定着から放浪へ 放浪から定着へ

アイルランド、アラスカ、ニュージーランド、西オーストラリア、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

ミスから始まる移動日 - cycling Ireland -

夜明け前

バサバサッとテントのフライシートが強風に煽られる音が何度も聞こえてきて、私は薄く目を開けた。テントが大きく揺れている。雨も降っているようだが、木の下にテントを張ったおかげだろう、雨はそこまで当たっていない。

テントは激しく揺れるが、さすがのARAI TENTである。強い風の中でもしなやかに風を受け流していた。

嵐の中、今日乗る予定の電車についてチャットGPTで調べてみる。するとそんな電車はないと言う。おかしい。

予約をよく確認してみると私はキルケニー(Kilkenny)発ではなくキラーニー(Killarney)発の電車を押さえていた。キラーニーは、はるかに西の果ての街である。

予定では、今日は旅の前半戦から中盤から後半戦に向けて、電車でいったんダブリンに戻り、そこから更に電車でイギリス国境から50キロほどのドロヘダ(Drogheda)まで移動するはずだった。

思えば、もともとこの予約に違和感があった。経由地がキルケニーより南部の街で、わざわざ南から回り込むのかと思ったが、早朝便だったので、そういうこともあるのだろう、ぐらいにしか思っていなかった。その違和感を無視続けたのが致命的だったのだ。痛い教訓になった。

キャンプ場のリビングで途方に暮れる

この先の旅のプランも全て見直しではないかと、私は焦りに焦った。しかし、今日に関しては予定はゆとりをみてある。

電車を再度調べると8時ごろキルケニーからダブリンに行くの電車があるようだが、自転車の予約が取れない。アイルランドでは鉄道の予約をする際に一緒に自転車の予約をしておかないと自転車を乗せることができない。

その次の11時42分発の電車なら自転車の予約も取れる。だがもしかしたら駅で何とかなるかもしれないと、わずかな期待を持って、8時台の電車に間に合うようにをキルケニーの駅に向かった。嵐のような風は止んだものの、依然強い風が吹き、冷たい雨が降っていた。

キルケニーの駅は思ったより小さな駅だった。どうだろう、駅の大きさで言えば、普通電車しか止まらないJRの駅ぐらいのサイズではないだろうか。窓口を開いていない。これはダメだな。8時台の電車を見送り、小さな駅の構内で次の電車の予約を取ろうとしているとオレンジの蛍光ベストを着た駅員さんが話しかけてくる。私は事情を話した。どうやら朝の便は混み合っていて自転車の予約が取れないことが多いようだ。

「次の便だな」そう言われて私は素直に次の11時台の電車を予約しなおした。

手紙を書く時間

キルケニーの駅は風が吹き込んで冷えることもあり、いったんキルケニーの街に戻った。駅を出る頃には青空が見えた。

キルケニー駅近くのSt john Evangelist教会

昨日街歩きをしながら見かけたカフェに入り、昼食用にサンドイッチを買い、カフェモカを注文した。

カフェでは、そろそろ書こうと思っていた手紙の第一弾を書くことにした。こんな失敗した日に手紙を書くのはどうかと思ったが、幸い時間はある。

ときどき手紙を書く手を止めて、カフェの外を見る。街行く人々は、コートを着た人もいるが、大体もう少し軽めの服装だ。日本でいえば初冬の格好といったところだろうか。基本的に寒い。まだ9月なのに。

甘いカフェモカを飲みながら、今日の失敗について考えた。今回の旅についてはこれまでになく予定を詰め込んでしまったと思う。おかげで、いろんなところでゆとりがない。本当は今日がそのゆとりを持った日であったが、電車の時間を取り間違えるということでこの有様である。

いつもの私の旅のスタイルは、ここに寄りたい、とか、これがしたい。というのは実は少ない。知らない土地を自転車で訪れ、そこにある景色やそこにいる人に出会うことが目的であり、有名な観光地に行くのは重要ではない。

