるBunburyまではそこまで距離がない。
朝方、ハイウェイ横を頑張って走り距離を稼いだおかげで、ワイナリーに寄ったがまだ時間がある。
朝の予定では、ワイナリーはスルーし(この先ワインを担いだまま走るのはどうかと思ったのだ)、ハイウェイ沿いにあるカフェで休憩して、ビニンガップで昼かなと考えていた。
ビニンガップには、軽食が買えるジェネラルストアがあるらしい。そこでお昼を買って、美しいと噂のビーチに行くことにしよう。

南北に走るハイウェイを1本外れ、まっすぐ西に、つまりビニンガップへ向かって伸びる道を進んでいく。左右にはどこまでが敷地か分からないひたすら平坦な牧場が広がる。

道を数キロ行くと小さな街が見えた。
ビニンガップだ。
カフェの看板もあったがカフェは見つけられなかった。ただ結果的にそれでよかった。
ジェネラルストアはビーチの少し手前にあった。

「これは期待していいやつだな。」
ジェネラルストアの壁に描かれたビーチの前にサーフボードと並んで立つカンガルーのジワる感じの絵を見て、私は呟いた。
ここはごく普通の、そして私が来たいと思っていた理想的なジェネラルストアだと、その絵を見て確信した。しかも店の名前が「Binningup General Store」とそのまんまの名前。
あまり大きくない日本のコンビニくらいの建物。
そして、建物の前にはガソリンの給油器。壁にはプロパンガスのタンク。
燃料から食料まで。街で暮らすのに必要なものが一通り揃う、そんな店。何かの映画に出てきそうな、ちょっと個性的だけど、ごくありふれたどこの街にもありそうなジェネラルストア。
旅をするなら、有名な観光地を回るのではなくこんなところに行きたいと思っていたのだ。

ビニンガップジェネラルストアの前には助手席に犬を乗せた車が止まり、作業着姿の運転手の男が ガソリンを入れて、店の中に入っていく。
そうそう、こんな日常の景色が見たかったのだ。
私は期待を胸に店に足を踏み入れた。
店内には食料品から生活用品、さらにはアルコールの扱いもあった。
また、奥ではハンバーガーやホットドッグを作っており、お昼を食べたい私はメニューを眺めた。
一通り店内を見て、昼ごはん用のゲータレードに少しの食料、ポストカード、それから店の壁画のデザインのコージークーラーを買う。

我が家のキッチン用品のデザインとは全く相入れないが、これはどうしても欲しかった。
レジで店のオーナーと思われるハキハキした感じのおばさんに「切手はある?」と聞く。ワイナリーで書いた手紙を出そうと思ったのだ。
「あるよ!どこに送るの?日本!ちょっと待ってね、いくらになるか調べるから」と彼女は郵便料金の書かれたファイルをめくりはじめた。いくらだろう?少し時間がかかってしまい、私の後ろにはレジ待ちの列ができてしまった。
彼女は息子だろうか、大人しそうな男性を呼ぶとレジを頼んでいた。
キビキビした感じで面倒見のいいおばさんとちょっとのんびりした感じの息子。これだけ見ても、よくありそうなジェネラルストアの親子といった感じだ。
「日本まで4ドル55セントね」と長いことめくっていたファイルから顔を上げると彼女は言う。
私は中途半端な金額だなと思ったが、一生懸命調べてくれたので、その言葉を信じて3通分もらうことにした。
3ドル一枚、50セント三枚、5セント一枚の組み合わせで出してくれる。ちょうどの値段の切手はないらしい。ポストカードにこんなに貼れるかなぁ。
案の条、午前中にワイナリーで書いたポストカードには貼る余白が足りなかった。 バンバリーに着いたらポストオフィスで買い直そう。一枚で済む切手があるはずだ。
仕方ないので、何も書いていないポストカードにとりあえず切手を貼り、新たに手紙を書いた。

もし私から4ドル55セント分のエアメールが届いた人はそういう事情である。
私はハンバーガーを頼むと「ソースは?BBQ?トマト?」とおばさん。「BBQで!」私は答えた。
会計を済ませるとき「いい?切手は4ドル55セントね!」念押しされた。バーガーは出来たら持ってくから外で待つように言われる。
表で待っていると、しばらくしておばさんはバーガーを持ってきて「旅を楽しんでね!」と手を振りながら、店の中に戻って行った。
ビニンガップストアは期待以上のジェネラルストアだった。
私は購入したハンバーガーを持ってビーチに向かった。

ビーチの入り口には小さな公園と清潔なトイレ、それに無料のシャワー。素晴らしいな西オーストラリア。
ハンバーガーと一緒に買った不自然に緑色なゲータレードを持ってビーチに降りていく。

日除けの下でハンバーガーを食べる。

刻んだレタス、ニンジン、オニオンとデカいビーフのパティによくある甘めのBBQソース。そうそうこういう普通で美味しいバーガー。こういうのが食べたかった。
田舎の普通の店でごくありふれたハンバーガー買ってを食べる、というのも今回の旅でやりたいと思っていたことの一つであった。
ビニンガップビーチでインド洋を眺めながら、何の変哲もないハンバーガーを食べてゲータレードを飲む。これ以上理想的なランチがあるだろうか。
ハンバーガーを食べ終わり、 今回の旅でやりたいことリストの一つをもう一つこなそうと、私は立ち上がった。
インド洋で泳ぐのだ。

ビーチに人はいない。
私はレーサージャージを脱ぎ、上半身裸になるとそのまま海へ走って行き、海へ飛び込んだ。

少し肌寒いような気もするが、最高に気持ちがいい。
しばらく海に浮かんだり、海鳥たちを眺めたりして久しぶりの海水浴を満喫した。
公園に戻り、屋外のシャワーを浴びていると、小さな白い犬を連れたおばさんと目が合った。
私がよほど楽しそうな顔をしていたのだろう、おばさんは優しい笑みを返してくれた。
