定着から放浪へ 放浪から定着へ

アイルランド、アラスカ、ニュージーランド、西オーストラリア、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

ラストミッションのシェパーズパイ - cycling Ireland -

Portrush

夜明け前、ブッシュミルズを出発。ブッシュミルズから西に30分ほど走ったところにあるポートラッシュから出る始発列車に乗り、帰国に向けてダブリンへ戻るのだ。

 

薄明かりの中走り出す。道に車はほとんどいない。だんだんと周囲が明るくなり、周囲の風景が少しずつ色を増していく。

ポートラッシュまでのルート上にはダンルース城があった。周辺の観光地と共に回られることが多い史跡で、今残っている城跡は1500年頃のものらしい。

旅の計画をしている際、そこにダンルース城があることがは認識していたが、時間の関係で寄れない場所かなと思っていた。

夜明け前の薄明りの中、海岸沿いの岸壁の上を走る道をさらさらと滑るようにペダルを踏んで進んでいく。向かう道の先に、断崖に立つダンルース城がぼうっと浮かび上がってきた。海を背にして荒々しく崩れかかったその姿は、黎明の暗さと相まって独特の雰囲気を放っていた。

ポートラッシュまでの海沿いの道は、複雑な海岸の地形が作り出す独特な風景で、これまで走ったアイルランドの地形とは違う雰囲気でわずか30分ほどであったが、走ることができてとてもよかった。

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道の感じは違うが、そこはアイルランドである。いつものように牧草地には牛や羊がいた。アイルランドでこうして牧場のそばを走るのもこれが最後だろう。牧場の牛がこちらを見ていた。

「また来るよ」

私は名もなき牛に無責任な言葉を投げた。

果たされないかもしれない、いいかげな約束だ。だが、間違いなくアイルランドを去るのは名残惜しい。

ポートラッシュの街はこじんまりとした可愛い街で色とりどりに塗られた建物が鮮やかだった。

早朝の駅はまだ開いていなかった。電車が来るまでしばらく待つ。

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北アイルランドの鉄道は自転車を載せることができるが、アイルランド側と違い、自転車スペースの予約ができない(アイルランド側は自転車を載せる場合、予約が必須)。

これは鉄道会社にメールで問い合わせたが、北アイルランドでは自転車を載せたい場合は先着順とのことである。自転車が載せられないと何ともならないので、とにかく早く駅で並ぼうと思ったのである。だが、ホームで電車を待っていたのは、私の他に身軽な男性が一人だけだった。

やがて列車がホームに入ってくる。ドアに自転車のサインを見つけ、私はバイクを列車に乗せた。

ポートラッシュからベルファストの中央駅まで行き、ここでダブリン・コノリーの行きの列車に乗り換える。車内で車掌さんがスマホのオンライン予約のQRを読み取り、これまたQRの入ったレシートのような紙をくれた。

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ベルファスト中央駅に着くと予約してあるより1本早いダブリン行きの列車がホームにいた。結果的には1時間早い列車でも乗れたわけだ。まぁここの乗り換えは絶対に失敗できないところだったし、これでよかったんだと思う。11時発の予約の列車までベルファスト中央駅の構内で待つ。

10時半ごろダブリンに行きの列車に人が並び始めたので、私もバイクを持って並ぶ。バイクを持っているは私だけのようだ。よかった。

検札が始まり、駅員さんにスマホのにQRを見せたが、どうやらこれを紙にしないといけないらしい。おじさんの指示でバイクを先に車両に積み込み、戻ってくると、別のスタッフがスマホQRをハンドスキャナーで読み込んでくれて、レシートのようなまた別のQRの入った紙をくれた。これが切符になるらしい。そうか、ポートラッシュからの列車で車掌さんがQRをスキャンして出してくれた同じような紙が切符だったわけだ。これはわからん。

 

ダブリンーベルファスト間は同じ路線、車両をアイルランドからはアイルランドのIrish Railが、ベルファストからはイギリスのTranslinkがそれぞれ運航している。鉄道は一緒だが、運営する会社が違い、行きと帰りでチケットの扱いがこういう違いがある。これは初見ではわかりにくいな。ちなみに車内販売はユーロでもポンドでも買うことができる。ちなみに私は残った現金のポンドを車内販売のコーヒーで使い切った。

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ベルファストからダブリンへと戻っていく。自分が走ってきた道と同じところを走るわけではなかったが、この数日間に走ってきたそばを列車で戻っていく。北アイルランド、いやイギリス最初にたどり着いた街、ニューリー。ニューリーなんてトラブルがなかったら行くことがなかった街だ。そのうちにいつの間にか国境を越えていた。

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そして日本人の若者が頑張っているドロヘダ。

ああ、この前の西オーストラリアのそれと同じパターンだ。あの時も一週間かけて旅したマーガレットリバーからパースまでバスで戻って、それなりに苦労して行ったのに戻る時は一瞬であった。鉄道やバスで気軽に行けてしまう道を自分の足で、自転車で走るということに、私は意義を見出してしまったのだ。

正直、自転車で旅をするのはいろいろ面倒も多い。今回は特にそうだった。それでも自転車で来たから見ることができた景色、そして自転車でアイルランドの緑の中を抜けていくという単純な感動はやはりなにものにも変えがたい経験だ。

今回は特にいろいろ大変だったと思うが、来ることができて本当によかった。送り出してくれた家族、とりわけ妻には感謝しかない。

 

最後の食ミッション

ダブリンに到着。スーパーに寄りながら少し土産物を買い、初日に泊まったアシュフィールドホステルにチェックインする。部屋は前回と同じ18人部屋である。今回も2段ベットの上を割り振られた。下が良かったが仕方がない。しかし、今回、下のベッドは感じのいいメガネの女性である。何かある訳ではないがちょっと嬉しい。

翌日は早朝に宿を出ないといけない。出国に向けてパッキングし直す。機内持ち込みのもの、受託手荷物にするものなどだ。

一旦パッキングを切り上げ、ダブリンの街へ出た。この日は土曜日。週末のダブリンは本当に凄い人だった。街中を歩いても土産物屋を覗いても人、人、人。人ごみはやっぱり苦手だな。

家族と自分への土産物を買い終え、アイルランド最後のミッションはシェパーズパイである。

若い頃読んでいたジャック・ヒギンズの小説の主人公がよくパブでシェパーズパイを食べており、それを見てレシピを調べて自分でも作ってみたりしていた。最近では家飲みの時に作ったりもする。だが、本場のシェパーズパイは食べたことがなかった。

シェパーズパイが食べられるお店はあらかじめ調べておいたO'Neills Pub & Kitchenというところへ行く。まだ午後5時だというのに店内は大賑わい。パブでは人が並んで注文すると言う習慣がないので、カウンターに張り付いてお店の人を捕まえ注文しなくてはならない。カウンターに客が常時5、6人は群がっている感じだ。ビールはその場でくれるが、食事は先に席を確保してと言われ、それも少し苦戦した。

かなり待って、念願のシェパーズパイが運ばれてくる。

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シェパーズパイはタマネギなどと炒めたラム肉のミンチの上にマッシュポテトを乗せて焼いたパイである。パイ生地使わなくても、マッシュポテトで蓋をしてあればそれもパイということらしい。

私の最終日の晩餐に相応しい料理である。スプーンを入れ、厚いマッシュポテトの層とミートの層をスプーンいっぱいに乗せ、口に運ぶ。味はいい。

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ミートの層はグリンピースのような豆が入っていた位で、後の具はほぼ肉だ。味付けはブラウンソースかそんな感じ。自分で作るシェパーズパイは方向性として間違ってなかったな。もちろんそれがわかっただけでも嬉しい。

とにかく量が多く、半分食べて皿に平すと一食分くらいに見えた。

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この店のシェパーズパイで笑ってしまったのが、添え物のジャガイモ料理である。

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こんなにマッシュポテトが乗った料理なのに、どうして添え野菜もジャガイモなのだろうか。ジャーマンポテトかと思ったが、ソーセージみたいのを口に入れると甘くて柔らかい。あ、ニンジンか。食べてみてわからないもんだなぁと思った。

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シェパーズパイ自体は完食したが付け合わせのイモとニンジンを少し残してしまった。それでもよく食べたと思う。最後のSmithwick's を飲み干すとパブを後にした。

満足して暗くなったダブリンの街を歩いて宿に戻った。宿の入り口には「本日満室」の貼り紙があった。週末のアッシュフィールドホステルのパブリックスペースは、様々な国の旅人でにぎわっていた。そんな光景を私はぼんやり眺めて、ああ旅の宿の正しい景色だな、と思った。

 

聖地巡礼 the old Bushmills distillery - cycling Ireland -

Anna's Kitchen Bake Coffee

朝、二度寝してゆっくり起きる。あまり調子は良くない気がする。だが走れない、と言うほどではない。当初の予定では、ブッシュミルズ村にあるブッシュミルズ蒸留所とその先にある世界遺産ジャイアンツコーズウェイ」に行くつもりだったが、体調次第では、ブッシュミルズだけにしようと決め、私は走り出した。

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不思議なもので走り出すといつもと変わらない感じだ。寝る前に飲んだいろいろな薬が効いてきたんだろうか。だが、無理をせずペースは抑え気味で走る。
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今日も道は広い丘陵地帯を行く。北アイルランドに入ってからずっと続いている感じだ。今日もGoogle任せだが、ハイウェイを避けて、ローカルルートを案内するGoogleには脱帽する。正直、ロンリープラネットの出番はほとんどなかった。

 

お昼少し前にMallymoneyという街に到着。ルート近くを地図で調べ、ベーカリーカフェを見つけて入る。

カフェではショーケースの中のパンも気になったが、メニューを眺めていて見つけたいかにも海外っぽいベーコン&パンケーキを注文。合わせてカプチーノを頼む。f:id:independent-traveller:20251029184000j:image

ベーコン&パンケーキが運ばれてくる。パンケーキにカリカリベーコンが乗ったそのままの見た目。f:id:independent-traveller:20251029183202j:image

パンケーキにはメイプルシロップが横に添えられていたが、私はあまり考えずに全部かけてしまった。食べたらシロップが甘すぎてびっくりした。ベーコン&パンケーキは甘塩っぱい感じで、まぁ想像通りの味だった。家ではわざわざ作らないな、と思った。それにしてもカリカリのベーコンと柔らかいパンケーキを一緒に食べるのは至難の技であった。
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私の向かいの席に座ったじいさんとばあさんが4人がけの席で横に仲良く並んで座っていた。別にべったりしているわけではなくいつもそんな感じなのだろう。あんな風に年を取りたいものだな、と思った。

 

ランチの後はいよいよブッシュミルズを目指す。少しお腹の調子はイマイチだが、この調子なら1時間半といったところだろうか。

ジャイアンツコーズウェイを行くかどうかで何度も悩むが行くことにする。

ブッシュミルズ蒸留所の見学ツアーの予約は3時からとってあり、ブッシュミルズから約3キロジャイアンツコーズウェイに行き、戻る時間を考えるとちょっと微妙な時間であったが、ここまで来てジャイアンツコーズウェイまで行かないのも、もったいないということもあり、私は行くことを決めた。

