Spoon and the Stars Hostel
ドロヘダの駅から予約した宿まではすぐだった。この辺りはちょうどいいところにキャンプ場がなく(一つあったにはあったが、予約でいっぱいらしく泊まれなかった)、booking.comでどこか良いところがないか探すと「Spoon and the Stars Hostel」という宿が一泊32.4ユーロで見つかった。この値段なら全く問題はない。私は宿泊を決めた。

宿は黄色や青のかわいい色のドアの並ぶ建物の1つであった。ドアにはオーストラリアに多かったボタン式の暗証番号を押すタイプの鍵がかかっている。宿泊の予約メールを見ても、特に番号は書いていなかったので、ドアノッカーをコンコンとノックする。実はドアノッカーを実用的に使うのは初めてかもしれない。
しばらくして中からメガネのお姉さんが出てきた。「予約あるの?」とちょっと怖い感じで言われたが、予約してあるよ、と言うと、どうぞと中に案内してくれた。
チラッと左の方を見ると半地下になっている階段のところに猫を抱いた日本人らしき男性が見えた。
他の国でもこういうところではたまに日本人に会う。ただ、私もそういうことがあるが、ここまで来てわざわざ日本人と話したくないという人もいる。まあ、機会があれば話すこともあるだろう。このときはそのぐらいにしか思っていなかった。
建物は昔の作りなのか、入り組んだ構造でなんだかぐるぐる回ると他の部屋に繋がっていた。構造を理解するのに少しかかる。
まずはフロントでチェックイン。案内してくれたお姉さんは最初は怖いかなと思ったが、とても親切に応対してくれた。

宿のリビング
建物の中にランドリーのスペースが見当たらないので、お姉さんに聞くとランドリーはお金を払う宿側でサービスでやってくれるらしい。高級ホテルみたいだな。このパターンは初めてである。
明日早く出発したいが、それでもやってくれるか聞くとすぐに洗ってくれるという。数日分の洗濯物を彼女に渡し、7ユーロ支払った。この値段なら問題ない。量が多いと10ユーロのようだ。後で気づいたが、彼女が洗ってくれたのだろうか。下着などもあって、もしかしたらと思うとちょっと恥ずかしかった。
Newgrange
ここでわざわざドロヘダを後半戦のスタートに選んだのには訳があって、ドロヘダの西に少し行くと先史時代の遺跡として知られる「ニューグレンジ」があるのだ。写真でその姿を見た時に行ってみたいと思った場所だ。
まだ日暮まで時間がある。荷物を宿に置いておけば、良いペースで走れるはずだ。私は部屋に荷物を置き、ニューグレンジに向かった。
川沿いの道を西に走っていく。整備された道で非常に走りやすい。風は相変わらず強い。だが幸い雨は降っていない。
ニューグレンジの方向を示す道路標識とGoogle マップのナビが矛盾しており、どちらを優先すべきかと思ったが、道は付いているので、看板を無視しGoogle マップにしたがった。ナビが案内する車の道と自転車の道は違うことが多いし、今回もきっとそうだろうと思ったのだ。
ニューグレンジの入り口まで行って、問題が発生した。ニューグレンジは周辺にあるボイン川会戦のビジターセンターから周辺の遺跡を回るツアーに参加しないと見学ができないらしい。ゲートの入り口の女性にそのことを説明される。そして時計を見て「今からビシダーセンターに行っても間に合わないわね」と言われる。私は疲れがどっと出るのを感じた。
彼女を説明を聞いて日本語で「あぁそういうことなの!」と言うかのように「I see!」とゆっくり言った。彼女は自転車でやってきた私を気の毒に思ったのか「そこから眺めてでもいいわ」とゲートの横のほうを示した。
ニューグレンジ。もっと近くでみたかったな。

私はしばらくニューグレンジを眺めて、ベンチに座っていたおばあさん2人に写真を撮ってもらう。
まあ、こんな展開も私らしい。旅で感じた違和感を無視してはいけないと、電車の予約の件で思ったばかりなのにこの様である。いやはや。
アイリッシュビーフ
ニューグレンジを後にし、宿の方へ戻っていく。帰り際、スーパーに寄り買い物をする。

ドロヘダの川沿いにあった釣りマップ。アイルランドで釣りもいいな。
晩酌用のSmithwick's を2本。それから今夜はビーフを食べると決めて、アイリッシュビーフのステーキ肉を買う。いつも一人旅で困るのがこの肉である。何が困るかと言うと売っている量が多くて、一晩で1人で食べるちょうどいい量が買えないのだ。今回は幸い小さめのものを見つけることができた。

