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アラスカ、ニュージーランド、タスマニアなどの自転車の旅、そのほか愛知奥三河のことなどについて書いています。

BRM100周年記念ブルベ - cycling東三河 -

「来年9月11日にフランスで最初にBRM200kmが開催されてから100周年を記念するブルベをやります。
コースは2015年の伊良湖コースです。
ブルベカード、メダルは、100周年記念の特別バージョンになります。
予定が合えば、久々に走ってみませんか?」

 

愛知県でブルベを主催する「ランドナーズクラブ名古屋」の代表、金井さんからそんな誘いのメールが来たのは昨年のことだった。

 

ブルベ(Brevet)とは「認定」という意味のフランス語で、自転車で規定の距離を制限時間内に完走すると認定がもらえる。基本は200キロ、300キロ、400キロ、600キロ。1年に4つの距離を完走すると「シューペル・ランドヌール(SR)」と認定される。日本では北は北海道から南は鹿児島まで、20以上の団体がブルベを主催している。

 

私は2010年頃からしばらくランドナーズクラブ名古屋の手伝いをさせて頂いていたことがあり、代表の金井さん、一昨年亡くなられたロングライドの巨匠石原さんと3人でよく試走に行っていた。

 

これまでに600キロを2回完走し、SRも2回獲得しているが、6年前を最後にブルベに出なくなってしまった。

その頃、3人目の子供が産まれる前で、子育てが忙しくなってきており、自分の為だけに休日の長い時間をブルベに使うことへの抵抗感と、ブルベへの慣れからそれまで持っていたロングライドへの情熱を失ってしまったのだ。

 

「ブルベか。」

一瞬、石原さんの顔が浮かんで、参加する旨、金井さんに返事をした。

 

それから半年以上経過し、9月の開催予定がコロナの影響で延期。夏の間、長距離を全く乗れてなかったので、この延期は正直ありがたかった。

 

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ブルベの朝は早い。

スタート地点である豊田市柳川瀬体育館駐車場に着くと多くの選手がすでに会場に集まっていた。バイクを準備していると声をかけられた。bucyo coffee/clt cycling teamの川合さんだ。聞けば今回ブルベ初参加という。声の調子から、ワクワク感が伝わってくる。

 

そう、このワクワク感だ。

 

黎明と共にスタート前のブリーフィングが始まる。

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出遅れた私はブリーフィング終わりの集合写真だけ何とか写ると、金井さんから車検を受けた。ライトやベルなど、必要な装備品がないと出走できないルールなのだ。

 

スタート時間になり、続々と選手がスタートしていく。見送りに来ていたTamo くんが写真を撮ってくれた。

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私は今回、後ろからスタートしてのんびり回ろうと決めていた。最近、100キロを超えると途端に踏めなくなり、早く出ると周りの選手のペースに飲まれて無駄に足を使ってしまうのではないかと思ったからだ。

 

最初はそんな思惑があったものの、気づけばスタートに残った出走者は金井さんと奥さんのいずみさんのみ。

結局私は2人についていく形で6年振りのスタートをした。

今回の200のコースは豊田市をスタートし、旧東海道を南下、豊橋から三河湾から渥美半島を西に向かい、伊良湖岬へ。伊良湖岬からは一気に東進し、浜名湖の南側、新居町まで出て、そこから折り返し再び豊橋から豊田に戻るというもの。

渥美半島の風が西から吹くのか、東から吹くのか、それによって状況は大きく変わる。

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今回のルートの多くはかつて私もブルベでよく走ったルート。金井さんと思い出話をしながらペダルを踏む。それからこの数年で更新した機材の話なども。この感じの全てが懐かしい。

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ふと思った。金井さんと知り合ってもう20年になるのではないか。そして金井さんの後ろを何百キロも走ってきたのだ。懐かしくもなるはずだ。

 

我々は順調に進み、PCと呼ばれる最初のチェックポイントのコンビニへ。ブルベでは指定のコンビニで買い物をし、そのレシートの時間で、チェックポイントの通過時間とされることが多い。

 

コンビニの後、いずみさんが後ろに離れていくが、金井夫妻はいつもこのようなスタイルらしい。いずみさんはマイペースで走るのがいいようだ。

私はそのまま金井さんについて走り、スピードの出る区間で時折り前を交代しながら進んだ。コンビニでの休憩を挟みながら、途中で合流したHさんと共に田原市の江比間にある「清水屋製菓舗」へ。

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ここは最近のお気に入りのお店である。

何と言っても補給食の自販機がある。

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こちらについては以前のブログを参考にしていただきたい。

https://independent-traveller.hatenablog.com/entry/2021/09/07/215957

 