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昼食を摂ったバリーマネーからジャイアンツコーズウェイに向かう田舎道は、最高に普通の田舎道でとても良かった。

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昔読んだロバート・ジェームズ・ウォラーの『一本の道さえあれば』に出てきそうな、そういう想像したとおりの道だった。

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今回の旅は道が素敵だな。古い石づくりの建物、牛や羊などが幾度となく現れ、視界の先から端へと後ろへ流れていく。旅の終わりは近い。

Giant's Causeway

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ついにブッシュミルズの村に入った。あぁ、ようやくたどり着いた。

いつか自分の足で行こうと決めたブッシュミルズ。若い頃の夢を一つ叶えることができた。

こみ上げる興奮を抑え、まずはジャイアンツコーズウェイに向かう。本当はすぐにでもブッシュミルズ蒸留所に行きたいところであったが。

ブッシュミルズアイルランドで何度も通過してきたような小さな村だが、観光客人が多い。

ブッシュミルズ蒸留所とジャイアントコーズウェイがあるからだろう。f:id:independent-traveller:20251029184008j:image

徒歩か自転車でジャイアントコーズウェイに行けるトレイルがあり、そこを自転車で進んでいく。夏の間だけジャイアントコーズウェイに行く観光鉄道が走っているようだ。トレイルが一部通行止めになっていたが、工事をしていた人に話しかけると、そのまま走っていいと言ってくれた。回り道をすると大変なのでとても助かった。

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そこから先のトレイルでは多くの人に会う。いろんな人がジャイアンツコーズウェイに向かって歩いてきているようだ。ほとんど観光客のようで私もその辺を歩いている人に「ジャイアンツコーズウェイはこの先?」と道を聞かれる。「そうだよ!」私はそうやって答えながら、合ってるといいなと心の中で思った。

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ジャイアンツコーズウェイは一大観光地だった。大型のバスがバンバン来て、一般の車も多い。一般車は有料の駐車場に案内されており、自転車も駐輪場所があったが料金は取られなかった。

ジャイアンツコーズウェイの周囲は山岳地帯のような佇まいだった

ジャイアンツコーズウェイは、柱状節理と呼ばれる火山活動で作られた石柱が連なる場所で、私が普段活動する奥三河地域では東栄町で見られるが、一つ一つの柱の形が東栄町のそれより2倍から3倍大きい。規模も大きくまさに圧巻だった。
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石柱は人が一人立てるほどの大きさがある


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ブッシュミルズ蒸留所の見学時間が迫り、私はブッシュミルズ村へ戻った。

the old Bushmills distillery
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現存する最古のアイリッシュウィスキー蒸留所であるブッシュミルズ。私は若い頃からずっと飲んでいるウィスキーである。二十歳で一ヶ月日本国内を自転車で旅をしていたときもボトルで一本丸々持っていたものだ。その後の人生の節目節目で、シングルモルトブッシュミルズを飲んできた。ある友人は結婚の祝いに一本くれたし、2008年の400周年の記念ボトルはまだ半分残してある。

私の人生にとって切っても切れないウィスキーであり、今回、ブッシュミルズ蒸留所を訪れることが、一番の目的であったと行っても過言ではない。

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慌ててジャイアンツコーズウェイから戻ったが、ツアーには何とか間に合った。

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今日のツアーは10数人ほど。初めにどこからたのと聞かれたが、アジア人は私1人だった。ツアーは工場内を順番に巡りながらガイドのおじさんが口頭で製造工程などを説明していというもの。

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ただギネスやスミディックスの見学と同様、私の英語力の問題で残念ながら理解できたのはほんの一部だった。

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それでもこの雨の多い地域が育む水を使っているといった話やシングルモルトも年数によって寝かせる樽の種類を変えているなどは理解できた。また実際に熟成に使うシェリー、バーボン、ワイン(だと思う)の各樽を実際に嗅ぐことができた。

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私があまり内容を理解できていないというのもガイドの方もわかっていたんだろう。気を遣って写真を撮ってくれた。

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ツアーの最後はお待ちかねのテイスティングである。

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シングルモルトの12年、16年、21年のテイスティングである。12年は我が家にもあるが、21年なんてなかなかお目にかかれない。それぞれのフレーバーの違いや、いろいろ飲み方や味わい方を教えてくれた。これはとても良い。

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シングルモルトを一杯ずつとそれから加水した12年ももらったため、なかなか酔った。

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その勢いで土産コーナーに行く。まあまあ散財してしまった。ある意味想定内か。
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最後にポットスチル(蒸留器)の前で記念撮影をと思い、その辺りにいた観光客に声をかけた。たまたま工場見学ツアーで一緒になった人で、自転車を持った私の姿を見て、どこから来たの?とかいつものように聞かれる。

そして写真を撮ってくれと頼むとなぜか、「この子持って。とてもいい子だから。」と言って、彼女が連れていたでっかいレトリバーのリードを渡された。ちょっとこれには笑ってしまった。

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このショットは私の旅のベストショットになった。

Smallサイズ?のフィッシュ&チップス

レトリバーを連れたナイスなおばさんと別れ、蒸留所のそばのスーパーに寄り、ビールを買う。珍しくSmithwick'sの6本パックの缶が売られていた。Smithwick'sで大体売られているのは瓶である。今日の飲んで残ったら土産にしようと思い、1パックを買うが、もう荷物はパンパンである。

フィッシュアンドチップスのテイクアウト店「The Hip Chip」

ここはなかなか有名な店なようで繁盛していた。1/2と言うのがあったので、一生懸命「ハーフ」といったが、「スモールか」と聞かれるので、「そうだ」と答えておいた。値段も13ポンドと値段も悪くない。

予約したユースホステルは歩いて行ける距離だ。自転車を押して歩いていく。レセプションには誰もいなかったが、隣のレストランの経営しているらしく、そこに行くとすぐチェックインの手続きをしてくれた。

ベルファストユースホステルのように少し古い感じはするが、全体に施設は綺麗で、ここは当たりだと思う。

部屋に荷物を置き、先ほど買ったフィッシュ&チップスをリビングキッチンで食べることにした。フィッシュ&チップスの入った箱を開けると、フィッシュアンドチップスはほぼフルサイズ。

確かにスモールといったはずだが。。

ただ、フィッシュ&チップス自体は私がこれまでいろんな国で食べてきたものの中でも1番と言っていい位うまかった。少しポテトを残し、いつものように2杯目のSmithwick's を飲んだ。

昨日、体調を崩してどうしようかと不安だったが、無事にブッシュミルズ蒸留所への聖地巡礼を果たした。

やり残したことはもうあまりない。

あとは無事に家族の元に戻るのだ。



 

 

 

灰色のBallymena - cycling Ireland -

「あれっ」

バリーミナの宿でベッドから立ちあがろうとすると、嫌な感じがした。ふわふわするような感覚。熱が出たときのあれだ。まずいな。

 

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Ulster Museum

ベルファストのバーを楽しんだ後、ユースホステルの部屋で眠りに落ちたが、夜中に向かいのベッドにいたくさいオッサンのせいで起こされた。まったく不快なオッサンだったな。

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キッチンに移動し、朝食の支度をする。とはいってもトーストを焼き、コーヒーを淹れるだけだが。

コースを変更したことで日程的にゆとりができた。今日は50キロいけばいい。食事を挟んでも3時間みておけばいいだろう。外を見れば快晴。きのうの天気予報では午前中は雨だったのにな。こういうパターンのアイリッシュウェザーは歓迎である。軽くベルファスト観光をしていけそうだ。

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キッチンには誰もいなかった。朝食の準備をしているとアジア人の女性が入ってきた。日本人かな、と一瞬思ったが中国の人だった。アイルランド、本当に日本人いないな。

朝のベルファスト。街行く女性はコート姿。9月中旬である

出発準備を整えると宿を後にし、まずはタイタニックベルファストタイタニック博物館に向かう。

ベルファストタイタニックが建造された街であり、造船所の跡地にタイタニック博物館が建っている。タイタニックにはさして興味はないが、建物が特徴的であるらしいので、その外観だけでも見に行こうと思ったのだ。

ビッグフィッシュというその名の通りのモニュメント

街を走っていくと偶然、インフォメーションセンターを見つけた。せっかくなので立ち寄る。土産はいろいろあったが、まだこの先いろいろ買うだろうと思い、ポストカードと切手だけ買った。

この日の服装は冬用のアンダーウェアにメリノのジャージ、やや薄手のビブタイツと日本の季節であれば晩秋のようなウェア。いやに細く見えるのは姿勢の問題か

タイタニックベルファストは港の端に立っていた。想像したよりもはるかに大きかった。ちなみに入館料はオンライン予約で24.95ユーロ。
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タイタニックベルファストの外観を見て満足すると、その足でアルスター博物館に向かった。北アイルランド最大都市ベルファストには見どころが多いが、その中で私が行きたいと思っていたのがアルスター博物館である。f:id:independent-traveller:20251027212918j:image

アルスター博物館は国立の博物館で北アイルランド最大の博物館だそうだ。 美術、考古学、郷土史、植物学や動物学、地質学などの幅広い分野のその収蔵物が5階建ての建物の中に展示されている。入り口で寄付を求めているものの、基本的には無料である。

日本にまつわる展示も

一万年前のアイルランドに生息したというジャイアントディアーの化石

北アイルランド紛争の写真を撮り続けた岡村昭彦氏の写真展

この絵が気に入って売店でポストカードを買った

世界各地の古代~近代にかけての歴史的な収蔵品から始まり、世界大戦、北アイルランド紛争といった歴史を振り返る展示が続く。

北アイルランド紛争に関する展示

工藤麻紀子さんの作品


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そのほかに、アイルランドの自然史、鉱物、いかにも英国風の中世の絵画から、現代アートや写真と本当に多岐にわたる展示だった。アイルランドの自然史、動物などの展示は私のように英語があやしくても十分理解ができた。逆に歴史分野の話は解説がないと難しいと感じた。スマホの電波が悪く、英語翻訳がうまく機能しなかったこともあり、そういう意味では少し残念だったが、全体としては、どの展示もとても興味を引くものだった。一時間半ほど滞在したと思うが、じっくる見ようと思うともっと時間が必要だと思う。

売店でポストカードを買い、博物館を後にした。

丘の道

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アルスター博物館からはバリーミナに向かう。バリーミナはいったいどんな街なのだろう。きっと私が住む豊橋も海外のツーリストからしたら同じように何があるかよくわからないだろうし、普通なら行く理由がない街なのかもしれない。ぼんやりそんなことを考えた。
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今日もGoogle任せのルート設定。自転車ルート検索にするとうまくハイウェイを外して設定してくれる。小さい道でもきちんと舗装されている。グラベルバイクで来ているのでむしろ未舗装路でもいいのだが、意外と未舗装路に当たらなかった。グラベルが走りたいなら事前にきちんとリサーチしたほうがよさそうである。

