夜明け前に目が覚める。テントの外はまだ暗い。外でガサガサ音がするが、ULの若者が朝のバスに乗って三原山に行く、と言っていたので、早めの食事をしているのだろう。
私はテントの中で今回の旅で初めて日記を書いていた。今回は毎晩疲れて寝てしまっていた。昔は疲れても毎晩何かしら書いていたのだが。
日が昇る頃、テントを出て朝食の支度をする。
七時を過ぎたので東海汽船のWEBサイトを確認。
船は岡田港から出るそうだ。あー、元町港がよかったなあ。
朝食に米を炊くかチキンラーメンを食べるか少し悩んでチキンラーメンにした。
足りなければ米を炊けばいいか、そう思ったがチキンラーメンの袋に書かれたカロリーを見て米を炊くのはやめた。この日の運動量に見合わない気がしたのだ。
片付けているとULの若者が出発して行った。
私もそろそろ行かないと。
トウシキキャンプ場は私がこれまで使ったキャンプ場でも指折りの素晴らしいキャンプ場だった。
風さえなければ言うことはないが、これはこれでいいのだ、そんな気がした。
キャンプ場から西に向かう。海岸に伸びる道だろうか、綺麗なトレイルが見える。キャンプ場で一緒になった若者のように、この島はライトなスタイルで歩くのが正解な気がした。
トウシキキャンプ場から集落を二つほど過ぎると大きな断層が現れる。
地層大切断面だ。
伊豆大島が何度も噴火を繰り返してきて形成されてきた証であり、一つの積層が150から200年ごとの噴火によりつくられているそうだ。
伊豆大島は島の大きさ以上のスケールを感じることができる島だと思う。
島の東海岸を走っていく。ときおり富士山が見える。
道は下り基調のほうが多かったと思う。この四日間で一番穏やかなライドだ。
元町地区についた。このエリアは大島の中心部。近くに温泉もあるので、元町港からフェリーが出るなら、バスで三原山山頂口まで行って、ハイキング、その後、温泉、お昼、輪行して離島、という流れを考えていたのだが、そうは行かなくなった。
作戦を変更し、温泉は諦め、元町でお昼とお土産を買って、岡田港に移動、そこからバスで三原山山頂口まで行くことにした。
いかにも地元感あるスーパーべにやでお昼ご飯の買い出し。卵とじの天丼があったのでそれを買う。正月明けの荷物が入ってきたところなのか店員さんが段ボールから商品を棚に並べていた。
元町から岡田に向かう。途中何件もスーパーがあり、立ち寄ってみる。前日に走った島の東側は商店はほとんどなく、車もまばらだったが、西側は車も人も多い。
岡田港に戻ってきた。
三原山に行くバスは11時発。ハイキング用に輪行用に使用しているオルトリーブのパッカブルバッグにレインギアとお弁当などを入れ、バスを待った。三原山までのバスは一日2便しかない。お客さんはほぼ満員だった。
30分ほどで三原山山頂口にバスが着いた。帰りのバスは13時40分発。活動できる時間は2時間ほど。今思えば、早起きして朝のバスに乗ればよかった。
バスを降りるとほとんどのお客さんが山頂遊歩道に向かって歩いていく。私は一人、表砂漠コースを歩きはじめた。表砂漠コースは火口の周回路、いわゆる「お鉢巡り」のルートとぶつかるのでそこから山頂遊歩道に戻るコースで行くことにした。
早速、周囲が黒い火山砂に覆われた景色になってくる。
岩、というより噴石という感じの荒々しい岩。
しばらく歩いていくとキャンプ場で一緒だったULの若者が向こうから歩いてきた。
「あ、こんにちは。こちらに来たんですね。絶対このルートのほうがいいですよ。この先、風がめちゃめちゃ強いんで気をつけてください。」と教えてくれた。
砂漠の丘に立つ。海が見える。
私は景色に誘われるがまま、トレイルを進んでいく。
彼の忠告どおり、途中から猛烈に強くなる。
だがなぜが、もっと先に行きたい。そう思った。
冷静になって立ち止まる。三原山が遥か左に見える。時間的にはもう登っていないとおかしい。
GPSウォッチで現在位置を確認する。
ここもトレイルはついているが、メインルートから外れている。バスの時間もあるので私は慌ててルートを戻り、周回路まで上がった。
周回路に上がる途中、焦ってバランスを崩して膝の横を岩に当ててしまったのだが、岩が驚くほど硬く尖っていた。あとで見たらズボンの下で血が出ていた。
無事に周回路から山頂遊歩道に乗り、少し走ったこともあって、バスの時間に間に合った。
バス停で例のULの若者に再び会えた。
一緒にバスで岡田港に戻り、港で彼と別れた。彼は東京行きのフェリーに乗るのだ。
私は高速船の時間まで、食事をすることにした。スーパーで買った弁当は帰りの新幹線で食べてもいいなと思い、前日食事をした「浜のかあちゃんめし」に再び入った。
前日気になっていたウツボ丼は残念ながら完売。代わりにウツボフライをいただく。
肉厚で淡白な白身が美味しい。皮のゼラチン質のところも悪くない。
汁物のほうは今回は頭ではなかったがこちらも美味しかった。
遅い昼ごはんの後、フェリーターミナルで輪行を始めた。高速船に乗る人が続々と集まってくる。
やがて高速船が港に着き、乗ってきた乗客を吐き出すと、続いて島を離れる人々を乗せていく。私は自転車を抱え、一番最後に乗った。
乗船後、すぐに船は岸を離れた。
大島に夕陽が沈んでいく。
しばらくすると伊豆半島が見えて来る。
2日前にはあそこを走ったんだ。地形で何となくどの辺りかわかる様な気がした。
4日ではあったが、またひとつ私の旅が終わる。
今回は計画も曖昧なままスタートして結局、走るとこで解決することになってしまった。若い時の感覚ではだめだなと再認識させられた。
ただ、こうして自転車に乗って遠くに行くという単純な行為を続けて出来たことは本当にありがたいことだ。
もっと遠くへ。もっと長く。
その気持ちはある。ただ、それを為すためにはただ家から飛び出してしまえばいい、というほどの時間はない。
自分が理想とする旅と今の自分ができる旅のカタチが見えた気がする。
結局、旅の終わりは次の旅を考えるのだな、と苦笑した。