Portrush
夜明け前、ブッシュミルズを出発。ブッシュミルズから西に30分ほど走ったところにあるポートラッシュから出る始発列車に乗り、帰国に向けてダブリンへ戻るのだ。
薄明かりの中走り出す。道に車はほとんどいない。だんだんと周囲が明るくなり、周囲の風景が少しずつ色を増していく。

ポートラッシュまでのルート上にはダンルース城があった。周辺の観光地と共に回られることが多い史跡で、今残っている城跡は1500年頃のものらしい。
旅の計画をしている際、そこにダンルース城があることがは認識していたが、時間の関係で寄れない場所かなと思っていた。
夜明け前の薄明りの中、海岸沿いの岸壁の上を走る道をさらさらと滑るようにペダルを踏んで進んでいく。向かう道の先に、断崖に立つダンルース城がぼうっと浮かび上がってきた。海を背にして荒々しく崩れかかったその姿は、黎明の暗さと相まって独特の雰囲気を放っていた。

ポートラッシュまでの海沿いの道は、複雑な海岸の地形が作り出す独特な風景で、これまで走ったアイルランドの地形とは違う雰囲気でわずか30分ほどであったが、走ることができてとてもよかった。

道の感じは違うが、そこはアイルランドである。いつものように牧草地には牛や羊がいた。アイルランドでこうして牧場のそばを走るのもこれが最後だろう。牧場の牛がこちらを見ていた。
「また来るよ」
私は名もなき牛に無責任な言葉を投げた。
果たされないかもしれない、いいかげな約束だ。だが、間違いなくアイルランドを去るのは名残惜しい。

ポートラッシュの街はこじんまりとした可愛い街で色とりどりに塗られた建物が鮮やかだった。

早朝の駅はまだ開いていなかった。電車が来るまでしばらく待つ。

北アイルランドの鉄道は自転車を載せることができるが、アイルランド側と違い、自転車スペースの予約ができない(アイルランド側は自転車を載せる場合、予約が必須)。
これは鉄道会社にメールで問い合わせたが、北アイルランドでは自転車を載せたい場合は先着順とのことである。自転車が載せられないと何ともならないので、とにかく早く駅で並ぼうと思ったのである。だが、ホームで電車を待っていたのは、私の他に身軽な男性が一人だけだった。

やがて列車がホームに入ってくる。ドアに自転車のサインを見つけ、私はバイクを列車に乗せた。

ポートラッシュからベルファストの中央駅まで行き、ここでダブリン・コノリーの行きの列車に乗り換える。車内で車掌さんがスマホのオンライン予約のQRを読み取り、これまたQRの入ったレシートのような紙をくれた。

ベルファスト中央駅に着くと予約してあるより1本早いダブリン行きの列車がホームにいた。結果的には1時間早い列車でも乗れたわけだ。まぁここの乗り換えは絶対に失敗できないところだったし、これでよかったんだと思う。11時発の予約の列車までベルファスト中央駅の構内で待つ。
10時半ごろダブリンに行きの列車に人が並び始めたので、私もバイクを持って並ぶ。バイクを持っているは私だけのようだ。よかった。
検札が始まり、駅員さんにスマホのにQRを見せたが、どうやらこれを紙にしないといけないらしい。おじさんの指示でバイクを先に車両に積み込み、戻ってくると、別のスタッフがスマホのQRをハンドスキャナーで読み込んでくれて、レシートのようなまた別のQRの入った紙をくれた。これが切符になるらしい。そうか、ポートラッシュからの列車で車掌さんがQRをスキャンして出してくれた同じような紙が切符だったわけだ。これはわからん。
ダブリンーベルファスト間は同じ路線、車両をアイルランドからはアイルランドのIrish Railが、ベルファストからはイギリスのTranslinkがそれぞれ運航している。鉄道は一緒だが、運営する会社が違い、行きと帰りでチケットの扱いがこういう違いがある。これは初見ではわかりにくいな。ちなみに車内販売はユーロでもポンドでも買うことができる。ちなみに私は残った現金のポンドを車内販売のコーヒーで使い切った。

ベルファストからダブリンへと戻っていく。自分が走ってきた道と同じところを走るわけではなかったが、この数日間に走ってきたそばを列車で戻っていく。北アイルランド、いやイギリス最初にたどり着いた街、ニューリー。ニューリーなんてトラブルがなかったら行くことがなかった街だ。そのうちにいつの間にか国境を越えていた。

