定着から放浪へ 放浪から定着へ

アイルランド、アラスカ、ニュージーランド、西オーストラリア、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

国境を越えろ〔後編〕 - Cycling Ireland -

陸路を行く

フェリーが動いていないのなら、あれこれ考えても仕方がない。陸路で回っていくか。一人旅の失敗は自分で責任を取るしかない。今回は自分の足で稼ぐのだ。

私はフェリーで渡るはずだったカーリングフォード湾をぐるっと迂回し、国境のニューリー川沿いに河口を北へ。そのまま陸路で国境を越え、イギリス領の都市ニューリーに向かうルートを取った。

ニューリー川対岸はイギリス領北アイルランド。あそこに行きたいだけなのだが

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幸いニューリー川沿いはサイクリングロードが整備されており、道はよかった。「Carlingford Lough Greenway」という道らしい。

ただ風はやや向かい風で空もだんだんと雲に覆われてきた。気持ちが焦ってくる。こういうときは焦っても仕方ないと頭では分かっている。分かっているのだが。
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シーフードチャウダー

しばらく走ってさすがに疲れてきて、サイクリングロードの横にあったかわいいカフェに入ることにした。食事もできそうだ。f:id:independent-traveller:20251020214322j:image

疲れた。フェリーを降りた後に食べるはずだった遅めのランチにしよう。

カフェに入りメニューを見る。

燻製タラのバーガーも食べたかった

ここはカウンターで注文する店らしい。メニューを眺めると良いものがあった。シーフードチャウダーがある。アイルランドのいるうちに食べてみたいと思っていた料理の一つだ。

カウンターで順番待ちをしている間、近くの席にいたマダムが連れていたマルチーズと遊ぼうとしたが、なかなかの勢いで吠えらてしまった。怖がらせてしまったかな。スマンすまん。マダムに謝られてしまった。

私はシーフードチャウダーカプチーノを注文した。支払いはユーロでもポンドでもどちらでも大丈夫なようだった。
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私は席につき、隣の席を見るとマウンテンバイカーがいた。外にあるEバイクに乗っているのだろう。その男性はSoup of dayとカプチーノを注文していた。スープだけ飲むとパンを1枚食べ、もう1枚のパンは残していた。なるほど無理矢理全部食べなくてもいいか。食事を残すことに抵抗のある私は、そういう発想に最近は至らなかったんだが、アイルランドの食事のボリュームを考えたらそれもありかなと思った。

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シーフードチャウダーが運ばれてくる。スープはとろっとした感じでスープというよりシチューといった感じだ。ややしっかり目の味付けが疲れた体に沁みた。サーモンに軽くスモークされたタラのような白身の魚、それからタマネギ、セロリなどが入り、食べ応え抜群だった。ちょっとこってりした感じではあったが美味しくいただいた。アイルランドの食事は旨いと思う。

Newryの人々


ときどき国道に戻ったりしながら、基本的には川沿いのサイクリングロード「Carlingford Lough Greenway」を行く。

国境付近で。ユーロとポンドどちらでも支払えるようだ

そろそろ国境かと気にしていたが、国境には目印になるものは何もなかった。懸命に走っているうちにいつの間にか国境を越えていた。

国境には「BORDER」の看板ぐらいあるのかと思っていたが、何もなかった。このあたりの事情は1998年のベルファスト合意でアイルランド北アイルランドの国境は自由に行き来できるようになったことに起因するようだ。気になる方は調べていただけると当地の複雑な背景が分かると思う。

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国境はこのあたりだが、インターネット回線はカフェあたりからイギリスの回線に切り替わっていた。そのあたりから電波が悪いのかGoogle マップがまともに動かない。

どうしたものかな。私はスマートフォン自体の問題なのか、回線の問題なのか判別がつかず、トリファのアプリでeSIMを入れることも検討したが、eSIMを入れるにしても、Wi-Fi環境のなければそれすらできない。f:id:independent-traveller:20251020214357j:image

「Carlingford Lough Greenway」を行き止まりまで行くとイギリス最初の街、ニューリーに入った。私にとって初のイギリスである。初のイギリスが名前も聞いたことのないニューリーの街になるとは。旅をしているといろんなことがある。

私はまずインフォメーションセンターへ向かった。スマホが頼りにならないなら、昔のやり方をするだけだ。案内看板を見つけ、そのままそれに沿って進んでいく。

 

インフォメーションセンターに着くとWi-FiをつなぎeSIMを入れてみるが、あまり変化は無い。まぁだめならだめだ。スマホは一旦諦めよう。

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時間的には少し遅いが、何とかゆっくり走れば予定のキャンプ場までたどり着けそうだ。ただし何時になるかわからない。6時か7時か。

