定着から放浪へ 放浪から定着へ

アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

別れ -cycling NeaZealand -

ネイピア滞在2日目。

この日、ダニエルとルティアと別れた。

朝、私はダニエルと朝食を共にした。


なんだかお互い言葉が少なかった。
ダニエルはいつものように、ここがよかった、とか シマ、これからどこに行くんだ、とか聞いてきた。

私はいつものように答えていたつもりだったが、なんだか違って感じた。

ふたりとも下を向いてばかりだった。

こういうとき、何を話せばいいんだろう?

「ダニエル、コーヒー飲むだろ?豆で淹れてやるよ」

私はコーヒーを淹れはじめた。

私の折り畳み式のコーヒーバネットを見て、「そんなの見たことない」とダニエルが言うので「これはMade in Japanだ。私の"endless holiday"が終わったら送るよ。ああ、そうだ、日本にはうまいビールがあるんだ。ビールも送ってやるよ。」
と私が言うと、「いいんだ、シマ、いいんだ、そんなの」としきりに言った。

私は彼に何をしてあげられたんだろう?


今でも思い出す、はじめてダニエルに会った日のこと。
雨の中スーパーを探して彷徨っていると、一緒にスーパーまでいってくれたこと。でっかいビール二人で飲んで、さんざん話して、食事をして休んでいると、彼が新しいビールを買ってきて、「これは君の分だ」と言った彼の笑顔、なんとも印象的だった。

毎日、走り終わるとテントを張りながら、二人でビールを飲み、(となりでルティアは呆れていたが)たくさんのことをお互い下手くそな英語で話した。

私たちは分かり合っていた、と思う。

私は足を痛めて走るのが本当に辛いときもあった。
テントのポールが折れて、途方に暮れたこともあった。
降りしきる雨と強風の中、諦めてしまいそうなこともあった。

そんなとき、いつも励まし、助けてくれたのがダニエルだった。

 

「シマ、ノープロブレムさ!」

私とは20歳も違うのにガンガン峠を上り、私のような中途半端な若造を励まし、前へと進む力を与えてくれた彼は本当にかっこいいと思う。

彼はこれから南に向かい、あと2週間もすれば国へ帰る。


もう、会うことはないかもしれない。


それに気がついたとき、とても寂しくなって、
別れ際、お互いどうしたらいいか分からない私たちは
ただ、うつむいた。

 

キャンプ場で、荷造りを終えたダニエルは、最後に私とルティア、それぞれと固い握手を交わし、私たちに見送られながら、いつものように走り去って行った。

 

さらば友よ。

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 [ダニエルはカステリのジャージとビールが本当によく似合う]

 

ルティアのほうはと言えば、彼女もこの日、ネイピアを離れるのだが、バスで一旦移動するという。

「さて、私も行かないと。シマ、予定は?私バスの時間までしばらくあるから、少しつきあって。」

 

私はルティアに誘われるがまま、ネイピアの街に出た。街は相変わらず祭り騒がしい。

 

私たちは一軒のベーカリーでコーヒーを飲むことにした。

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カウンターのビスコッティを買おうとしたが、小銭がなくて困っていると、店の女性が笑って「ひとつあげる」といってビスコッティをくれた。

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[ビスコッティをくれた女性。サンドもおいしそう]

 

ルティアの好きな外の席で、しばらく話した。

ダニエルのこと、それから自分たちのこと。ルティアはまだ一か月程度旅を続けるので、南島のどこかで会えるのでは、ということになった。北島を出るとき、メールすると約束した。

 

「私、別れ際に湿っぽいのって嫌なの。じゃあねシマ。コーヒーありがと。」

素敵な40代のスイス人サイクリストはいつものやさしい笑顔で手を振り、去って行った。

 

私たちはそれぞれの道へ戻っていく。これが私たちの旅だから。私たちの道はまたどこかで交わうかもしれない。もう、二度と会うことはないかもしれない。それが分かっているからこそ、出会いを、自分の旅を大事にしようと強く思うのだ。

 

一期一会の言葉が身に染みる。

 

***

NZの旅から数か月後、ダニエルはフランスから絵葉書を送ってくれた。サイクリストの聖地モン・ヴァントゥの絵葉書だった。

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内容は”Hi,mate.We cycle for two weeks inFrance.A lot of greats. Daniel Kummer from Switzerland”と言う彼らしいシンプルなものだ。

 

それを見て一瞬、「誰だよ、"we"って。」と思ったが、きっと例のダニエルの倍ビールを飲むという彼女のことだろう。

おかしさやら懐かしさで私は静かに笑った。