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今日も緑の牧場の間を進んでいく。北アイルランドの郊外の田舎道も緑が美しい。グレーの空でも緑のおかげで明るく見える。
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どこかで昼食を取ろうかと思ったが、昨日バーでフィッシュアンドチップスを食べているおじいさんを見て、今夜私もフィッシュアンドチップスにしようかと思い、普通に食べたのでは完食できないだろうと思い、昼飯を抜いて走った。

旅の間、いろんな種類の羊を見た

そして牛も多い

バリーミナに近づくと、道は下り坂になった。レインギアを着ていないせいで、下りになると途端に体が冷えてくる。
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バリーミナまであと数キロ、というところで雨が降り始めてくる。そのまま宿までやり過ごせるかと思ったが、このまま雨は強くなりそうだ。私はあきらめてレインギアを着込んだ。体がかなり冷えてしまった。

レインギアを着た後は、すぐに強い雨になった。雨を振り切るようにバリーミナの街にたどり着いた。

窓からの景色

Bookinng.comで予約した宿は、街の中心部にあり、紹介文にはB&Bと書いてあった。実際に行ってみると、大通りから1本入った住宅街で、宿というより家を間貸ししてるような民泊のようだ。感じの良いおばさんでも出てくるかと思ってドアノッカーをたたくと、出てきたのは普通のおっさんだった。自転車を持っていると話をすると家の中に置けないと言われたが、奥のガレージなら置いていいと言ってくれて助かった。

今回のところはキッチンとリビングが使えた。キッチンは正直清潔とは言えず、コンロには前に使ったときのままなのだろう油が周囲に飛び散ったままだった。どうやらオーナーもここを使っているようだった。

当てがわれた部屋は3階。部屋に荷物を運びこむ。海外でシングルルームなんていつぶりだろう。アラスカのコールドフットか?とにかく久しぶりである。

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「寒いな」。廊下に置いてあったポットでコーヒーを淹れ、普段は使わない砂糖とミルクをたっぷり入れる。

疲れを感じベッドで横になった。

 

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しばらくゴロゴロして、立ち上がると何か変だ。

風邪を引いたのか。熱はあまりなさそうだが、体に明らかな違和感がある。

落ち着け、きっと大丈夫だ。何でもない。

私はベッドの端に再び腰かけると大きく首を振り、自分に言い聞かせた。

だが、首を振ったその感覚にも違和感を覚え、いよいよマズいなと思った。

 

今回の旅の最終目的地のBushmillsまではあと一日。どうしたらいいだろう?明日にでもダブリンに電車で戻って帰国まで大人しくしているか。このまま悪化したらどうする?

昼を抜いて体を冷やしたのが良くなかったのか。

いろんなことを考えてしまう。

毎日家族には無事にキャンプ場や宿に着いたなど連絡していたが、体調が悪いなんて連絡しても心配をかけるだけなので、伝えるのはやめた。

とりあえず手持ちの補給食を食べ、いくつか薬を飲んでもうしばらく休むことにした。明日のことは明日考えよう。

 

しばらく休んで体調が少し戻ってきたので、レインギアを着込んでスーパーへ歩いて行く。雨は降ったり止んだりだが、大雨ではない。どこか体がフワフワしたまま、結果的にスーパーまでは結構歩いてしまった。バリーミナの市街地はハイウェイ沿いの大型店舗が立ち並ぶところやいろんな商店の並ぶメインストリートは賑やかだが、一本裏通りに入ると人気も少なく、崩れかかった家があったりとなんだか寂しく感じた。自分の体調のせいもあったと思う。

晩御飯は持っていたパスタを茹で、スーパーで買った惣菜を食べた。

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部屋に戻り、ベッドの上の天窓を開けて外を見る。冷たい風が吹き込んでくる。錆びたトタン屋根や風雨に晒されて色褪せたスレートの屋根。長屋だろうか、規則正しく並んだ煙突がこの街の冬の寒さを想像させた。

ぼうっとした感覚の中で見たこの窓からの景色がなぜか心に残った。



アイリッシュシチューとSmithwick’s - cycling Ireland -

Newcastle

朝、いつものように雨。夜の間にかなり降ったようだ。山の方から激しく水の流れてくる音がする。

傾斜地のキャンプ場の下の方、雨がちょうど溜まるところでテントを張っており、気がつくと斜面の上から流れてきた水がテントの下に溜まり、床がタプタプしている。まるでウォーターベッドの上にいるような状態になっていた。テントを張った場所がまずかった。

しかし、私の使っているアライテントはさすがである。そんな状況でも全く浸水してこなかった。焦る気持ちを押さえながら、一つずつ荷物をまとめ、防水のパニアバッグに納め、テントの外に出す、という作業を繰り返し撤収をする。幸い水没するような被害はなかった。

キッチンエリアに移動し、朝食の摂りながら今日のコースについて再考した。昨日の疲れがかなり残っている。ロンリープラネットの推奨コースでアイリッシュ海に沿って東側の海岸線を走っていく計画も立っていたが、内陸部を行くもう少し短いルートを取ることにした。

ロンリープラネットサイクリスト版より一番南がニューキャッスル。推奨ルートは水色の線

この辺りは東はアイリッシュ海、西はモーン山脈にはさまれており、私が進んでいった海岸線沿いの道は、ときおり山からの水が激しく流れていた。

道を覆う水量で、私は追い越していく車に水しぶきをかけられるのが嫌で、しばらく車をやり過ごした。

本日最初の街は、Newcastle。余談だが、私が普段仕事をしている街は愛知県の新城市である。新城市は世界各地にある「新城」と名の付く都市と「ニューキャッスルアライアンス」という提携を結んでいる。残念ながらこの北アイルランドのダウンにあるニューキャッスルはアライアンスには加盟していないようだ。イギリスにはほかにもニューキャッスルの地名があるのでイギリスでは、他が加盟しているようだ。ここが加盟していたら、新城の人に自慢してやろうと思ったのだが。

ちなみに私の住む市の近隣にある蒲郡市ニュージーランドのギスボンと姉妹港の関係にあり、私は一度行ったことがある、というのを蒲郡市民に自慢してみたが、反応は薄かった。あそこも小さな美しい街だった。

ニューキャッスルは人口8000人程度で、今日の目的地である北アイルランドの中心都市であるベルファストから近いことから、夏場は避暑地として人気らしい。

北アイルランドニューキャッスルは我らが山の湊新城とは異なり、アイリッシュ海に面した風光明媚な街だった。早朝でなければ、テラスのあるカフェかバーでゆっくりしたい感じの街である。

 

海岸線を離れ、少し内陸に入っていく。どの街を経由してベルファストに向かうにせよ、車の多い主要道は避けたかった。

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やがて空が晴れてきた。

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道は丘を抜ける田舎道。

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平坦な道からアップダウンに変わっていく。上りの道は辛いが景色が抜群に美しい。
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本当にどこまでも続く緑の丘とそこで優雅に草を食む羊や牛たち。結局、ルートはまだGoogleの示したものを使っているが、まさにアイルランドで私が走りたいと思っていた道だった。アップダウンが多い分、多少時間がかかるが、この景色の中を走れるなら仕方がないなと思った。

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基本的に車は容赦ないスピードで飛ばしてくるが、サイクリストが前にいて、見通しが悪く対向車が来るかもしれないようなところでは無理に抜こうとしない。

 

ダウンパトリック Crossgar の教会

 

石造りの外構が目を引く

 

kilmoreの旧蹟

また対向車も大きな水たまりや行き違いが難しいところ、それから道路を譲り合うような場所であれば大抵、待っていてくれて道を譲ってくれる。スピードが速い車は怖いが、北アイルランドの郊外を走る車は基本的にはサイクリストに優しいと思う。

ルート再考

名もないたくさんの丘をめぐりながら、昼ごろにSaintfieldという街についた。

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小さな町なので、何度か街のメインストリートを往復し、昼食をどこにするかいろいろ悩んだ結果、「Kin & Folk Bakery」というベーカリーに入る。

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メニューを見たが、結局あらかじめGoogleで調べたときに気になったターキーエッグなるものを注文。カプチーノも一緒に頼む。

出てきた料理は、数個のポーチドエッグの下に、マヨネーズとチーズがあり、その周囲にビネガー系のソースとチリオイル、玉ねぎが入っていた。添えられた多めのディルがさわやかに香る。料理でそれはよかったが、パンが5切れもついてきた。昨日のカフェでパンを残していた男性のことを思い出し、パンはひと切れ残した。

 

丘を越えるルートは楽しめたが、昨日の走りすぎのせいで、とにかく疲労感がひどかった。

翌日、ロンリープラネット推奨ルートでベルファストからは再び東海岸をいくつもりでいたが、なかなかの山があるらしく、今の疲労具合では、そんなほうへ行ける気が全くしなかった。今日のようなことがあったらと思うと、キャンプも辛い。

カプチーノを飲みながらしばらくスマホとにらめっこすると、ベルファストの向こうにBallymenaと言う聞いたことない街で7000円弱で宿が1部屋空いている。

 

当初の計画とは違うが、昨日がイレギュラーすぎた。80キロ程度のところを130キロである。結果的に詰め込んでしまった日程のせいもあり、疲労はピークに近い。私はロンリープラネット推奨のベルファウストから北東のAntrim Coastを行くルートを諦め、内陸のバリーミナへ向かう平坦なルートに切り替えることにした。

Belfast

セントフィールドからベルファストまではアップダウンは続いたものの、後半はほとんど下り基調であった。調子よく走っていたが、ベルファストに入ったところで荷物が自転車から飛んだ。

その際に奥三河トレイルランニングレースの緑の手ぬぐいも一緒に飛んでいった。とても気に入ってたんだが。

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時間もまだゆとりがあるし、天気がいいのでルート上にあった公園で濡れたままだったテントを乾かした。正直これは助かった。

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予約したユースホステルホテルに到着。キャンプ場もないわけではなかったが、郊外にあり、バーで夕食を楽しむ予定であったので、街中のユースホステルにしたのだ。値段が安かったのもある。

ベルファストユースホステルはかなり大きく、4、5階建てのビルだった。部屋数もかなりあるようだ。建物の作りが昔のユースホステルという感じだが、きちんと手が入っており、全体的にはきれいだった。

ただ、受付の女性がとても感じが悪かった。支払いのクレジットの端末も投げるようにこちらに寄越しててきた。英語も早口で何言っているかわからない部分が多い。しかも自転車の中に入れるなと言う。いったん、「はいはい」と受け答えし、荷物を部屋に運んだ。

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結局、私はバイクをばらし、念のために持っていたモンベル輪行袋に入れて、素知らぬ顔で部屋に持ち込むことにした。私の部屋は3階。

