ようやくやってきたネイピアの街は、ちょうど祭りの最中だった。
アールデコフェステイバルと呼ばれる祭りが行われており、クラシックカーとクラシックな装いをした紳士、淑女が街に溢れていた。
アールデコフェステイバルについての説明はニュージーランド政府観光局メディアサイト「100% PURE NEW ZEALAND」から引用させてもらう。
1931年、ホークスベイ地震が起き、ネーピアの街は壊滅的な被害を受けました。震災直後から街は復興に取り組み、当時流行っていたアールデコ様式の建築物を街づくりに取り入れたのでした。そういったことからこのフェスティバルの背景には、街の再建を支えたアールデコ建築の美しさを称えること、そして最も重要なことには、復興に向けてたゆまず努力をした人々へ敬意を示すことにあります。そして建築物はもちろん、アールデコのファッションや音楽、ヴィンテージカー、飛行機や蒸気機関車、ダンスなどアールデコの魅力あふれるエッセンスに触れ、その時代の空気を直に感じていただけるでしょう。
ダニエル、ルティア、私の三人は、この日は自由行動ということで思い思いに街に散らばった。
私は街の高揚感に飲まれるようになんだかうきうきしながら街を歩いた。
服装が決まっているマダムがいたので「写真撮ってもいい?」と聞くと「ちょっと待って、シガレットくわえるから」とポーズをとってくれた。
お茶目で素敵なマダムだった。
私にはただ街を歩き回る以外にも目的があった。
装備品の補充だ。
このニュージーランド北島は暑い陽気だが、南島は南下するにつれ寒くなるという。シルク製の寝袋のインナーシーツと3シーズンの寝袋、それからレインスパッツを買った。
3シーズンの寝袋はほとんど使った記憶がなく、そしてこの写真を見返すまで、買ったことすら思い出せなかった代物だ。帰国してすぐ、だれかにくれてやったのかもしれない。とにかく今は持っていない。
街のメインストリートでダニエルに出会った。買い物の話をし、シルクシーツをNZ大手のアウトドアメーカー「katmandu」のショップで買った、と言うと「カトマンズは安いし、ものもいい」と太鼓判を押してくれた。いい買い物をしたようだ。
実際、ちょっと寒いときや寝袋不要の暑さの時に使えるので、今でも重宝している。
「ところでダニエル。もうビールは飲んだのか」思い出したように私が言うと
「いや、飲んでない。バーに行こう。」とダニエルは即答した。
ダニエルがいい店を知っているようなので、そこに行くことにする。
バーに向かう道すがら、私は前から気になっていたことをダニエルに尋ねた。
「なぁダニエル、君の国には徴兵があるだろ、どんな感じだ?」
「大変だ。重たいライフルを担いで何キロも歩かないといけないし、自転車はシングルスピードだしな。」とダニエル。
「?自転車ってどういうことだ?」
ダニエルによれば、彼は徴兵されると自転車部隊の兵士として働くらしく、さらに自転車がシングルスピードなのは、故障が少ないから、らしい。ちなみに当日、スイス軍に配備されていた自転車はTREKだそうだ。
これは興味深い話が聞けた。やるなスイス軍。
そんなことを話しているうちにバーについた。
私たちはバーのカウンターでビールを注文し、通りの見える席に着くと、私たちは満面の笑みでビールジョッキを掲げ、いつものように明るい時間から乾杯した。