ちょうどインフォメーションセンターにキャンプ場のチラシがあったので、予約してないけどここに泊まりたい、ということをインフォメーションの女性に伝える。彼女は電話で私の意向をキャンプ場側に伝えてくれたが、相変わらず私が英語のやりとりがうまくできず、翻訳アプリを使ってのやり取りになった。あぁ私の英語力よ。

「あなたどこの国から来たの?ジャパン!ジャパンから来た人は初めて!」と興奮気味に話し、翻訳アプリを使い始めたが、彼女が英語でテキストを入力し始めると、その文字を読んで何が言いたいかすぐに分かった。あ、私はやっぱりヒアリングが絶望的にダメなんだなと改めて思った。

彼女は電話でキャンプ場に予約をしてくれ、オーナーからの伝言ということで、もうその時間にはオーナーはいないかもしれないから勝手にテントを張っていい、ということを教えてくれた。そういうキャンプ場は時々ある。ニュージーランドでもたまにあった。

私は彼女に「君は本当に親切な人だ」と感謝を伝え、写真を撮らせてもらった。旅先で会った人の写真は、ときどき見返して「この人なにしてるんだろうなぁ」と想像にふけることがある。

インフォメーションセンターでキャンプ場に連絡を取ってもらったおかげで気持ちにゆとりができた。遅くなってもとにかく目的のキャンプ場までたどり着けばいい。

道の分岐でルートが間違っていないか、動きの遅いスマホを確認していると、犬を散歩していた男性が話しかけてきた。

彼はRui 。私の自転車を見て興味を持ったようだ。興奮気味にいろいろ話をしてくれる。彼自身自転車でアイルランドを一周したりしているそうだ。
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しばらくお互いの話で盛り上がり、Facebook のアカウントを交換して別れた。

彼の犬のリーアム。アイルランドの犬種らしい
マイル表示

ニューリーから先は、そのまま今度はアイランド側から上がってきたニューリー川沿いの道を今度はイギリス側を走って河口へと下っていく。

頑張って走ってきたカーリングフォード湾のアイルランド側が見える

北アイルランドに入ってから路肩の道路状況があまり良くない。アイルランド領内ではそこまで気にならなかったのだが。狭い道でも車はバンバン飛ばしてくる。疲れてフラフラになりながら海岸を走る。

次の街までの看板が出てくる「Kilkeel 10」と書いてあるが、これはキルキールまで10キロではなく、10マイルである。イギリスに入ると距離がマイル表示になるので注意が必要である。特に我々サイクリストには。マイル表示の国なんて北米アラスカ以来である。

 

目的のキャンプ場の手前の街、キルキールに到着した。スーパーを見つけて入る。今日分の飲み物は全部飲んでしまったので、まずはすぐに飲む飲み物と、それからキャンプ場は周辺に店がなさそうな雰囲気なので、ビールと小腹が空いたとき用のラーメンを買う。

最初アルコール売り場ががわからなくて、イギリスはオーストラリア方式でライセンスがないとアルコールが売れないのかとちょっと焦ったが(2月に行った西オーストラリアはスーパーで買えないことが多かった)、アルコールコーナーはちゃんと奥のほうにあった。私は無事にSmithwick'sを2本購入することができた。

7時前に何とかキャンプ場に着く。

やはりオーナーはいない。キャンプ場は海に向かった傾斜地に作られており、上のほうにキャンピングカーが停まっていた。

どこにテントを張るべきか少し迷ったが、まぁオーナーがそんな風に言うだから、よほど変なところなければ大丈夫だろう。私は下のほうのよく開けたところでテントを張った。

テントを張り、シャワーと夕食を済ませて早々にテントに潜った。ちょうど雨も降り始めてきた。

長い一日だった。フェリーが動いていれば80キロで済んだところを、結局130キロも走ってしまった。疲れる訳である。

以前、職場で何かの会話の折に、若手の後輩に「それ、発想が脳筋ですよ」と言われたが、まさにやったことは脳筋の発想である。気合があればなんとかなる。

ニューリーから北に上がるルートやほかのキャンプ場や宿を取る手もあったと思うが、地図を見たときに、直感的にこの海岸線を走ってみたいと思ってしまったのだ。

当初の予定ルート 80キロ程度

カーリングフォード湾を迂回するルート。130キロ。

それにこんなことがなければRuiやインフォメーションセンターの女性と出会うこともなかったし、そもそニューリーだって寄ることもなかった。

一瞬、インターネット回線が切れてアナログ的な、つまり若い頃、自分が旅してたような方法で動くことになり、なんだか懐かしかった。

情報インフラが発達し、一通りのことが自分で調べたり、手配することができるようになった。その分、旅はイージーになったけれど、自分から人に頼り行って、次の目的にに進んでいく、といったような事は減っているのだなぁと今更ながらに実感した。

これが今の時代の今の旅なのであろう。そんなことをぼんやり考えながら、2本目のビールを分け、私は眠りに落ちた。