シャワーや翌日のドリンク用の砂糖多めの紅茶づくりなど、やっておかなければならないことを先にす済ませる。前日のうちに紅茶を沸かして翌日までさましておくのだ。こういう微妙な節約が大事である。ただ、今朝の雨の撤収でパニアバッグの下のほうに水が入ったみたいで、たくさん買っておいた紅茶のティーバッグに浸水しており、ほとんどがダメになってしまっていた。残ったら土産にしようと思っていたのだが。

いろいろ片付けてる間に夕方である。何でもないことに時間がかかる。昔はこういうところに時間がかかることなんて気にならなかったのだが、それだけ今回は「あれをやらなきゃ」とかそういうことが多いのだろう。

 

ごそごそしていると、「Hi!」と若いカップルが入ってる来る。彼女のほうが「アメリカから来たの。よろしく」と挨拶してくれる。彼氏のほうも感じが良い。私の部屋は4人部屋でほかに私より臭いちょっとやばそうなのオッサンが一人いた。実際、このオッサンはちょっとやばかった。

Brennans'Bar

店が混む前にと私は外へ出た。

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ベルファスト北アイルランドの最大都市だが、国籍不明な外国人が多く、路地裏はダブリンよりちょっと怖い印象だ。今夜はアイリッシュシチューとSmithwick'sと決めている。

チャットGPTでアイリッシュシチューのある店を探させると、徒歩10分ぐらいのところにあるBrennans'Barというところにありそうとのことだった。

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見るからにアイリッシュバーですという外観。観光客も多いのではないだろうか。入り口にトゥデイイズスペシャルが「天ぷら」と書いてあって、ちょっとウケた。それはそれでネタとしては面白いが、今日はアイリッシュシチューなのだ。

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アイリッシュシチューはガイドブックなどでアイルランドの名物と書かれているが、意外とメニューにある店は多くない気がする。

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1階のカウンターで忙しそうにする女性に食事がしたいと話をすると、食事する場合は2階ね、と言われる。1階が混雑していたので心配したが、2階はまだ席が空いていた。早い時間にきて正解だったな。

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予定通りSmithswick'sとアイリッシュシチューを注文。

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アイリッシュシチューは8.5ポンドで意外と安い。アイリッシュシチューはどんなものが出てくるかと思ったら、牛肉の煮込みで、じゃがいもとニンジンが入っていた。じゃがいもはほぼ溶けていて、シチューと言うよりも洋風の溶けた肉じゃがといった感じだった。

味は非常にシンプルで、素材の味と塩位ではないだろうか。食べやすくておいしかった。ただ、いつものように食べてみると見た目以上に量があった。これはもはやお約束である。

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シチューを平らげ、2杯目のSmithwick’sを飲みながら日記を書く。となりのテーブルのお年寄りたちが、山盛りのフィッシュ&チップスを何でもないように食べている。あれがレギュラーサイズだとは思うが、あんなに脂っこいものをあの年でよく食べるなと感心した。

 

私は日記を書く手を止めた。

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いつの日かベルファストのバーで日記を書きながら、Smithswick'sを飲んでいたことを思い出すが来るんだろうか。

あぁ、こうした旅の記憶が増えていくのはなんと素晴らしいことだろう。

2杯目のレッドエールのグラスが空くと私は席を立った。

国境を越えろ〔後編〕 - Cycling Ireland -

陸路を行く

フェリーが動いていないのなら、あれこれ考えても仕方がない。陸路で回っていくか。一人旅の失敗は自分で責任を取るしかない。今回は自分の足で稼ぐのだ。

私はフェリーで渡るはずだったカーリングフォード湾をぐるっと迂回し、国境のニューリー川沿いに河口を北へ。そのまま陸路で国境を越え、イギリス領の都市ニューリーに向かうルートを取った。

ニューリー川対岸はイギリス領北アイルランド。あそこに行きたいだけなのだが

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幸いニューリー川沿いはサイクリングロードが整備されており、道はよかった。「Carlingford Lough Greenway」という道らしい。

ただ風はやや向かい風で空もだんだんと雲に覆われてきた。気持ちが焦ってくる。こういうときは焦っても仕方ないと頭では分かっている。分かっているのだが。
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シーフードチャウダー

しばらく走ってさすがに疲れてきて、サイクリングロードの横にあったかわいいカフェに入ることにした。食事もできそうだ。f:id:independent-traveller:20251020214322j:image

疲れた。フェリーを降りた後に食べるはずだった遅めのランチにしよう。

カフェに入りメニューを見る。

燻製タラのバーガーも食べたかった

ここはカウンターで注文する店らしい。メニューを眺めると良いものがあった。シーフードチャウダーがある。アイルランドのいるうちに食べてみたいと思っていた料理の一つだ。

カウンターで順番待ちをしている間、近くの席にいたマダムが連れていたマルチーズと遊ぼうとしたが、なかなかの勢いで吠えらてしまった。怖がらせてしまったかな。スマンすまん。マダムに謝られてしまった。

私はシーフードチャウダーカプチーノを注文した。支払いはユーロでもポンドでもどちらでも大丈夫なようだった。
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私は席につき、隣の席を見るとマウンテンバイカーがいた。外にあるEバイクに乗っているのだろう。その男性はSoup of dayとカプチーノを注文していた。スープだけ飲むとパンを1枚食べ、もう1枚のパンは残していた。なるほど無理矢理全部食べなくてもいいか。食事を残すことに抵抗のある私は、そういう発想に最近は至らなかったんだが、アイルランドの食事のボリュームを考えたらそれもありかなと思った。

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シーフードチャウダーが運ばれてくる。スープはとろっとした感じでスープというよりシチューといった感じだ。ややしっかり目の味付けが疲れた体に沁みた。サーモンに軽くスモークされたタラのような白身の魚、それからタマネギ、セロリなどが入り、食べ応え抜群だった。ちょっとこってりした感じではあったが美味しくいただいた。アイルランドの食事は旨いと思う。

Newryの人々


ときどき国道に戻ったりしながら、基本的には川沿いのサイクリングロード「Carlingford Lough Greenway」を行く。

国境付近で。ユーロとポンドどちらでも支払えるようだ

そろそろ国境かと気にしていたが、国境には目印になるものは何もなかった。懸命に走っているうちにいつの間にか国境を越えていた。

国境には「BORDER」の看板ぐらいあるのかと思っていたが、何もなかった。このあたりの事情は1998年のベルファスト合意でアイルランド北アイルランドの国境は自由に行き来できるようになったことに起因するようだ。気になる方は調べていただけると当地の複雑な背景が分かると思う。

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国境はこのあたりだが、インターネット回線はカフェあたりからイギリスの回線に切り替わっていた。そのあたりから電波が悪いのかGoogle マップがまともに動かない。

どうしたものかな。私はスマートフォン自体の問題なのか、回線の問題なのか判別がつかず、トリファのアプリでeSIMを入れることも検討したが、eSIMを入れるにしても、Wi-Fi環境のなければそれすらできない。f:id:independent-traveller:20251020214357j:image

「Carlingford Lough Greenway」を行き止まりまで行くとイギリス最初の街、ニューリーに入った。私にとって初のイギリスである。初のイギリスが名前も聞いたことのないニューリーの街になるとは。旅をしているといろんなことがある。

私はまずインフォメーションセンターへ向かった。スマホが頼りにならないなら、昔のやり方をするだけだ。案内看板を見つけ、そのままそれに沿って進んでいく。

 

インフォメーションセンターに着くとWi-FiをつなぎeSIMを入れてみるが、あまり変化は無い。まぁだめならだめだ。スマホは一旦諦めよう。

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時間的には少し遅いが、何とかゆっくり走れば予定のキャンプ場までたどり着けそうだ。ただし何時になるかわからない。6時か7時か。

ちょうどインフォメーションセンターにキャンプ場のチラシがあったので、予約してないけどここに泊まりたい、ということをインフォメーションの女性に伝える。彼女は電話で私の意向をキャンプ場側に伝えてくれたが、相変わらず私が英語のやりとりがうまくできず、翻訳アプリを使ってのやり取りになった。あぁ私の英語力よ。

「あなたどこの国から来たの?ジャパン!ジャパンから来た人は初めて!」と興奮気味に話し、翻訳アプリを使い始めたが、彼女が英語でテキストを入力し始めると、その文字を読んで何が言いたいかすぐに分かった。あ、私はやっぱりヒアリングが絶望的にダメなんだなと改めて思った。

彼女は電話でキャンプ場に予約をしてくれ、オーナーからの伝言ということで、もうその時間にはオーナーはいないかもしれないから勝手にテントを張っていい、ということを教えてくれた。そういうキャンプ場は時々ある。ニュージーランドでもたまにあった。

私は彼女に「君は本当に親切な人だ」と感謝を伝え、写真を撮らせてもらった。旅先で会った人の写真は、ときどき見返して「この人なにしてるんだろうなぁ」と想像にふけることがある。

インフォメーションセンターでキャンプ場に連絡を取ってもらったおかげで気持ちにゆとりができた。遅くなってもとにかく目的のキャンプ場までたどり着けばいい。

道の分岐でルートが間違っていないか、動きの遅いスマホを確認していると、犬を散歩していた男性が話しかけてきた。

彼はRui 。私の自転車を見て興味を持ったようだ。興奮気味にいろいろ話をしてくれる。彼自身自転車でアイルランドを一周したりしているそうだ。
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しばらくお互いの話で盛り上がり、Facebook のアカウントを交換して別れた。

彼の犬のリーアム。アイルランドの犬種らしい
マイル表示

ニューリーから先は、そのまま今度はアイランド側から上がってきたニューリー川沿いの道を今度はイギリス側を走って河口へと下っていく。

頑張って走ってきたカーリングフォード湾のアイルランド側が見える

北アイルランドに入ってから路肩の道路状況があまり良くない。アイルランド領内ではそこまで気にならなかったのだが。狭い道でも車はバンバン飛ばしてくる。疲れてフラフラになりながら海岸を走る。

次の街までの看板が出てくる「Kilkeel 10」と書いてあるが、これはキルキールまで10キロではなく、10マイルである。イギリスに入ると距離がマイル表示になるので注意が必要である。特に我々サイクリストには。マイル表示の国なんて北米アラスカ以来である。

 

目的のキャンプ場の手前の街、キルキールに到着した。スーパーを見つけて入る。今日分の飲み物は全部飲んでしまったので、まずはすぐに飲む飲み物と、それからキャンプ場は周辺に店がなさそうな雰囲気なので、ビールと小腹が空いたとき用のラーメンを買う。

最初アルコール売り場ががわからなくて、イギリスはオーストラリア方式でライセンスがないとアルコールが売れないのかとちょっと焦ったが(2月に行った西オーストラリアはスーパーで買えないことが多かった)、アルコールコーナーはちゃんと奥のほうにあった。私は無事にSmithwick'sを2本購入することができた。

