ようやくニュージーランドを自転車で走り始めた。
幸い天気は快晴。
Papakuraの駅を出ると、少し家が点在しているだけで、
あとは緑の広がるのどかな道が続いていた。
かつて自転車で旅をした北海道も広大だったが、
それよりもはるかに広く感じられる。
そして、空の青さが眩しい。
日本の空より青く見える。
オークランドから近いためか、多くのサイクリストとすれ違った。
みんな軽くあいさつをしてくれる。こういうのはいつでもうれしい。
やがて最初の町「Cleredon」に到着。
市街地はどこだろうと走っていくと、そのまま町の外に出てしまった。
小さい町だ。町と言うより集落と言ったほうがいいか。
集落が終わると急に建物がなくなるので、
日本との違いにおどろいたが、その後の小さな町はどこも似たようなものだった。
店があったところまで戻り、店に入る。
店主はマオリの人だった。
飲み物の補充にペプシとワインオープナーやライターなど小物を買う。
このとき買ったフランス製のライターはとても使いにくかった。日本製はよく出来ているのを実感した。
支払いにクレジットカードを使い、漢字でサインをすると、
マオリの店主は不思議な顔をした。私は顔を見合わせて微笑んだ。
ツーリング初日はMirandaという街で一泊。温泉があり、体を休ませることが出来た。
もっとも温泉と言うよりは温水プールだったが。
それでも湯につかれるのはありがたかった。
翌日は朝方、曇り空だったが、出発する頃には晴れてきた。
ニュージーランドは日差しが強く、皮膚ガンの発病率が高い、と言われるが、なるほど日差しは強烈である。
前日に日焼けしたところが痛かった。
朝食をパンだけで済ませたせいか、走り出してしばらくすると猛烈におなかがすいた。
そういえば、この数日、パスタばかり食べている。肉もタマゴもご無沙汰だ。
「何かボリュームのあるもの食べたいな」一度そう思ったら、しばらく食べ物のことしか考えられなくなってしまった。
Thamesの街の手前でカフェを見つけて入った。
こういうローカルなカフェに入るのは初めてだ。少しどきどきした。
タマゴとベーコン、マッシュポテトのサンドとレモンシュガーの乗ったスィーツをもらう。
マオリ人の奥さんがとても感じが良かった。
ゆっくり食事をしていると、トラックの運転手がやってきて、
サンドウィッチを買うとすぐに出て行った。
何気ない光景だが、なんかこういうの海外っぽいなと思った。
Thamesの近くのワイナリー。白ワインを一本薦めてもらい購入 |
一日100キロくらい走るのが、日本での私のキャンプツーリングスタイルだが、
この日の目的地のThamesまで30キロ程度しかなく、のんびりしていた。
Thamesはちょっとした街だった。
メインストリートには大きな店もあり、賑やかだったが、
一本裏通りにはいると閑静な住宅街が広がっていた。
その先はもう海だ。
そんな住宅地の中にバックパッカーズはあった。
バックパッカーズに行くと、ドミトリー(相部屋)かテントサイトか訊かれる。
どういうことか確認すると、テントサイトは言ってみれば庭にテントを張って宿泊できるそうで、中のキッチンなどの共同スペースはドミトリーの客同様使っていいらしい。
外ということで、少し料金が安いようだ。
天気もよさそうなので、テントサイトにした。
ワイナリーで買ったワインを早速いただく |
テントサイト、といっても宿の庭の一角にテントを張っていい場所がある、という程度だったが、テントを張ったら、なんだか落ち着いた。
やはり自分のテントが一番だ。長年使っているので、だいぶヨレヨレだが。
ニュージーランドが一人旅に向くと思う理由のひとつに、宿泊施設の充実性があると思う。
街の郊外にには「Bed & Breakfast(B&B)」と呼ばれる民宿のようなところが数多くあり、
また、街にはたいていキャンプ場がある。
街のキャンプ場はキッチンやリビングなどの共同施設が使えるというところが多く、
非常に快適である。
もちろん、我々が想像するようなキャンプ場も国立公園などには数多くあり、さすがはアウトドア大国である。
宿には猫が。ペットを飼っているアコモデーションも多い。 |
少し街を歩こうと宿を出ようとしたところで、宿のオーナーに会った。
手には竿と釣り道具。これから釣りに行くという。
釣れるといいな、
私は「Good luck!」と言うと彼は振り返り、「そうだな、おれには運が必要だよ」と苦笑し、
軽く手を上げて、海に向かって歩いて行った。
Thamesの海 |
Thamesから先、コロマンデル半島を回る。
コロマンデルの街。観光地とあって多くの人でにぎわっていた |
ここはとにかく登りがきつかった。
その後、Auther’s PassやTakaka Hillといった有名な峠を登ったが、
ここの斜度は特筆ものだ。後にサイクリストと会うたびにここは話題になった。
(Auther’sPassも相当キツイが。)
キツイ中、なんとか100キロほど走り、日が暮れる頃、Whitiangaという街にたどり着いた。
もうほんとうにヘトヘトだった。
この街は観光地らしく、宿は高かったが、疲れていたので構わずベッドを取った。