St. Mary's Church
宿に戻りキッチンで晩御飯を作る。まだ時間が早いのかキッチンにはほとんど人がいない。クッキングヒーターはオーストラリアにもあったタイプのあまり日本では見ないパネル式のもの。使い方が思い出せず、少し触ってみたがうまく使えなかった。
キッチンで本を読んでいた男性に使い方を聞くと優しく教えてくれた。
私はステーキを焼き、ソースは醤油と砂糖の甘辛く煮詰めたものにわさびをたっぷり入れた。一緒に食べるパンも数枚焼く。もちろんビールはSmithwick's 。グラスにたっぷり注ぐ。
アイリッシュビーフはジューシーで臭みもなくとても美味しかった。期待通りの味であった。
食事を終え一通り片付けをするとは2本目のビールを栓を開けた。ビール1本の量がなかなか多いので、2本目開ける頃にはそれなりに酔いが回っていた。ここで日本から持ち込んだバリ勝男くんをツマミにSmithwick's を飲む。海外でこれをやるのがちょっとした夢であった。
日記を書きながらビールを飲んでいるとキッチンがだいぶ混んでくる。今回の宿もいろんな国の人がいるようだ。アフリカ系のルーツの人だろうか?見たことない料理を作っている人もいる。
フランス人のカップルがやってきて料理を作っているのだが、途中途中でイチャイチャしている。昔こんなことがニュージーランドのキャンプ場でもあったが、ちょっと困ったような気分になると同時に懐かしいような気分になった。
ワーホリの若者
黎明とともに目が覚める。窓の外を見ると薄い水色の青空が見える。なんと今日は晴れのようだ。これは朝からやる気が出る。早く出発したいところではあったが、今日の宿は朝食付きらしいので、宿の朝食はどんなものが出るのか見てみたいこともありの朝食の8時までゆっくり準備をして待つことにした。
時間になり、キッチンに行ってみると、テーブルにはシリアル各種、パンが2種類、フルーツにジュース、牛乳、卵と充実した内容。

昨日宿に着いた時、階段の下で猫を撫でていた日本人らしき若者とキッチンで一緒になる。彼は私のバックにつけられた車神社のお守りステッカーを凝視している。
やっぱり日本人かな。「日本人ですか」と話しかけてみると日本人だと言う。「そうですよね。」彼は嬉しそうにそう言った。彼は北海道出身のKタロウくん。ワーキングホリデーでアイルランドに来ていて、ここに住み込みで働いているそうだ。
なんとここで日本人に会うのは初めてだそうだ。もちろん私もアイルランドに来てから日本人に初めてである。二人で朝食を食べながら、話をする。お互いの簡単な紹介と日本人的アイルランドあるあるの話を少ししてみる。出発前にアイスランドと間違えられたり、アイルランドってそもそもどこ?と言われたりそんなたわいもない話だ。アイルランドは確かに日本人が少ない、そう感じていたがどうもそう考えて間違いないようだ。私が積極的に調べなかったのはあるが、確かにアイルランドの情報はあまり手に入らなかった。
昨日のうちにいろいろ話せればよかったのだが、仕方ない。朝話せただけもよかった。私はふと思いついて「日本食って要る?」と聞いてみると、Kタロウくんは目を輝かせて「いいんですか!」と言う。私は部屋に戻ってくると言って荷物を取りに行った。KタロウくんはTシャツにいろんな人からコメントを書いてもらってるらしく、私にも「なんでも好きなことを書いてください」と言ったので喜んで書くことにした。

私の旅も長いものではないので、たいした量の日本食を持っていない。キルケニーで食事を作るのをさぼって早々にチキンラーメンを食べてしまったことを後悔した。パスタをよく食べるそうで、タラコパスタのソースは喜んでくれた。いや、渡せそうなものはどれも喜んでくれた。
前回オーストラリアに行った時、パスタを買って、さらに米を買うと旅行中に消費できないことから、米の購入を見送り、米を食べる機会を失っていたので、今回は1食分強の米を持っていた。どうだろう量にして1.5~2合ほどだと思う。
「お米もあるけど要る?そんなに量ないけど」私が聞くと「いただいてもよろしいでしょうか」とKタロウくんが答えた。控えめながら、欲しいという気持ちがひしひしと伝わってくる。聞けば、ドロヘダのスーパーでは日本食がほとんど手に入らず、売っている米もいわゆる日本の米ではないらしい。
この辺は私が今まで旅した国とはちょっと事情が違うようだ。オーストラリア、ニュージーランド、アラスカといろいろ回ってきたが、米が手に入らずに困った事はほとんどない。私は短い旅でもあるし、そんなに喜んでもらえるならと快く米も渡した。
もっとたくさん話したかったが、Kタロウくんは朝からのシフトが入っているそうで、SNSのアカウントを交換し、宿の入り口で一緒に写真を撮ってもらった。
もっといろいろあげられるものを持っていればよかったのだが、わずかでも彼の役に立ったなら嬉しい。わざわざアイルランドを選んでドロヘダの街でワーキングホリデーを頑張っている若者を陰ながら応援したい。
私は素敵な出会いに感謝し、Spoon and the Stars Hostelを後にした。