7時前に何とかキャンプ場に着く。

やはりオーナーはいない。キャンプ場は海に向かった傾斜地に作られており、上のほうにキャンピングカーが停まっていた。

どこにテントを張るべきか少し迷ったが、まぁオーナーがそんな風に言うだから、よほど変なところなければ大丈夫だろう。私は下のほうのよく開けたところでテントを張った。

テントを張り、シャワーと夕食を済ませて早々にテントに潜った。ちょうど雨も降り始めてきた。

長い一日だった。フェリーが動いていれば80キロで済んだところを、結局130キロも走ってしまった。疲れる訳である。

以前、職場で何かの会話の折に、若手の後輩に「それ、発想が脳筋ですよ」と言われたが、まさにやったことは脳筋の発想である。気合があればなんとかなる。

ニューリーから北に上がるルートやほかのキャンプ場や宿を取る手もあったと思うが、地図を見たときに、直感的にこの海岸線を走ってみたいと思ってしまったのだ。

当初の予定ルート 80キロ程度

カーリングフォード湾を迂回するルート。130キロ。

それにこんなことがなければRuiやインフォメーションセンターの女性と出会うこともなかったし、そもそニューリーだって寄ることもなかった。

一瞬、インターネット回線が切れてアナログ的な、つまり若い頃、自分が旅してたような方法で動くことになり、なんだか懐かしかった。

情報インフラが発達し、一通りのことが自分で調べたり、手配することができるようになった。その分、旅はイージーになったけれど、自分から人に頼り行って、次の目的にに進んでいく、といったような事は減っているのだなぁと今更ながらに実感した。

これが今の時代の今の旅なのであろう。そんなことをぼんやり考えながら、2本目のビールを分け、私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

国境を越えろ〔前編〕 - Cycling Ireland -

快晴のアイルランド

「Spoon and the stars」を出発し、ドロヘダを離れる。今日はアイルランドとイギリス国境に流れるニューリー川の河口にあるカーリングフォード湾のフェリーを使い、国境を越えイギリス領に入る予定。先の日程にゆとりを持たせたいので、フェリーを使ってショートカットをし、80キロ程度で済ませたいところだ。

今朝の天気は晴れ。なんと朝から快晴である。晴れのアイルランド。空の青と牧草の緑が鮮やかな色を放っている。グレーの曇った空とその景色はもはや当たり前のアイルランドの景色として受け入れていたが、こうして朝からすっきりと晴れているとまるで印象が違う。f:id:independent-traveller:20251020214430j:image

 

晴れがうれしくて自撮り。カメラの三脚はキルケニーあたりで落としていた。

国道を北に上がっていくとサイクリストとたくさんすれ違う。この辺りは特に年配の人が多く、蛍光色のジャケットやベストを着たおじいさん、おばあさんが軽快に走ってくる。年配のサイクリストが多いのは平日の午前中ということもあるのかもしれない。軽く手を挙げて「Hi!」と挨拶する。どこの国であってもこうしてサイクリストと行き会うのはうれしい。

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まっすぐに伸びる国道の両脇には緑が広がる。その多くはこれまで同様に牧場だ。ぺダルを踏んで自転車がどんどん加速し、周囲の景色がどんどん変わっていく。空が晴れているだけで、その単純ないつもと変わらぬ行為が楽しくて仕方がなかった。

だが、交通事故もそれなりにあるようで、宿を出るときにKタロウくんが「ブラックポイントって言われる交通事故が多い場所があるんで、注意してください」と」言っていたのを思い出す。郊外の道は確かに車は飛ばているので、十分気を付けようと思った。

ラウス県では過去4年間で64人交通事故で死亡、と書いてあった。

しばらく走り続け、Bellingam Castleという街に入る。郊外の小さな街といったかんじだ。その名の通り、城のあった街なのだろう。
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ポストオフィスにいいポストカードでもないかと覗いてみたが、それらしいものはなかった。できればニューグレンジのポストカードが欲しかったが、見つかられなかった。
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Great Northern Distillery 

最初の目的地はDundalkにあるグレートノーザン蒸留所。見学できる工場ではないので眺めるだけだが、通り道であるので立ち寄ることにしたのだ。
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グレートノーザン蒸留所は、自社用のウイスキーを作っているわけではない。

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アイリッシュウイスキーブレンドのもとになるグレン・ウイスキーを主に作っている蒸留所で、様々な他のブランドに出荷していると言う。いわばアイリッシュウイスキーの屋台骨を支える蒸留所である。ゲートの外から覗いただけだが、まさに工場といった感じだ。

グレートノーザン蒸留所のそばの小学校

聖ニコラスローマカトリック教会

ダンドークの街
さよならCarlingford Lough ferry

ダンドークで少し早めの昼食という手もあったが、この後フェリーに乗る予定である。満腹でフェリーに乗って船酔いするのも何だし、私はフェリーで国境越えしたあとに遅めの昼食を取ることに決めた。昔、ニュージーランドで北島から南島に向かうフェリーでフィッシュ&チップスを食べて、気持ち悪くなったのを思い出したのもある。
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ダンドークからフェリーの出るGreenoreまで約25キロほど。少し雲は出てきだが、風は追い風。私は早くフェリーを捕まえたいこともあり、風に押されるがまま、なかなかいいペースでペダルを踏み続けた。
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実はグリーンノアの手前にクーリー蒸留所があったのだが、気が付かずに通過していた。こちらの蒸留所も見学できるわけではないようなので、まあよしとしよう。
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一時間半ほど走っただろうか。道の突き当たりのフリーターミナルにつく。海岸線のがらんとしたところで、隣に砕石かコンクリートか何かの工場があるが、フェリーターミナルには建物もなければ船もない。

看板を見ると毎時30分に出発とある。フェリー乗り場であることは間違いないようだ。短い航路なので、いろいろ簡素にしているのだろう、と勝手に推測した。

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現在時刻は12時45分。少し待つか。

しかし、待てども船は来ない。たまたまやってきた地元のサイクリストを捕まえて話を聞いてみると、「今日は来ないんじゃないかなぁ。ウェブサイト見てみなよ」と言われる。

今更ながら調べてみると、今週については週末しか運行しないらしい。私はGoogleマップで普通にルート案内が出たこと、日本の短い航路(伊勢〜伊良湖、和歌山〜徳島など)フェリーが毎日運行していることもあり、てっきり毎日運行していると勝手に思い込んでいた。

ああ、またやってしまった。

キルケニーの電車の予約といい、今回こんなことばかりだな。

どうしてフェリーのことをちゃんと調べなかったのだろう?

ここから予定のキャンプ場まで何キロあるんだ?

今後の日程を考えると予定のキャンプ場まで何とか行きたいが。。。どうやって行こうか?

 

……続く

Droghedaの日本人 - cycling Ireland -

Spoon and the Stars Hostel

ドロヘダの駅から予約した宿まではすぐだった。この辺りはちょうどいいところにキャンプ場がなく(一つあったにはあったが、予約でいっぱいらしく泊まれなかった)、booking.comでどこか良いところがないか探すと「Spoon and the Stars Hostel」という宿が一泊32.4ユーロで見つかった。この値段なら全く問題はない。私は宿泊を決めた。

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宿は黄色や青のかわいい色のドアの並ぶ建物の1つであった。ドアにはオーストラリアに多かったボタン式の暗証番号を押すタイプの鍵がかかっている。宿泊の予約メールを見ても、特に番号は書いていなかったので、ドアノッカーをコンコンとノックする。実はドアノッカーを実用的に使うのは初めてかもしれない。f:id:independent-traveller:20251017075017j:image

しばらくして中からメガネのお姉さんが出てきた。「予約あるの?」とちょっと怖い感じで言われたが、予約してあるよ、と言うと、どうぞと中に案内してくれた。

チラッと左の方を見ると半地下になっている階段のところに猫を抱いた日本人らしき男性が見えた。

他の国でもこういうところではたまに日本人に会う。ただ、私もそういうことがあるが、ここまで来てわざわざ日本人と話したくないという人もいる。まあ、機会があれば話すこともあるだろう。このときはそのぐらいにしか思っていなかった。

建物は昔の作りなのか、入り組んだ構造でなんだかぐるぐる回ると他の部屋に繋がっていた。構造を理解するのに少しかかる。

まずはフロントでチェックイン。案内してくれたお姉さんは最初は怖いかなと思ったが、とても親切に応対してくれた。

宿のリビング

建物の中にランドリーのスペースが見当たらないので、お姉さんに聞くとランドリーはお金を払う宿側でサービスでやってくれるらしい。高級ホテルみたいだな。このパターンは初めてである。

明日早く出発したいが、それでもやってくれるか聞くとすぐに洗ってくれるという。数日分の洗濯物を彼女に渡し、7ユーロ支払った。この値段なら問題ない。量が多いと10ユーロのようだ。後で気づいたが、彼女が洗ってくれたのだろうか。下着などもあって、もしかしたらと思うとちょっと恥ずかしかった。

Newgrange

ここでわざわざドロヘダを後半戦のスタートに選んだのには訳があって、ドロヘダの西に少し行くと先史時代の遺跡として知られる「ニューグレンジ」があるのだ。写真でその姿を見た時に行ってみたいと思った場所だ。

まだ日暮まで時間がある。荷物を宿に置いておけば、良いペースで走れるはずだ。私は部屋に荷物を置き、ニューグレンジに向かった。
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川沿いの道を西に走っていく。整備された道で非常に走りやすい。風は相変わらず強い。だが幸い雨は降っていない。

ニューグレンジの方向を示す道路標識とGoogle マップのナビが矛盾しており、どちらを優先すべきかと思ったが、道は付いているので、看板を無視しGoogle マップにしたがった。ナビが案内する車の道と自転車の道は違うことが多いし、今回もきっとそうだろうと思ったのだ。

ニューグレンジの入り口まで行って、問題が発生した。ニューグレンジは周辺にあるボイン川会戦のビジターセンターから周辺の遺跡を回るツアーに参加しないと見学ができないらしい。ゲートの入り口の女性にそのことを説明される。そして時計を見て「今からビシダーセンターに行っても間に合わないわね」と言われる。私は疲れがどっと出るのを感じた。

彼女を説明を聞いて日本語で「あぁそういうことなの!」と言うかのように「I see!」とゆっくり言った。彼女は自転車でやってきた私を気の毒に思ったのか「そこから眺めてでもいいわ」とゲートの横のほうを示した。

ニューグレンジ。もっと近くでみたかったな。

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私はしばらくニューグレンジを眺めて、ベンチに座っていたおばあさん2人に写真を撮ってもらう。
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まあ、こんな展開も私らしい。旅で感じた違和感を無視してはいけないと、電車の予約の件で思ったばかりなのにこの様である。いやはや。

アイリッシュビーフ

ニューグレンジを後にし、宿の方へ戻っていく。帰り際、スーパーに寄り買い物をする。

ドロヘダの川沿いにあった釣りマップ。アイルランドで釣りもいいな。


晩酌用のSmithwick's を2本。それから今夜はビーフを食べると決めて、アイリッシュビーフのステーキ肉を買う。いつも一人旅で困るのがこの肉である。何が困るかと言うと売っている量が多くて、一晩で1人で食べるちょうどいい量が買えないのだ。今回は幸い小さめのものを見つけることができた。