そして日本人の若者が頑張っているドロヘダ。
ああ、この前の西オーストラリアのそれと同じパターンだ。あの時も一週間かけて旅したマーガレットリバーからパースまでバスで戻って、それなりに苦労して行ったのに戻る時は一瞬であった。鉄道やバスで気軽に行けてしまう道を自分の足で、自転車で走るということに、私は意義を見出してしまったのだ。
正直、自転車で旅をするのはいろいろ面倒も多い。今回は特にそうだった。それでも自転車で来たから見ることができた景色、そして自転車でアイルランドの緑の中を抜けていくという単純な感動はやはりなにものにも変えがたい経験だ。
今回は特にいろいろ大変だったと思うが、来ることができて本当によかった。送り出してくれた家族、とりわけ妻には感謝しかない。

最後の食ミッション
ダブリンに到着。スーパーに寄りながら少し土産物を買い、初日に泊まったアシュフィールドホステルにチェックインする。部屋は前回と同じ18人部屋である。今回も2段ベットの上を割り振られた。下が良かったが仕方がない。しかし、今回、下のベッドは感じのいいメガネの女性である。何かある訳ではないがちょっと嬉しい。
翌日は早朝に宿を出ないといけない。出国に向けてパッキングし直す。機内持ち込みのもの、受託手荷物にするものなどだ。
一旦パッキングを切り上げ、ダブリンの街へ出た。この日は土曜日。週末のダブリンは本当に凄い人だった。街中を歩いても土産物屋を覗いても人、人、人。人ごみはやっぱり苦手だな。
家族と自分への土産物を買い終え、アイルランド最後のミッションはシェパーズパイである。
若い頃読んでいたジャック・ヒギンズの小説の主人公がよくパブでシェパーズパイを食べており、それを見てレシピを調べて自分でも作ってみたりしていた。最近では家飲みの時に作ったりもする。だが、本場のシェパーズパイは食べたことがなかった。
シェパーズパイが食べられるお店はあらかじめ調べておいたO'Neills Pub & Kitchenというところへ行く。まだ午後5時だというのに店内は大賑わい。パブでは人が並んで注文すると言う習慣がないので、カウンターに張り付いてお店の人を捕まえ注文しなくてはならない。カウンターに客が常時5、6人は群がっている感じだ。ビールはその場でくれるが、食事は先に席を確保してと言われ、それも少し苦戦した。
かなり待って、念願のシェパーズパイが運ばれてくる。

シェパーズパイはタマネギなどと炒めたラム肉のミンチの上にマッシュポテトを乗せて焼いたパイである。パイ生地使わなくても、マッシュポテトで蓋をしてあればそれもパイということらしい。
私の最終日の晩餐に相応しい料理である。スプーンを入れ、厚いマッシュポテトの層とミートの層をスプーンいっぱいに乗せ、口に運ぶ。味はいい。

ミートの層はグリンピースのような豆が入っていた位で、後の具はほぼ肉だ。味付けはブラウンソースかそんな感じ。自分で作るシェパーズパイは方向性として間違ってなかったな。もちろんそれがわかっただけでも嬉しい。
とにかく量が多く、半分食べて皿に平すと一食分くらいに見えた。

この店のシェパーズパイで笑ってしまったのが、添え物のジャガイモ料理である。

こんなにマッシュポテトが乗った料理なのに、どうして添え野菜もジャガイモなのだろうか。ジャーマンポテトかと思ったが、ソーセージみたいのを口に入れると甘くて柔らかい。あ、ニンジンか。食べてみてわからないもんだなぁと思った。

シェパーズパイ自体は完食したが付け合わせのイモとニンジンを少し残してしまった。それでもよく食べたと思う。最後のSmithwick's を飲み干すとパブを後にした。
満足して暗くなったダブリンの街を歩いて宿に戻った。宿の入り口には「本日満室」の貼り紙があった。週末のアッシュフィールドホステルのパブリックスペースは、様々な国の旅人でにぎわっていた。そんな光景を私はぼんやり眺めて、ああ旅の宿の正しい景色だな、と思った。




































予約した





































































































まずはフロントでチェックイン。案内してくれたお姉さんは最初は怖いかなと思ったが、とても親切に応対してくれた。
















ときどき手紙を書く手を止めて、カフェの外を見る。街行く人々は、コートを着た人もいるが、大体もう少し軽めの服装だ。日本でいえば初冬の格好といったところだろうか。基本的に寒い。まだ9月なのに。
















地面が少し斜めな気がするが、まぁこんなもんだろう。


まずは昼食。いくつか調べて、「The Fig Tree」というレストランにする。ちょうど昼時で店はごった返していたが、一人ということもあり、すぐに席に案内してもらえた。

雨で消耗したライドの後で空腹だったが、それでも満腹になった。おかげで夕食は軽めになった。






