また清水屋製菓舗さんは

東三河たまごサンドプロジェクト」https://fujii563.wixsite.com/mysite-1

というものに参加しており、特製のたまごサンド、出汁巻きたまごかつサンド380円がある。今回はこちらを購入。

ご主人はサイクリストだそうで、会計のときに「サイクリスト割引きさせていただきますね」とそのままの値段でもお買い得なサンドを更に割引きしてくれた。サイクリストに優しいお店である。また来よう。

 

後ろを走っていたいずみさんは、清水屋さんはスルーして、追い風に乗って走り抜けて行った。

 

次のチェックポイント、伊良湖クリスタルポルトまであまり時間はかからなかった。

追い風で時速40キロを軽く越えた。私はクリスタルポルトからの折り返しを警戒したが、そのままペダルを踏んだ。

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伊良湖クリスタルポルトに到着。

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何人か選手の他に、同じ日に開催されていた「渥美半島ぐる輪サイクリング」の参加者の姿が見えた。

イベント日和のいい日だ。ただ、いつもの伊良湖岬と変わらず風は強い。

いずみさんと合流し、軽めの食事。

清水屋さんのたまごかつサンドは金井夫妻にも好評だった。
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それまで一緒だったHさんはこの先の区間の向かい風を警戒して、休憩もそこそこに先に出発して行った。

食事を終え、我々も出発。

今度は太平洋岸を東へ。予想通り向かい風が強い。

この先、浜名湖の南、新居町までの50キロ区間はアップダウンの続くところで、そうでなくても辛いルートだ。しかもこの向かい風である。

ここは耐えるしかない、そう決めて金井さんと二人で走り続けた。

時速が20キロ程度まで落ちる。先頭交代しながら何とかそのペースを維持した。途中、何人かの選手を抜いていく。二人の力は強い。

ひとりだけ、先に見えるライダーで全然追いつかない人がいたが、信号待ちで捕まえてみると、なんと友人のエースくんだった。なるほど伊良湖は彼の練習ルートである。

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豊橋の伊古部にあるコンビニで休憩。いずみさんが追いつくまで休憩できること、ここが一番耐えるところと思い、ここまで来たが、まあまあボロボロだった。プリンやコーラを補給で取る。
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やがていずみさんが合流し、しばらく休憩して更に東に向かう。

相変わらずアップダウンと向かい風だったが、伊古部までの区間を思えば、まだマシであった。

PCである新居町駅前のコンビニに到着。時間的にはまだゆとりがある。

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ブルベ中の補給は欲しいと思うものを買うようにしているが、今回のヒットはこのクレープアイスだ。もっとも消耗が過ぎると胃腸をやられて補給ができなくなることがあるので、注意は必要だが。

 

ここまで向かい風だったが、折り返しの新居町からは待望の追い風。

順次に進む。

コース上にあるバイクショップ、カントリーモーニングでは店長さんとお客さんが応援してくれていた。こういうのは本当に嬉しい。
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豊橋市内のコンビニでレシートチェックを済ませると、あとはゴールの豊田に戻るだけである。
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やがて陽が傾いてくる。

ああ、そうだ、ブルベは夜を迎えて走るのだ。

こうして夜がやってきて、暗闇の時間、自分のバイクのライトの灯りだけを頼りにひたすらペダルを踏む。いつまで道が続くのか、どこまで登るのか、道は間違えていないのか。

そうした不安と常にやってくる空腹感と疲労感と闘っているうちに、やがて薄っすら空の端が明るくなる。

眩しい朝日に包まれて、美しい朝の訪れに感動しながら、だんだん強くなる眠気の中、ただただペダルを踏むのだ。

 

ブルベの感覚がまた一つ蘇った。

 

その後、我々は大きなトラブルもなく、無事にゴールのコンビニに到着した。


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時間にこだわらなけば、まだロングライドも難しくない、そう思った。

スタート地点の柳川瀬体育館の駐車場でブルベカードを提出し、完走メダルを受け取った。


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一緒に走っていただいた金井夫妻にお礼を言い、会場を後にした。

 

私は一人、日帰り湯に寄り、そのまま王将で晩御飯を食べた。

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いつも名古屋のブルベが終わるとこの流れで巨匠石原さんとその日のブルベについて、どこか辛かったとか、補給がどうだったとか、そんな話をしていた。

そして満面の笑みで高校生みたいに盛り喰いする石原さんを散々茶化したものだ。   

 

「石原さん、今回も完走できましたね。次のブルベもよろしくお願いします。」

 

空いた器を前にそう呟いて、王将を出た。