St. Mary's Church

宿に戻りキッチンで晩御飯を作る。まだ時間が早いのかキッチンにはほとんど人がいない。クッキングヒーターはオーストラリアにもあったタイプのあまり日本では見ないパネル式のもの。使い方が思い出せず、少し触ってみたがうまく使えなかった。

キッチンで本を読んでいた男性に使い方を聞くと優しく教えてくれた。

私はステーキを焼き、ソースは醤油と砂糖の甘辛く煮詰めたものにわさびをたっぷり入れた。一緒に食べるパンも数枚焼く。もちろんビールはSmithwick's 。グラスにたっぷり注ぐ。f:id:independent-traveller:20251017075004j:image

アイリッシュビーフはジューシーで臭みもなくとても美味しかった。期待通りの味であった。
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食事を終え一通り片付けをするとは2本目のビールを栓を開けた。ビール1本の量がなかなか多いので、2本目開ける頃にはそれなりに酔いが回っていた。ここで日本から持ち込んだバリ勝男くんをツマミにSmithwick's を飲む。海外でこれをやるのがちょっとした夢であった。
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日記を書きながらビールを飲んでいるとキッチンがだいぶ混んでくる。今回の宿もいろんな国の人がいるようだ。アフリカ系のルーツの人だろうか?見たことない料理を作っている人もいる。

フランス人のカップルがやってきて料理を作っているのだが、途中途中でイチャイチャしている。昔こんなことがニュージーランドのキャンプ場でもあったが、ちょっと困ったような気分になると同時に懐かしいような気分になった。f:id:independent-traveller:20251017075008j:image

ワーホリの若者

黎明とともに目が覚める。窓の外を見ると薄い水色の青空が見える。なんと今日は晴れのようだ。これは朝からやる気が出る。早く出発したいところではあったが、今日の宿は朝食付きらしいので、宿の朝食はどんなものが出るのか見てみたいこともありの朝食の8時までゆっくり準備をして待つことにした。

時間になり、キッチンに行ってみると、テーブルにはシリアル各種、パンが2種類、フルーツにジュース、牛乳、卵と充実した内容。

昨日宿に着いた時、階段の下で猫を撫でていた日本人らしき若者とキッチンで一緒になる。彼は私のバックにつけられた車神社のお守りステッカーを凝視している。

やっぱり日本人かな。「日本人ですか」と話しかけてみると日本人だと言う。「そうですよね。」彼は嬉しそうにそう言った。彼は北海道出身のKタロウくん。ワーキングホリデーでアイルランドに来ていて、ここに住み込みで働いているそうだ。

なんとここで日本人に会うのは初めてだそうだ。もちろん私もアイルランドに来てから日本人に初めてである。二人で朝食を食べながら、話をする。お互いの簡単な紹介と日本人的アイルランドあるあるの話を少ししてみる。出発前にアイスランドと間違えられたり、アイルランドってそもそもどこ?と言われたりそんなたわいもない話だ。アイルランドは確かに日本人が少ない、そう感じていたがどうもそう考えて間違いないようだ。私が積極的に調べなかったのはあるが、確かにアイルランドの情報はあまり手に入らなかった。

昨日のうちにいろいろ話せればよかったのだが、仕方ない。朝話せただけもよかった。私はふと思いついて「日本食って要る?」と聞いてみると、Kタロウくんは目を輝かせて「いいんですか!」と言う。私は部屋に戻ってくると言って荷物を取りに行った。KタロウくんはTシャツにいろんな人からコメントを書いてもらってるらしく、私にも「なんでも好きなことを書いてください」と言ったので喜んで書くことにした。

私の旅も長いものではないので、たいした量の日本食を持っていない。キルケニーで食事を作るのをさぼって早々にチキンラーメンを食べてしまったことを後悔した。パスタをよく食べるそうで、タラコパスタのソースは喜んでくれた。いや、渡せそうなものはどれも喜んでくれた。

前回オーストラリアに行った時、パスタを買って、さらに米を買うと旅行中に消費できないことから、米の購入を見送り、米を食べる機会を失っていたので、今回は1食分強の米を持っていた。どうだろう量にして1.5~2合ほどだと思う。

「お米もあるけど要る?そんなに量ないけど」私が聞くと「いただいてもよろしいでしょうか」とKタロウくんが答えた。控えめながら、欲しいという気持ちがひしひしと伝わってくる。聞けば、ドロヘダのスーパーでは日本食がほとんど手に入らず、売っている米もいわゆる日本の米ではないらしい。

この辺は私が今まで旅した国とはちょっと事情が違うようだ。オーストラリア、ニュージーランド、アラスカといろいろ回ってきたが、米が手に入らずに困った事はほとんどない。私は短い旅でもあるし、そんなに喜んでもらえるならと快く米も渡した。

もっとたくさん話したかったが、Kタロウくんは朝からのシフトが入っているそうで、SNSのアカウントを交換し、宿の入り口で一緒に写真を撮ってもらった。f:id:independent-traveller:20251017075037j:image

もっといろいろあげられるものを持っていればよかったのだが、わずかでも彼の役に立ったなら嬉しい。わざわざアイルランドを選んでドロヘダの街でワーキングホリデーを頑張っている若者を陰ながら応援したい。

私は素敵な出会いに感謝し、Spoon and the Stars Hostelを後にした。

ミスから始まる移動日 - cycling Ireland -

夜明け前

バサバサッとテントのフライシートが強風に煽られる音が何度も聞こえてきて、私は薄く目を開けた。テントが大きく揺れている。雨も降っているようだが、木の下にテントを張ったおかげだろう、雨はそこまで当たっていない。

テントは激しく揺れるが、さすがのARAI TENTである。強い風の中でもしなやかに風を受け流していた。

嵐の中、今日乗る予定の電車についてチャットGPTで調べてみる。するとそんな電車はないと言う。おかしい。

予約をよく確認してみると私はキルケニー(Kilkenny)発ではなくキラーニー(Killarney)発の電車を押さえていた。キラーニーは、はるかに西の果ての街である。

予定では、今日は旅の前半戦から中盤から後半戦に向けて、電車でいったんダブリンに戻り、そこから更に電車でイギリス国境から50キロほどのドロヘダ(Drogheda)まで移動するはずだった。

思えば、もともとこの予約に違和感があった。経由地がキルケニーより南部の街で、わざわざ南から回り込むのかと思ったが、早朝便だったので、そういうこともあるのだろう、ぐらいにしか思っていなかった。その違和感を無視続けたのが致命的だったのだ。痛い教訓になった。

キャンプ場のリビングで途方に暮れる

この先の旅のプランも全て見直しではないかと、私は焦りに焦った。しかし、今日に関しては予定はゆとりをみてある。

電車を再度調べると8時ごろキルケニーからダブリンに行くの電車があるようだが、自転車の予約が取れない。アイルランドでは鉄道の予約をする際に一緒に自転車の予約をしておかないと自転車を乗せることができない。

その次の11時42分発の電車なら自転車の予約も取れる。だがもしかしたら駅で何とかなるかもしれないと、わずかな期待を持って、8時台の電車に間に合うようにをキルケニーの駅に向かった。嵐のような風は止んだものの、依然強い風が吹き、冷たい雨が降っていた。

キルケニーの駅は思ったより小さな駅だった。どうだろう、駅の大きさで言えば、普通電車しか止まらないJRの駅ぐらいのサイズではないだろうか。窓口を開いていない。これはダメだな。8時台の電車を見送り、小さな駅の構内で次の電車の予約を取ろうとしているとオレンジの蛍光ベストを着た駅員さんが話しかけてくる。私は事情を話した。どうやら朝の便は混み合っていて自転車の予約が取れないことが多いようだ。

「次の便だな」そう言われて私は素直に次の11時台の電車を予約しなおした。

手紙を書く時間

キルケニーの駅は風が吹き込んで冷えることもあり、いったんキルケニーの街に戻った。駅を出る頃には青空が見えた。

キルケニー駅近くのSt john Evangelist教会

昨日街歩きをしながら見かけたカフェに入り、昼食用にサンドイッチを買い、カフェモカを注文した。

カフェでは、そろそろ書こうと思っていた手紙の第一弾を書くことにした。こんな失敗した日に手紙を書くのはどうかと思ったが、幸い時間はある。

ときどき手紙を書く手を止めて、カフェの外を見る。街行く人々は、コートを着た人もいるが、大体もう少し軽めの服装だ。日本でいえば初冬の格好といったところだろうか。基本的に寒い。まだ9月なのに。

甘いカフェモカを飲みながら、今日の失敗について考えた。今回の旅についてはこれまでになく予定を詰め込んでしまったと思う。おかげで、いろんなところでゆとりがない。本当は今日がそのゆとりを持った日であったが、電車の時間を取り間違えるということでこの有様である。

いつもの私の旅のスタイルは、ここに寄りたい、とか、これがしたい。というのは実は少ない。知らない土地を自転車で訪れ、そこにある景色やそこにいる人に出会うことが目的であり、有名な観光地に行くのは重要ではない。

しかし、今回、アイルランドという国にあっては、レッドエールとアイリッシュウィスキー、パブ料理と行きたいところが多い。そしてもう次がないかもしれない、そうした思いから、やりたいと思ったことは全部やる(主にパブ料理を食べることだが)、行きたいところは全部行く、という形になり、結果として日程がタイトになってしまっていた。だが、妥協はしたくないし、やるしかない。

カフェで近くにいた赤ちゃん。可愛かった

そんなことを考えながら、手紙を何通か書き、昨日ブックストアのマダムが教えてくれた場所のポストへ投函した。いつ届くのだろうか。旅の香りが少しでも届くといいのだが。

Iarnród Éireann(アイルランド鉄道)

キルケニー駅に戻り、電車を待つ。自転車と共に電車を待っていると、他の客に話しかけられる。けっこういかついオッサンだ。「そのRitcheyは何年のモデルだ?スチールだろ?」今回の旅は本当に多いな自転車好きが。「最近のモデルだよ。もちろんスチール」私がそう答えると、彼は満足そうに「カナダから来てるんだ。リッチーは素晴らしいよ」と言った。いいぞ。もっと褒めてくれ。

電車は出発の20分前にホームに着いた。オンラインで取ったチケットはiPhoneのウォレットにQRコードが登録されている。駅員さんにそれをを出すとスキャンしてもらってもらうだけで簡単だった。日本もこれぐらいイージーになればいいのに。

イクラックは最後尾の車両にあった。バイクラックに自転車をどう積んでいいか分からずにあたふたして、近くに座っていたに聞いたが、こっちがフロンタイヤなんじゃない?みたいな感じでよくわからないようだった。

次の電車でほかの客が同じように自転車積んでいて安心した

定刻通り電車が出発する。私は車窓を流れていく草原の景色をしばらく眺めていたが、気がつくと眠っていた。朝4時起きだったからな。

電車は定刻通りにダブリンのヒューストン駅に到着した。さて、ここからが少し問題である。

予定の変更で当初の想定よりダブリン到着時間が遅くなったため、考えていた自走区間をやめ、ドロヘダまで電車を使うことにした。ダブリンから北に行く鉄道は、ヒューストン駅から西に3キロほど行った市内のコノリー駅から出る。キルケニーからの電車と合わせてコノリー~ドロヘダ間の電車を予約したが、そのインターバルは30分少々。

ヒューストン駅は当たり前だが大きな駅だった。出口を目指し、自転車を押しながらサクサク歩く。ヒューストン駅からコノリー間は鉄道が走っているが、この時間、自転車を乗せることができない。そこで自走である。

Google マップでナビを起動し、一路コノリー駅を目指す。乗り換えまで残り10分でコノリー駅に到着。当然初めて来る駅である。困った、駅の構造が全くわからない。

ざっと駅の案内表示を見るとどうやらホームは2階だ。とにかく自転車をあげなければならない。エレベーターだ!