しかし、今回、アイルランドという国にあっては、レッドエールとアイリッシュウィスキー、パブ料理と行きたいところが多い。そしてもう次がないかもしれない、そうした思いから、やりたいと思ったことは全部やる(主にパブ料理を食べることだが)、行きたいところは全部行く、という形になり、結果として日程がタイトになってしまっていた。だが、妥協はしたくないし、やるしかない。

カフェで近くにいた赤ちゃん。可愛かった

そんなことを考えながら、手紙を何通か書き、昨日ブックストアのマダムが教えてくれた場所のポストへ投函した。いつ届くのだろうか。旅の香りが少しでも届くといいのだが。

Iarnród Éireann(アイルランド鉄道)

キルケニー駅に戻り、電車を待つ。自転車と共に電車を待っていると、他の客に話しかけられる。けっこういかついオッサンだ。「そのRitcheyは何年のモデルだ?スチールだろ?」今回の旅は本当に多いな自転車好きが。「最近のモデルだよ。もちろんスチール」私がそう答えると、彼は満足そうに「カナダから来てるんだ。リッチーは素晴らしいよ」と言った。いいぞ。もっと褒めてくれ。

電車は出発の20分前にホームに着いた。オンラインで取ったチケットはiPhoneのウォレットにQRコードが登録されている。駅員さんにそれをを出すとスキャンしてもらってもらうだけで簡単だった。日本もこれぐらいイージーになればいいのに。

イクラックは最後尾の車両にあった。バイクラックに自転車をどう積んでいいか分からずにあたふたして、近くに座っていたに聞いたが、こっちがフロンタイヤなんじゃない?みたいな感じでよくわからないようだった。

次の電車でほかの客が同じように自転車積んでいて安心した

定刻通り電車が出発する。私は車窓を流れていく草原の景色をしばらく眺めていたが、気がつくと眠っていた。朝4時起きだったからな。

電車は定刻通りにダブリンのヒューストン駅に到着した。さて、ここからが少し問題である。

予定の変更で当初の想定よりダブリン到着時間が遅くなったため、考えていた自走区間をやめ、ドロヘダまで電車を使うことにした。ダブリンから北に行く鉄道は、ヒューストン駅から西に3キロほど行った市内のコノリー駅から出る。キルケニーからの電車と合わせてコノリー~ドロヘダ間の電車を予約したが、そのインターバルは30分少々。

ヒューストン駅は当たり前だが大きな駅だった。出口を目指し、自転車を押しながらサクサク歩く。ヒューストン駅からコノリー間は鉄道が走っているが、この時間、自転車を乗せることができない。そこで自走である。

Google マップでナビを起動し、一路コノリー駅を目指す。乗り換えまで残り10分でコノリー駅に到着。当然初めて来る駅である。困った、駅の構造が全くわからない。

ざっと駅の案内表示を見るとどうやらホームは2階だ。とにかく自転車をあげなければならない。エレベーターだ!

エレベーターで待っていると荷物を持った女性と一緒になる。気は焦るが、彼女を先に行かせようとエレベーターを見送ろうとしたが、彼女が「乗って」と合図をするので自転車を無理やり載せる。エレベーターの大きさはギリギリで自転車を斜めにして何とか入った。

その様子を見て彼女は大きな声で笑った。「よかったね」と言ってるような感じでとても楽しそうだった。やさしいなアイルランド人。おかげで無事に予定の電車に乗ることができた。

ドロヘダ行きの電車はベルファストまで行くEnterpriseと呼ばれる電車だった。こちらも自転車を乗せるスペースは最後尾にあった。いや、席が進行方向逆だからこちらが先頭なのか。ややこしい。

旅の最後はイギリス領北アイルランドベルファストから同じ電車でダブリンまで戻る予定だ。今日の失敗でわずか数日先のことなのに、ほんとうにそんな風にいくのか、と不安になった。

だが、旅にあっては不確定要素しかないし、何かあれば、何とかするしかないし、なるようにしかならない。

 

ああ、旅をしているな。車窓を眺めながらそんなことを思った。

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