部屋で荷物を解いていると、Jackwolfskinのジャケットを着た女性が話しかけてきた。
「あなたどこから?ここはいいところよ、長居するといいわ。コロマンデルは山を越えてきたの?私もあそこを越えてきたの。すごい坂よね。」
いかにも旅慣れたサイクリストらしく、日によく焼けた肌がとても健康そうだった。
キッチンで食事を作っているとやけに日本人が多いに気が付く。
一人つかまえて話を聞くと、ここには8人の日本人がスタッフとして働いているという。
なんでもオーナーが日本人好きらしい。
わざわざこんなところまで来て日本人と話していることに違和感を覚えた。
とはいえ、慣れない旅の始めで、日本人と話せることで少しほっとしたのも事実だ。
一通りニュージーランドを回ったという一人の日本人と仲良くなり、
いろいろ旅のアドヴァイスをもらった。
夕日のきれいな日だった |
少し滞在すればいいじゃないかと薦められたが、宿代が高いこと、
それから日本人が多いのがどうにも耐えられず、翌日、朝食を食べると出発した。
Thames郊外の店。TIPTOPのアイスはおいしい |
きのうの日本人に薦められたWhitianga から比較的近い
HaheiというところにあるCathedral Coveというところへ向かう。
とにかく絶景だから、ということだった。
自転車や車で行けるのは途中までで、Cathedral Coveまでは遊歩道になっていた。
海に向かう小さな半島の道は歩いていて、とても気持ちが良かった。
すれ違う観光客がみんな「ハイ!」とか「ハロー!」とか軽く挨拶してくれるのがうれしい。
30分ほど歩いただろうか。砂浜に出た。
「おお」私は思わず声を上げた。
ニュージーランドはほんとうに美しいところばかりだが、ここは最高だ。
海に浸食され、大きく削られた岩の向こうに青い空と海が見える。
また、ここがいいな、と思ったのはこの景色の中で普通に人が遊んでいることだ。
波と戯れたり、泳いだり、カヌーをしたり。
日本だったら、柵がしてあったり、遊泳禁止などと書いてあったりしてげんなりするが、
そういった余計なものがなくて、自然体で遊べることがよかった。
そんな様子をしばらく眺めたり、少し海に入ったりして楽しんだあと、Cathedral Coveを後にした。
途中、カフェ「Colenso Country Café&Counrtyshop」に入る。
庭の素敵なカフェだ。
ショーケースの中のパイを眺める。どれもおいしそうだ。
悩んでパイを二つとサラダを注文し、ペロッと平らげた。
北島にいる間は、昼はカフェで摂ることが多くなったのはこの頃からだ。
日記には「毎日、お金がかかって仕方がない」と書いているが、
こんなものを毎日食べて、酒も飲んでいたのでは当然だと思う。
その後はTairuaという街まで行った。
Pakuという山。マオリの言葉で"women's breasts" |
キャンプ場に行くと、管理人不在。
入り口にメモが。
勝手にやっていいようだ。
キャンプ場には、私のほかにもサイクリストがいた。
一組はドイツから来た一家で、夫婦と10歳くらいの子と3歳ぐらいの子連れだった。
父親の自転車のサドルのところから、後輪の下に向かって一本パイプが伸びていて、そこにハンドルとペダルがついた椅子がついていて、子供はそれに座っていた。
(残念ながら同じものは日本で見たことがない)
アタッチメントの参考イメージ。こんな感じのバイクで子供を二人牽引していた。こんなに飛ばしてはないはず(笑) |
父親はテントを張っている間、母親は洗濯をしており、まさに旅する家族といった感じだった。
ニュージーランドではキャンプ場のことを「Holiday Park」とか「Caravan Park」と呼ぶ。ニュージーランドではキャンピングカーなど旅をする人も多く、そうした人の利用も多いからそう呼ばれるのだと思うが、この家族は、まさにキャラバンだった。
あんな風に家族で旅をしたら、きっと子供の心にずっと残るだろうな。
私も家族とあんな旅がしてみたい。
もう一人は女性のサイクリストだった。
外のベンチで一緒に食事をした。
私はこの日、スーパーで玉子と鶏肉を買ったので、親子丼を作って食べていると、
「何それ?」と怪訝な顔で聞いてきた。とてもおいしそうには見えなかったのだろう。
親子丼をうまく説明できなかったので、「卵と鶏肉を使った日本料理だ」と説明しておいた。
彼女のほうはと言えば、フィッシュ&チップスを食べていた。
「とても大きくておいしいし、安かったのよ」と言っていた。
彼女はスイス人で43歳。スイスの人材派遣会社でマネージャーをしているという。
管理職でもこうしてキャンプ道具を満載した自転車で海外を旅が出来るなんて、素晴らしい。日本じゃ考えられない。
私は職場では一番下っ端だったのに、ここに来るために仕事を辞めて来なくてはならなかった。彼女の国との文化レベルの差を痛感した。
夕食を終えて、くつろいでいると、一人の男が近づいてきて、何か言った。
「オーナーだ」
はじめ何のことだ?と思ったが、スイス人サイクリストがパッと立ち上がり、
「あぁ、オーナー!お金払います!」とテントに戻っていった。
続く。。