エレベーターで待っていると荷物を持った女性と一緒になる。気は焦るが、彼女を先に行かせようとエレベーターを見送ろうとしたが、彼女が「乗って」と合図をするので自転車を無理やり載せる。エレベーターの大きさはギリギリで自転車を斜めにして何とか入った。

その様子を見て彼女は大きな声で笑った。「よかったね」と言ってるような感じでとても楽しそうだった。やさしいなアイルランド人。おかげで無事に予定の電車に乗ることができた。

ドロヘダ行きの電車はベルファストまで行くEnterpriseと呼ばれる電車だった。こちらも自転車を乗せるスペースは最後尾にあった。いや、席が進行方向逆だからこちらが先頭なのか。ややこしい。

旅の最後はイギリス領北アイルランドベルファストから同じ電車でダブリンまで戻る予定だ。今日の失敗でわずか数日先のことなのに、ほんとうにそんな風にいくのか、と不安になった。

だが、旅にあっては不確定要素しかないし、何かあれば、何とかするしかないし、なるようにしかならない。

 

ああ、旅をしているな。車窓を眺めながらそんなことを思った。

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アイリッシュレッドエール - cycling Ireland -

Kilkennyというビール

そのビールを知ったのは、まだ20代の時。ニュージーランドへ自転車旅に出るため、当時勤めていたホテルを辞める頃、ニュージーランドでワーキングホリデーをしていたことのある先輩が「ウェリントンモリーマローンズってアイリッシュバーがあって、そこでフィッシュ&チップスを食べながらキルケニーを飲むのが最高なんだ」と教えてくれたのが最初だと思う。

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実際にニュージーランドに行って、ロトルアのアイリッシュバーで初めて飲んで以来、すぐに好きになってしまった。アイリッシュビールと言えば真っ黒なギネスのイメージしかなかったが、Kilkenneyのコクのある甘味ときめの細かい泡と炭酸、そして特徴的な赤い色、そのビールに私は完全に魅了されてしまった。その後、ウェリントンモリーマローンズにも行って飲んだし、ニュージーランドのスーパーで見つけるたびに買っていた。また、その後訪れたアラスカやタスマニアでも見つければ必ず飲んでいた。

 

日本でも探せば飲めるところがあったが、少し前に日本から撤退してしまった。

そんなこともあり、春の西オーストラリアの旅ではリカーストアで見つけた時には歓喜したものだ。

私の旅とは切っても切れないビール、キルケニー。そのキルケニーが生まれたのがキルケニーという街にあるアイルランド最古のSmithwick's醸造所。

ちなみにアイルランドにはキルケニーというビールとは別にSmithwick’sというビールがある。元々キルケニーは、スミズウィッグの輸出用ブランドとして誕生したらしい。カナダやオーストラリアなどで「Smithwick’s」が発音しづらい・商標の関係で使いにくい、という理由で「Kilkenny」という名前が採用された、とのこと(AIに聞いた)。 

アイルランドに行くからには必ず行きたい、そう思っていた場所がキルケニーであり、Smithwick'sであった。今日ついにその夢がかなのだ。

朝焼けのCarlow

夜明けまでスマホで天候などの情報を見ていた。アイルランド滞在中はiphoneのデフォルトで入っている天気アプリを使っていたが、時間別の雨予報はかなり正確であることがわかったので、旅行中はそれを使っていた。今日は9時ごろから本格的に雨が降り出すようだ。キルケニーまで2時間程度。もう一杯コーヒー飲んだりすると出発は8時頃になるだろう。

朝7時頃、お腹が空いたので2度目の朝食を摂る。パンを1枚かじり、さらに昨日ダブリンの宿のフリーラックからもらったりんごを食べた。もちろんコーヒーも淹れた。

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テントから顔を出すと周囲の景色が真っ赤に染まっている。なんと鮮やかな朝焼けだろう。まるでSmithwick'sの赤のようだ。

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出発の準備をしていると、オーナーのジャガーが通り掛かり、親指を立て笑顔でうなずいた。私も同じようにして答えた。いろいろあったが面白いキャンプ場だった。

出発前のRancho Reilly'sで

服装は昨日寒かった反省を生かして、メリノウールのソックスを防水ソックスに変えた。防水ソックスは今回の旅で初めて導入した。さらにシューズの上からは、レインシューズカバーをした。上から下までレインウェアを着込み、アンダーウェアには初冬に使っているロングのアンダーウェアを、手袋は防寒テムレスを使用した。防寒テムレスは雨も防げるし、適度に保温にもなってかなり良かった。結局、旅の間、寒い日は常に防寒テムレスを使うことになった。この服装が今回の旅の服装の基準となった。


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今日もルートはGoogleに引かせた。結論から言えば、なかなかよかった。サイクルコンピューターのマウントにスマホを装着し、時々ナビを確認しながら走った。

何を勘違いしたのかCarlowからKilkenneyまで20キロ位だと思っていたのだが、実際は40キロ弱だった。

走り出ししばらくで雨が降り出してくる。f:id:independent-traveller:20251012104230j:image

なかなかの雨量だ。予想していたアイルランドの雨ライド。大丈夫、ニュージーランドでもアラスカでもタスマニアでも、そしてもちろん日本でもこのくらいの雨はあった。きちんと準備さえ出来ていれば恐れる必要はない。
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道自体は基本的には平坦で走りやすく、ほぼノンストップでキルケニーまで走り切った。時間にして2時間弱といったところか。

キルケニーへの道のどこかでカメラの三脚を落としてしまった
Kilkenny

キルケニーの街に入り、とりあえずキャンプ場に行くことにした。ここは連絡先が分かったので事前にメールで予約してあった。気合いをいれて英語の予約メールを送ったが、「空いてるからいいよ。じゃあ当日ね。」という軽い返事が来て、結局値段もわからないまま、今日に至る。

まだ午前中ではあるものの、過去の経験から言えば、テントサイトだと午前中からでもチェックインできるところが多い。今日のキャンプ場はちゃんと受付があった。

ちょうどオーナーのおじいさんがゴルフカードに乗って戻ってきた。

チェックインをしたいと言うと、「おお、今開けるから待ってくれ」といい、受付を開けてくれた。

明日は早朝の鉄道を予約してあり、早朝に雨の中でテントを撤収するのが面倒なので、一応、テントサイト以外の空きもないか聞いてみる。空きがあるのはグランピングの1泊100ユーロのところだけらしい。キャンプサイドはちなみに17ユーロ。安いな。

私は「オーケー。テントにする。」大変だろうが、この金額の差では仕方ないと思った。

テントサイトは今日も牧場の横。柵の中でポニーが数頭草を食んでいる。


テントサイトは幸い木が立っているところがあり、そこはキッチンとも近かった。そこでテントを張った。

地面が少し斜めな気がするが、まぁこんなもんだろう。

レインジャケットを脱げないぐらい寒いと思ったが半袖の男たちがいた

キャンプ場のおじいさんもいい加減なもので、テントサイトの場所だけ説明すると、じゃあと言って行ってしまった。メールのやりとりまんまである。

テントサイトやトイレ、キッチンの場所などを確認するため、ぐるぐる歩き回る、他の客にトイレの場所を聞かれたが、あのじいさん他の客にもあまり説明をしていないようだ。まぁ言っても17ユーロである。

 

テントの設営などを終え、街に出かける。キルケニー城などがある街の中心部まではそう遠くない。

 

雨のキルケニー。やがて雨は上がった

左側がキルケニー城

 

まずは昼食。いくつか調べて、「The  Fig Tree」というレストランにする。ちょうど昼時で店はごった返していたが、一人ということもあり、すぐに席に案内してもらえた。

かなりお腹が空いていたので、思い切ってフルアイリッシュのモーニングにする。コーヒーがついて15.5ユーロ。ちなみにモーニングは昼でも注文できる。

しばらくして料理が出てくる。もりもりである。

ソーセージとウィンナー、ケチャップ味の煮豆、ハッシュドポテト、たまご、トーストの半切りが4枚ベーコン2枚と言うなかなかの量であった。

雨で消耗したライドの後で空腹だったが、それでも満腹になった。おかげで夕食は軽めになった。

レストランやバーで食事を頼むとよく出てくるソース類。ケチャップ、マヨネーズ、ブラウンソースなど

ハイストリートに本屋があったので入ってみる。

ざっと全体を見て、ポストカードを4枚買った。レジをしてくれたマダムが「スタンプは?」と聞くので「ここで買えるの?」と聞くと「ある」と言う。今日は日曜日でポストオフィスは開いていないだろうから切手は諦めていたので、ここで買えてうれしい。マダムは実際に切手を私に見せながら「いい?大きいのはここに貼って、この小さいのはこの隣に貼るのよ。」丁寧に切手の貼り方まで教えてくれる。前回オーストラリアで切手を買ったBinngupのジェネラルストアでもそうだったが、ポストカードと切手を買うというアナログな行為が、ちょっと素敵な出会いを生むのは何とも旅らしいと思う。手紙を書くきっかけをくれた人々にはお礼を言いたい。

Smithwick's Exprience

Smithwick's Exprienceの予約時間が迫り、いよいよSmithwick'sへ。

予約時に送られてきたQRコードスマホに表示すると受付のお姉さんがスマホをスキャンしてくれる。しかし、うまく読み取れない。何か言っているのだが、よくわからない。彼女がスマホを操作してくれるがうまくいかない。彼女が自分のスマホの画面を明るくして見せてた。ああ、なるほど画面が暗いんだな。画面設定を操作し画面を明るくすると、無事スキャン完了。

「Perfect!」彼女と私の声がそろった。

ツアーは1ツアーで10人ほどでお客さんは外国人ばかりだった。オーストラリア、アメリカ、ドイツなど。そもそもキルケニー自体が観光地で、街には羊毛のマフラーや高そうな紳士服などの土産物もたくさん売っていた。人が多いが、店も多いし、キルケニー城など見どころも集まっている。確かに普通に観光できても良さそうだ。もっともアジア人はあまり見なかった。

Smithwick's Exprienceのツアーはときどき映像を交えながらガイドの男性が説明してくれた。残念ながら私の英語力でほとんどわからなかったが、ミニテーマパーク的なGuinnessストアとは違い、こちらの方が断然良かった。ただ自分の英語力のなさが恨めしかった。これでもDuolingoの無料レッスンを三か月続けたのだが、全く役に立たない。というかアイルランドの英語は私には聞き取りにくいのか、今まで行った英語圏の国よりも英語でかなり苦戦している。

ツアーの後半では、ローストされた麦やイーストなどのサンプルを実際に嗅がせてくれそれぞれのフレーバーを体感することができる。


英語力があるならば、Guinnessよりこちらをおすすめしたい。私の友人であれば断然こちらを選ぶのではないだろうか。

 

なお、Smithwick's Exprienceについてはこちらの方のnoteが詳しいのでこちらを見ていただきたい。

note.com

最後のお待ちかねの試飲である。Kilkenney、Smithwick'sのペールエール、Smithwick's の3種類。

ペールエールの華やかな味も良いが、キルケニーもスミデイックスもおいしい。アイルランドとイギリスぐらいでしか飲めないスミデイックスは、今日まで飲むのを我慢していた。味は両者似ているが、スミデイックスのほうが色がより赤く、こちらのほうが甘味と苦みのバランスが私の好みかもしれない。この先はあればビールはスミデイックスばかり飲んでいた。

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Smithwick'sのバーでは生演奏をやっていた。ビールの試飲はをけっこう量があった。ハーフパイントずつはあったと思う。エールビールと生演奏をしばらく楽しむとそのまま土産物売り場へ。Tシャツや栓抜きなど小さいものを数点購入した。今思えばグラスも買っておけばよかった。いや、自転車旅の前半では無理な話か。

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Smithwick's Exprienceを後にすると、キルケニー城の裏のトレイルを行く。ここはキャンプ場のお客さんが教えてくれた道だ。散歩している犬が先を案内するかのように私を先導してくれた。いい気分でキルケニーを散策しながらキャンプ場に戻った。

一つ、夢がかなった。

 

Caravan park - cycling Ireland-

Baltinglass Abbey

バルティングラスまで来れば今日の目的地であるCarlowまではもう一息である。

昼食を終えると、街のそばにあるBaltinglass Abbeyという遺跡に寄る。

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アイルランドには、こういった石造りの遺構がたくさんあるのだろう。走ってる途中にも城の跡があった。

Blessington郊外にある「Threecastles」

考えてみれば城跡やら寺院やら残る日本とある意味変わらないのかもしれない。

バルティングラスアビーでは観光に来ていた家族の男性が話しかけてくれた。

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彼自身、サイクリストでアメリカを旅していたようなことを言っていたが、なかなかの早口で私はうまく理解できなかった。

西部の街リムリックを盛んに行くことを勧められたが、今回はそこまで行く時間がない。

「今は家族ができて自転車旅なんてやってないんだけど」そう言って私の自転車の眺め、「ヘッドパーツはキングか。いいね。タイヤはシュワルベ。いいね。良いバイクだ!」と褒めてくれた。今回はよく自転車褒められるな。わかる人には私のバイクの良さがわかる。これは素直に嬉しいな。

別れ際、彼が拳を突き出してグータッチをして別れた。とってもいいやつだった。

ライド中は蛍光のジレを着ていた。地元のサイクリストはほとんど着用している

 

バルティングラスを離れ、次の目的地はキャッスルダーモット。

その先の宿泊地のカールまで25キロと、ここまで来れば問題ない。

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道も概ね平坦で、すれ違った車が「プッ」と合図をし、ドライバーが手を振ってくれた。初日からサイクリストに優しい人が多い。そういえばすれ違うサイクリストも何人も手を振ってくれた。

 

カーローが近づくにつれ、宿泊を予定しているキャンプ場が本当に泊まれるか心配になってくる。特に予約はしていない。若い頃に旅したニュージーランドタスマニアのキャンプ場では予約なんて全く必要なかったが、最近はそうでもないようで、2月に行った西オーストラリアでは、予約なしでキャンプ場に飛び込むと、時々困った顔をされた。

今回、一生懸命調べたのだが、連絡先が出てこなかった。行ってみるしかない。

 

キャンプ場はカーローの中心部から西に行った郊外にあるので、ビールなどを買い出しを先にしておかないといけないな、と思った。小さい街ならいいが、ちょっと大きな街だとキャンプ場から市街地まで離れており、買い物のために市街地へ戻る羽目になるのである。私は過去にこのパターンでビールを諦めたことがあるのだ。

そこでカーローの街でスーパーに立ち寄ることにした。小さなスーパーだったが、肉売り場が充実していた。様々な肉が並ぶ中、燻製したような鯖が売られていた。

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よくよく説明を見ると、やはり燻製した鯖だった。金色に輝き、いかにも美味そうだ。燻製好きの私としては食べてみたいところだが、頭を落としただけの丸一匹のサバは、1人には多すぎた。私は泣く泣くサバを見送った。

 

まだ胃の調子があまり良くないこともあり、ギネスのノンアルが売られていたので、ちょっと試してみようかなと思ったが、4本パックしかなくしかなく仕方なく安いビールを買った。東ヨーロッパのビールだったが味が薄かった。結局その後は買わなかった。

スーパーのレジの横のショーケースにはイクラの瓶詰めが並んでいた。アイルランドの人はイクラを食べるんだろうか?

googleマップでガイドさせるとロータリーはこんな感じで表示される



自由なキャンプ場

ようやく目的地のキャンプ場「Rancho Reilley's campsite」へ。大きな牧場のようなキャンプ場だ。開けた広い土地に中央貫くように、まっすぐ直線の道が走っている。
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両側に木とキャンプサイトが並ぶ。きれいな印象のキャンプ場だ。

道をそのまま進んでいくと、左手にブランコなどがあるキッズパークが見えた。結構充実しているようで、小さな子供たちが何人も遊んでいる。

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キッズパークの奥には動物がたくさんいた。ウサギ、モルモット、リクガメなどなど。そして牧場にはポニーがいた。

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なかなかいい感じのキャンプ場じゃないか。

 

道の終わりのRancho cafeと書かれた建物があるものの、いわゆる受付見つけられない。

さらに奥の家かと思って行ってみるが、完全に個人宅だ。

 

しばらく困ってウロウロしていると薄紫色のパーカーを着たメガネの女性が話しかけてくる。

「泊まり?予約あるの?」と怪訝そうな顔でこちらに聞いてくる。

「いや予約はしていない。レセプション探してるけど、どこなんだ?」私は聞き返した。

「レセプションはここなんだけど、今オーナーがいなくて。オーナーに電話するから待ってて。」そう言って彼女は電話をし始めた。

何度かかけるかつながらず、6回目でようやくつながった。しばらく何か話していたが、やがて電話を切ってこちらを見た。

「泊まれるわ。あなたテントとかそういうものは全部持ってるのよね?ここは5月から10月までやっていて、みんな5月にやってきてずっと滞在しているの。」

私は理解した。海外のキャンプ場ではこういう事はよくある。キャラバンパークと呼ばれるキャンピングカーで泊まれるキャンプ場に長期滞在して暮らしている人は結構いるのだ。春に行ったオーストラリアのキャンプ場にもこういう人がたくさんいた。

「あー、なるほど。私はイレギュラーな客ってわけだな。」

そう言うと彼女は「いいの。大丈夫。テントはあのキャラバンの向こうに張って、サイクリストはあの辺を使うの。バスとトイレはそこ。電源ケーブルは持ってる?電源はそこね」と一通り教えてくれてると彼女は去っていった。

常連客が初めての客に店のシステムを説明する。まるで地元の自転車のようだなと思った。

 

無事に宿泊できるとわかって疲れがどっと出た。よく走った1日だったと思う。1日目がそこまで雨に降らずに降られずに済んだのは幸いだった。

 

とりあえず言われた場所にテントを張るテントを張り、テントの中でごそごそやっていると車のクラクションの音が聞こえた。

テントから顔を出すと、黒いジャガーの乗った男性が、こちらを見て満足そうな顔して、グーサインをした。あれがきっとオーナーだろう。私もサインを返しておいた。後であったら支払いをしよう。

 

少し落ち着いたので、さっき客の女性に教えてもらったキッチンスペースというか水回りのところへ行ってみる。

トイレもバスも見てみると、ひどい有様だ。

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シャワールームにはゴミがやたらと落ちているし、一番ましなシャワーブースで水を出してみたが、お湯が出ない。初日から私はシャワーを諦めることにした。

1日ぐらいどうと言うことないだろう。

明日もシャワーがなかったら、その時はまた考えればいい。タスマニアであったようにお湯を沸かして体を拭くということでもいいかもしれない。

お腹がすいてきたので、昨日スーパーで買ったラーメンを食べてみた。

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何とも言えない味であった。スープを薄め過ぎたのか。オーストラリアで買ったインスタントラーメンはなかなかうまかったんだが。先日あるイベントでアイルランド土産の詰め合わせ景品に出した時に中に一つ入れたが大丈夫だろうか…

 

水回りの状況がそんな状態であったので、そもそも水が飲めるか心配だったが、そこは生に飲むことをやめ(アイルランドは硬水だが水道の水は飲める)、一度沸かして紅茶にしてボトルに詰めた。

私がそんなことをやっている間、キャンプ場で暮らす子供たちはその辺を走り回っては、シャワーで何かを洗ったり、お菓子を食べたり、泥をかき混ぜたり、マウンテンバイクに乗ったり、自由奔放に遊んでいる。こんなキャンプ場で育つ子供はどんな大人になるだろうか。

高校生ぐらいの女の子がトイレットペーパーを持ってトイレに入っていくのが見えた。年頃の女の子にここのトイレは辛いだろうなと思った。

私のテントサイトの向かいにいたポニー

テントに戻り、もう少し食事をする。パスタを茹でて、ツナ缶とシチュー味のシーズニング加える。ツナの風味が強くてシチュー味はよくわからなかった。ビールも開けたが、よほど疲れていたのかビールも半分以上飲まないまま、午後6時過ぎに倒れるように寝てしまっていた。

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夜11時ごろであろうか。外から大音量で音楽が聞こえてくる。どうも隣のエリアで若者たちがパーティーをしているようだ。

幸いまだ眠たかったのでそんなに問題にはならなかった。ただうるさいことには間違いない。

パーティーが終わった時間にスマホを見る。朝4時ぐらいまでパーティーを続けていたようだ。私はパーティーが終わる頃に入れ替わるように起床し、コーヒーを淹れ、パンを2枚食べた。

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オーナーはいない、水場は荒れ放題、若者は朝までパーティー、たくさんの動物、自由な子供たち。本当にすごいキャンプ場だ。いや、これこそキャラバンパークか。

これまでオーストラリア、ニュージーランド、アラスカと英語圏の様々な国でたくさんのキャンプ場に泊まってきたが、このパターンは初めてだ。

 

これだから旅は止められない。初日のキャンプ場から刺激的だった。

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走行距離88.4KM